こんにちは、ビッグイシュー・オンライン編集部です。9/1に10周年記念イベントの第二弾を実施させていただきました。当日の内容はtogetterにまとまっていますので、ぜひぜひご覧下さい。こちらの記事では、当日の内容の要点をまとめてお送りいたします。




「成熟社会」に必要なこと



まずは浜矩子さんの講演の要旨から。浜さんは、「成熟社会」をテーマに20分の講演をしてくださいました。

・成熟社会とは何か、それは大人の社会である。では、大人の社会とはどういうイメージか。「老楽風呂」という物語がヒントをくれる。

・「老楽風呂」のあらすじ。疲れ果てたサラリーマンが銭湯に行く。風呂の縁にロダンの『考える人』が置いてある。触ってみたら、おじいさんだった。そんなおじいさんが『老楽』の大切さを教えてくれる。「肩の力を抜いて、ぼーっとしなきゃだめだよ」「気合いを入れて勝ち抜こう、としてはいけない」「戦ったらあかんで、戦う街は、ホームレスでいっぱいや」などのメッセージを伝えてくれる。

・この作品の中の『老楽』イズムはすばらしいのだが、さらに付け加えたい3つの要素がある。それは「人の痛みがわかること」「人のために動くこと」「足るを知るを超えること」

・幼児は人の痛みがわからないが、成長に連れてわかるようになっていく。『人の痛みがわかること』は成熟の証。

・人の痛みがわかるだけでは不十分。次に必要なのが、痛みを感じている人のために動くこと。これなくして、本当の大人とはいえない。

・『足るを知る』はすばらしいが、そこはかとなく「自分さえよければいい」というニュアンスが漂っている。痛みを感じる他人のために、行動していくことが大切。

・行動をする上で、ここにも3つ、大切な「三つの手」がある。それは「差し伸べる手」「抱きとめる手(包摂する手)」「握り合う手」。この三つの手が実践される社会が、本当の成熟社会だと思う。






「縮小社会」の課題



続いて、萱野さんのご講演の内容です。

・これからの社会においては、生産年齢人口が減っていく。96年から生産年齢人口が減りはじめ、2005年から総人口も減少に入った。

これまでは、人口も経済も拡大していく「拡大社会」だった。この時代は、何をやってもプラス思考でいけた。しかし、「縮小社会」ではそうはいかない。

・たとえば、出版市場の規模の変化。96年に2.66兆円、2010年には1.87兆円。生産年齢人口は8%程度しか減っていないが、出版市場は3割近く縮小している。一方で、書籍刊行点数は96年から2010年で2割程度増えている。当然、1冊あたりの売れる量は減る。

・完全に今は飽和状態になっている。編集者は過労死寸前で働いている。年10冊だったのが年20冊。しかも人も減っている。ワークライフバランスが崩れていく。頑張って作っても売れない。そして価格破壊が起きる。

・他の業界でも似たような状況が見られる。高速ツアーバスの規制緩和。98年に2,122社だったのが、2010年には4,492社に。それによって1台当たりの営業収入が8.6万円から6.3万円に減少している。

・日本総研の調査。先進国における名目賃金の比較では、日本だけが下がっている。購買力が下がり、売れなくなる、値段を下げる、さらに購買力が下がる、という悪循環が起きてしまう。

当然ながら、マーケットが小さくなっているときに規制緩和をすると、デフレが来てしまう。縮小社会においては、拡大社会で行われていた経済政策は、不幸をもたらしてしまうだろう。





浜矩子さん×萱野稔人さん「これからの日本を考える」



第二部では、お二人の対談が行われました。

縮小社会になっているにも関わらず、人々の動き方は拡大社会のまま。原発問題の周辺でも、話が似ている。『原発を止めたら、成長ができない。それでいいんですか?』という話になる。拡大社会でなければならない、という前提で現実社会をエンジニアリングしていかないといけない、という発想がある。(浜さん)

・東電の値上げについてのアンケートが行われていた。値上げ分を価格転嫁しますか?と聞かれて、価格転嫁すると答えたのは100社中3社。他の97社は内部でコスト吸収する。要するに、誰かに渡るお金が減るということ。価格転嫁をしなければ、それが購買力の低下につながり、結果的に、自分で自分の締めることになってしまう(萱野さん)

縮小社会というと、私は『楽』な社会になるイメージがある。パイが縮小するといっても、人間の頭数も減る。上手に富を分け合っていく仕組みを作ることに注力していけばいいのではないか。老いも若きも富める者も貧する者も抱きとめる、包摂度の高い社会は縮小しないのではないか(浜さん)

・パイが拡大すればトリクルダウンで、という発想を変えなければ、包摂性が上がるどころか悪化していくのではないか。マーケットが物理的に縮小するのは仕方ないが、もっと人為的な問題があると思う。包摂性をむしろ低める政策、社会になっている。(萱野さん)

人間は「陰謀」を企てているときが一番楽しい。発想も自由になり、アイデアも出てくる。頭が陰謀モードになると、不可能を可能にすることができる。そして笑い、楽しさがある。そういう発想が縮小社会においても必要だと思う。(浜さん)

・ビッグイシュー創始者のジョン・バードさんが、冒頭の挨拶のなかで『機会』という言葉を使っていた。排除に抗うためには、『機会』を増やすことが大切。これは、人々が明るく生きていく上でも大切だと思う。(萱野さん)






当日は300人近い方にご来場いただき、大盛況となりました。ご来場いただいたみなさま、本当にありがとうございます。10周年イベントは9/4にも行われます。お陰さまで満席となってしまいましたが、内容はツイッター、オンライン版にてレポートいたします!