枝元なほみさんの「照葉樹林ごはん」、朝・昼・夜
日本の文化の基層で、日本人のおいしさの元にある照葉樹林文化。
枝元なほみさんに、「照葉樹林ごはん」朝・昼・夜のメニューを提案してもらいました。
なつかしく、あきない、心が安定するごはんです。
照葉樹林文化、という言葉は本で知りました。中尾佐助著『栽培植物と農耕の起源』という本から。ちょっとむつかしいような気もしましたが、料理を仕事にする身にはとても興味深いものでした。
照葉樹林地帯、アジアの中で椿の葉のようなつやつやとした樹木が茂る地帯では、米を主食にし、酒などをふくむ発酵食品や発酵調味料を多く使う特徴がある、というもの。比較して、例えば、新大陸文化として分けられる南米などでは、とうもろこしが主食。小麦から作るパンが主食の地中海農耕文化などもあげられていて、なるほど、日本の食の特徴はよその文化と比較することで、すごくわかりやすくなるのだな、と心に焼きついた覚えがあります。
納豆をかき混ぜながらねばねばと引く糸を見て、確かに、こりゃ納豆なぞ見たこともない文化の人が見たら、ほんとに不思議な、オーマイゴッドなものだろうなぁ、なんて思うんですね。
アジの開きを焼く匂いも、それをほぐして味噌と混ぜて焙るときの匂いも、日本人には、鼻から入って骨の髄にまで到達するかぐわしき香りなのに、朝食がミルク&ハニーの土地の人からしたら、信じられないような︿なにこれなにこれ?﹀な匂いともいえるんですよね。海に囲まれた土地で、魚介や海藻を食卓にのせ、きれいな水に育てられた野菜や米を糧にする、穏やかな平和な暮らし。
先祖が大昔から育ててきた食べ物がいとおしく感じられるようになりました。しみじみおいしい、という感覚はDNAが記憶しているものなんじゃないかしら、とも思うようになりました。
異なった気候風土のさまざまな文化の下、みんなが自分の思うおいしいを育てている、いいですよね、土地土地ではぐくまれる<おいしい>を大事に、誇りにしていきたいものだと思ってるんです。「くー、やっぱりこれだねえ」って言えるような食べ物があるって、平和で、健康的なことだとしみじみ思うんです。 (枝元なほみ)
冷や汁 4人分
【 材 料 】
アジの干物 2枚
白いりごま 大さじ5
味噌 大さじ5
水 3〜4カップ
きゅうり 1本
みょうが 2個
細ネギ 3〜4本
麦ご飯 適量
【 作り方 】
1.アジの干物はグリルで焼いて、皮と骨をよけて身をほぐす。
2.みょうがは輪切りにして水に放す。きゅうりも輪切り、細ネギは小口切りにする。
3.すり鉢で、いりごまをすり、1の干物を入れてすりまぜ、味噌も加えてペースト状にすり混ぜる。ゴムベラで、すり鉢の内側にすりつけるようにしてから、直火にかざして、軽く焦げ目がつくまで焙る。
4.水を少しずつ加えて溶きのばし、2を浮かべる。麦飯にかけていただく。
※ 糠漬けのにんじんときゅうりを 添える。
photos:浅野一哉
<後編はこちら>
えだもと・なほみ
料理研究家。料理雑誌やテレビ番組で活躍中。『枝元なほみさんの根菜&豆おかず』別冊主婦と生活、『おりおりのおりょうり』集英社be文庫、など著書多数。
『クッキングと人生相談~悩みこそ究極のスパイス』
読者から届いた48の人生相談に、料理研究家の枝元なほみさんが「悩みに効く料理」を作り、ホームレスという人生の“どん底”の経験した『ビッグイシュー日本版』販売者が回答。ほろっと涙がこぼれたり、くすっと笑顔があふれてしまう、世界にまたとない、ぜいたくなレシピ本。
¥ 1,680
(2006年9月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第56号より)