中国、日本で消費される象牙。一攫千金を狙う密猟者たち

ただ、1キロ1万5000円という値段に魅せられて密猟者になる人もいるんですね。この金額はレンジャーの一番下の階級の月収くらいなんです。1頭で13キロ位の象牙が手に入るので、一頭で年収分が稼げてしまう。地に足が付いていない人は一攫千金に魅せられて手を染めてしまうんですね。ちなみに、2013年のアジアの闇市の取引値段は1キロ30万だと言われています。

繁殖への悪影響:人間と似ているゾウの文化

アフリカゾウにこの密猟の何が一番の影響を与えるかというと、繁殖への影響ですね。アフリカゾウは35歳から40歳以上にならないとオスは繁殖に適していないんですね。体が大きいほどメスにとっては魅力的なので、20歳くらいのゾウと40歳のゾウでは、若いと、体が半分くらいの大きさなので、どう頑張ってもメスに相手にしてもらえない。でも国立公園のゾウの平均寿命はオスで18.9歳。

一番象牙が大きいのは年をとったオスです。だから、一番最初に狙われるのがオス、種としての種がなくなってしまう。そういう影響が出ます。メスの場合はメスだけで群れを作ります。全て家族で固まっているんですが、メスの群れの中でも問題なのは最初に殺されるのはリーダーの高齢のメスなんですね。おばあちゃんのゾウがいなくなると群れ自体の生存率がすごく下がってしまう。

なぜかというと、おばあちゃんは乾季でも枯れない水の場所を知っていたり、水場に辿り着くまでに人間を避ける知恵があるんですが、何年もかけて娘のゾウに教えていかないといけないのに、それができなくなってしまう。そうなると人生経験の浅い10代の若いゾウが群れを率いることになるので、群れの生存率が下がってしまうんですね。

ゾウは15年かけてサバンナでどう暮らしていくかを親が子に教えていく生き物なんですね。人間と似ているのは子供を産んだら、おばあちゃんのゾウが若いゾウに子供の育て方をガイダンスするんですが、小さいときに親を亡くすると、若いゾウが子供を死なせてしまうといった、次の世代への影響があります。

「紛争象牙」:軍資金になる象牙マネー

では、アフリカゾウ以外の影響ですと、「紛争象牙」という言葉があります。この象牙マネーから紛争の軍資金になっていることが多いんですね。これは昔から行われていて、たとえば南アフリカで軍隊の遠征をナミビア、ボツワナ、ジンバブエに出すときに、地雷で死んだゾウの象牙を持ってきて、それが「ブッシュキャッシュ」として使われていたんですね。

それが最近は、色々なアフリカの紛争や虐殺を繰り返しているグループに悪用されていることが国連の調査で分かりました。ナイジェリアで少女たちを誘拐・虐殺している「ボコ・ハラム」、スーダンの「ジャンジャビート」、コンゴの「神の抵抗軍」。彼らは子供を誘拐して、チャイルドソルジャーとして兵士になるように訓練しているんです。ケニアに影響してくるのは隣国ソマリアのイスラム過激派の「アルシャバブ」。

彼らはケニアの「ウェストゲート」というショッピングモールで67人の人を射殺したんですが、実は私の同僚もその現場にいました。私もたまたま、ここに行く約束があったんですが30分遅れてしまったので現場に行かなくて済んだんです。私の友人とその友人の友達に会いにいくはずだったのですが、友人の友達は射殺されてしまいました。

テロリストのケニアへの攻撃ですが、2007年には10件以下だったんですが2012年には100件以下にまで増えてしまいました。彼らの活動資源として、やはり象牙で得た収益というのがあるんですね。

どのような物が違法に象牙を出すのに必要かというと、国立保護区の管理施設などのコネクションがないと難しい。管理外なら必要ないですが。他にも警察、政治的なコネクションや国際的な港のコネクション、そして最終目的地の港のコネクション。

そうでなければ7トン、8トンのコンテナを違法に出すことは不可能です。アフリカで逮捕されている犯罪組織のコネクションはほとんどが中国で、ベトナムの犯罪組織も多いですね。90年代はアフリカ大陸に中国の影響はないんですが、2011年には中国が色々な道路などのインフラを整えたりだとかで、中国の進出が増えて、ポジティブな面とは裏腹に犯罪組織の浸透もあったんですね。

日本、中国で消費される象牙

2002年に押収された、ある象牙の流通ルートの調査したところ、シンガポールで見つかった7トンのうち6.2トンが加工されてない象牙だったんですね。DNA鑑定でザンビアから来たものだと分かっています。お土産屋で梱包された後にモザンビークに行って、海を渡って南アフリカに行き、シンガポール。その時はシンガポールで押収されたので辿り着かなかったんですが、このルートの最終目的地は日本だと言われています。

中国は最大の象牙消費国となっていますが、40年前には、当時の日本が象牙の消費量でトップでした。その時、日本は象牙消費量の2/3を占めていました。40年後の今、同じようなことが中国で起きています。

象牙には「違法象牙」と「合法象牙」がありますが、「合法象牙」は自然死したゾウのものや、密猟者によって殺されたけれど、象牙が残っていた場合などの象牙を指します。この象牙の取引は日本が2回、中国が1回やっていて、日本は1回目は50トン、2回目が36トンの購入取引をしています。