震災から3年、被災地・仙台で何が起きているのか?―現場から、2014年春の状況をレポート

被災地最大の都市、仙台。震災後、津波などで家を失った方が仮設住宅に暮らし、県内外から復興の仕事を求めて来た人が集まっています。 ビッグイシュー基金では、仙台で路上生活者の支援を行っている団体とゆるやかな関係を持ち、応援してきました。(ビッグイシュー基金「被災地の路上から」)。2014年春の状況をお知らせします。

part.1ではNPO法人POSSE、part.2では、一般社団法人パーソナルサポートセンター、part.3NPO法人仙台夜まわりグループについて紹介します。


就労支援と送迎バス運行【NPO法人POSSE

東京に主拠点をもち、労働相談や生活支援を行うNPO法人POSSE。2010年に発足した「仙台POSSE」は、震災直後から仮設住宅への引っ越しの手伝い、仮設住宅からの送迎バス運行、学習支援など、被災者支援に力を入れて活動してきた。現在は、就労支援と送迎バス運行が活動の柱となっている。この3年を振り返っての変化、そして現在の課題について、事務局の青木耕太郎さんに話をうかがった。

「仕事についても自立できない」――再就職相談の増加

「POSSEでは、就労支援を2012年4月から開始しました。宮城県の助成を受け、仙台市との協働事業として行っています。開始した当初は、仮設住宅への転居によって保育や介護サービスが受けられずにいたり、震災によって自営業を廃業したり、また生活再建への不安からうつ病を発症したりなど、すぐに仕事に就くことが難しい要因を抱えた人からの就職相談が目立ちました」と青木さん。
 

しかし、そうした就職阻害要因を抱えたまま、すぐにつける仕事をマッチングするのでは、労働市場のいちばん不安定なところから抜け出せない。
 

「生活の改善を目指すためには、その人の状況を引き上げていく支援が必要です。経験や技術がない場合には、たとえば職業訓練の受講や資格をとることで、少しでも有利に就職できるようすすめています。これまで不安定な仕事が続いて、転職を繰り返さざるを得なかった人に対しては、信頼関係を築きながら長期的なキャリアのビジョンを描けるようサポートしています」。POSSEで就労支援を始めた頃は、雇用保険の失業手当延長や義援金の支給があったため、ある程度被災者の生活も安定しており、こうした時間をかけた支援が可能で、適切な就職につながることが多かったという。
 

様子が変わってきたと青木さんが感じたのは、2012年の暮れから。雇用保険の延長が終わり、義援金もなくなり、食事の回数を減らすほど生活に困窮して「どんな仕事でもいいから、すぐに就かないと困る」という人が多くなってきた。時間をかけた支援を受ける余裕はなく、本人は目の前の仕事に飛びつかざるを得ない。その結果、増えたのが「今の仕事では食べていけない、続けられない」という再就職の相談だ。
 

「今ある仕事の多くは復興関係。建築作業にはすぐに就けても、体力的にもきつく、労働条件が悪いので長くは続けられない。また、復興事業のほとんどが有期雇用で、期間が終わればまた仕事を失ってしまいます。すぐに仕事に就きたいという切迫した思いを見越した求人広告の『カンタン』とか『未経験者歓迎』『即OK』という言葉につられ、細かい条件まで理解しないまま就いてしまう人も少なくない。『月8万以上は稼げる』という宅配業務のはずが、行ってみると個人請負契約で経費は自己負担、働いても赤字になったという人もいました」

震災から時間がたって見えてきたのは、仕事に就いても生活再建につながらないという課題だ。今年1月には、ブラック企業対策仙台弁護団と共催して、宮城県で働いている若者を対象にした「せんだい・みやぎ、若者のブラック企業相談ホットライン」を開催。一日だけで28件もの相談が寄せられた。全国向けホットラインでも一日15件程度しかないというから、切実な状況がうかがえる。ここでの相談から労働裁判に発展したケースも出ている。今後は就職支援とともに、POSSEの活動の原点である労働相談にも力を入れていきたいと青木さんは話す。
 

