part.2「路上生活者支援のあるべき「前提」、個室シェルター、閉庁期間の生活保障の担保」を読む

不十分な日本の住宅政策


稲葉:もやいの稲葉です。私からは、住まいの問題についてお話させていただきます。受付で住宅政策提案書を配らせていただきました。ビッグイシュー基金で委員会をつくりまして、生活困窮者をしているメンバー、住宅政策を研究している方と住まいの貧困について提案をまとめました。

提案書にも詳しく書いていますが、今回のプロジェクトでシェルターを利用した方を見ていると、住宅政策の貧困という課題が見えてくると思います。

冒頭でホームレスの3つの類型について説明をさせていただきましたが、A群とB群についていえば、まずは生活保護でカバーすべき人々だと考えられますが、ところが東京都内でこういった方々が申請をした場合、行政側は「施設に入ってください」と対応をします。

民間の業者が行っている貧困ビジネスのような施設に入れば、生活保護を受けられますと。しかし、そういった施設は衛生環境も悪く、相部屋だったり、そういった施設になじめなかったりするため、路上に戻っていく方がたくさんいらっしゃいます。

行政の統計によれば、ホームレスは多かった時期に比べて1/3に減っているそうですが、今残っている方はそういった集団生活をするなら路上の方がいい、と考えている方が多いです。そういったニーズに応えるような個室のシェルターが最低限必要だ、ということです。

今回はクラウドファンディングで集めましたが、民間支援には限界はありますので政府の責任で個室の施設を整備していく必要があると思っています。

また、民間のアパートに入るハードルが高いために、ネットカフェであったり24時間営業のファーストフード店ですごす、という方がかなりの数いらっしゃると思われます。

そういった方々向けの住宅政策はほとんど機能していないのが現状です。提案書では、様々な制度がありますが、それらがどのようにして「使えない」のかという点を説明しています。こうした住宅セーフティネットの重要性についてはひきつづき訴えていきたいと思います。



「ハウジングファースト」という考え方


中村:ふたたび中村です。「ハウジングファースト」というアメリカで始まった路上生活者の支援モデルを研修で学ばせていただいたので、それについて紹介させていただきます。

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ハウジングファーストとは、1990年代でアメリカではじまり、カナダ、フランス、スウェーデンなどで広く実践されている支援モデルです。名前の通り、まず、すぐに家に入ってもらう。本人が契約する個別アパートに入居してもらいます。利用者側がどんな生活をするか、どこに住むかというのを大切にする支援モデルになっています。

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シェルターへの不適応という話が紹介されていますが、一般的な支援のスタイルはアウトリーチで路上生活をしている方のところにいき、シェルターに行き、うまくいったら施設にいき、うまくいったらアパートに入る、というステップアップモデルでした。しかしこういったモデルではケアの必要な人ほど路上に取り残されるという問題があります。

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そこで、まずは家に入れようというアプローチが現れました。ホームレスの人が居宅に住むための準備期間が必要であると言う先入観を排して、恒常的な個別の住まいを即時提供し、それに加えてピアサポーターを含むサポートを行っています。

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そういったやり方をしたところ、費用対効果も良好ということもわかっています。

インタビューさせていただいた60代の男性は、統合失調症で8年前から支援団体を利用してアパート居住を開始しています。支援以前はベトナム戦争に行き、30年間ホームレスをしてきました。刑務所、精神科病院にいた期間も含みます。今はピアサポーターとして支援団体で働いています。

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50代の男性は双極性障害で、「今は社会に適応するために自分自身を助けていることに自分自身異誇りを思っています」ということでした。

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研修を終えてみたまとめです。ハウジングファーストは住まいを欠く方にまずアパートを提供し、利用者を中心に支援者やピアサポーター、行政が連携してサポートを行っています。このモデルには、日本でも参考にできる、すべき点が多くあると思います。


「ふとんで年越しプロジェクト」報告会レポート
1:年末年始の閉庁期間の生活困窮者、路上生活者を支援する
2:路上生活者支援のあるべき「前提」、個室シェルター、閉庁期間の生活保障の担保
3:不十分な日本の「住宅政策」と「ハウジングファースト」という考え方
4:山谷、池袋、渋谷でホームレスの人々はどのように年を越えたのか:越年越冬活動・現場からの報告
5:ボランティア医師・看護師が見た、年末年始の路上生活者支援の現状
6:路上生活者支援の新たなキーワード「ハームリダクション」「ハウジングファースト」「ネットワーク」