「今、相談に来ているのは、震災後に一旦は仕事についた人たち。ずっと失業していたという人は少ない。『仕事は選ばなければある』『仙台はもう大丈夫』という声がありますが、求人倍率が一見高くても、生活できないほどの低賃金、長時間労働、短い雇用期間など、労働環境がひどいために自立できないのが現状。就職支援だけでなく、同時に働き方、職場環境を変えていく必要があります。

これは決して仙台だけの問題ではない。社会全体の問題として伝えていかなくてはいけないと思っています」

仮設住宅に取り残されていく人たち

さらに、昨年末から増えているのが、生活に困窮した60代後半以降の高齢者からの就職相談だ。復興公営住宅の募集が始まったため、今後家賃が発生することに不安を感じて、仕事を探し始めたのではないかと青木さんは感じている。

2013年8~12月にかけて、POSSEと東北学院大学経済学部の佐藤滋ゼミが協同して、仙台市宮城野区にあるプレハブ仮設住宅入居者40人への聞き取り調査を行った結果がある。

日中の調査のため、回答者は高齢者が多いが、平均収入は震災前から下がって179万円。もともと生活が困難だった世帯が、震災でさらに大変になっている状況がみえてくる。

「生活保護の最低生活費以下で暮らしている世帯も12世帯もありました。しかし、そのうちの9世帯は生活保護を受けていません。どうして受けないのかというと、『親族に迷惑がかかる』『行政の世話になりたくない』などネガティブなイメージをもっている人が多い。なかには行政の窓口に相談に行ったけれど相手にされなかったという人もいました」

<平均世帯収入の推移>

震災前 249万円

震災直後(仮設住宅入居時) 168万円

現在(調査時の収入) 179万円


<生活困窮時に生活保護を利用するか>

利用する 17世帯(利用すると答えたうち4世帯は、最低生活費以下の収入にも関わらず、まだ生活保護を利用していない)

利用しない 23世帯(うち5世帯が最低生活費以下の収入にも関わらず、生活保護を利用していない)


「利用しない」と答えた世帯の自由記述欄の理由は以下のように分けられる。

「親族に迷惑がかかるから」7世帯、「行政の世話になりたくないから」7世帯、「手続きが負担だから」3世帯、「生活保護を利用することは恥ずかしいから」2世帯、「その他」8世帯となった。

※『「東日本大震災後3年目における仙台市応急仮設住宅の入居者生活実態調査」の結果に関するご報告』(2014年5月16日 特定非営利活動法人POSSE)より抜粋

すでに、ある程度余裕のある世帯はプレハブ仮設住宅から定住先へと移っていき、生活が大変な世帯が取り残されている状況があるという。今回の調査では、プレハブ仮設住宅を出たあとの見通しについては、25世帯が「復興公営住宅に入る」と回答しているが、家賃が発生することに経済的な不安を感じている人は多い。そもそも復興公営住宅の数が足りていないため、抽選に外れた場合には、民間の賃貸住宅に入ることも経済的に難しく、住居のあてがなくなる世帯も出てくる可能性があるという。
 

「震災で自営業を廃業した人や、長年勤めていた地元企業での事務仕事などを失った高齢者が、土地勘も人脈もない仙台で転職することは現実的にはすごく厳しい。生活保護を受給することもできますが、生活保護が手続き的にも心理的にも被災者の手の届くところにないのが現状です。被災者の方までもが必要な制度にアクセスできない社会っていったい何なのでしょうか。復興公営住宅への移動が始まるなかで、これからこうした人たちが取り残されないように、どのような支援が必要なのか模索していかなくてはなりません」


書籍案内


NPO法人POSSEの各スタッフが、仙台での被災地支援を通じて見えてきた実態を報告するとともに、いま必要とされている制度や支援の在り方についても本書にまとめている。 2014年5月刊。


part.2に続く