首都圏3千万人の避難の恐れもあった!法定の避難計画も、立てられない日本 [原発ウォッチ!]

Genpatsu

(2013年2月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 209号より)

首都圏3千万人の避難の恐れもあった!法定の避難計画も、立てられない日本

報道によれば、福島原発事故を受けた新たな防災計画の作成が原発周辺自治体でほとんど進んでいない。3月18日が法律上の期限だが、難しいという。

防災計画の見直しの結果、避難対策を準備する範囲を原発から半径30キロメートル程度に拡大した。これによって、対象となる自治体が従来の3倍の135自治体に増えた。

従来の範囲は10キロメートル程度だったので、この範囲の自治体はすでに原子力防災計画があり、より具体的な計画に改正していくことになる。この範囲を超える自治体は一からつくらなくてはならない。事故時の情報入手など電力会社と安全協定を結ぶ必要もあるので、時間もかかる。電力会社はどうやら協定の締結に消極的なようだ。合意を得るべき自治体が増えることで、何かと面倒が増えそうだからだ。

自治体としては、この他にもあらかじめ避難先を決めておかなければならない。従来はおおむね同じ自治体内でコンクリートの建物に避難する計画で済ませていたが、今後はより遠くへ避難する計画が必要になる。遠方の自治体に協力をお願いし、どこへ受け入れてもらえるか十分な協議をしなくてはならない。避難が長引くことも考えると、受け入れ場所は相当に限定されるだろう。容易なことではない。計画の作成が遅れるのも無理はないと言える。

いっそう深刻な問題もある。30キロメートルに広がったことで、対象となる人口が爆発的に増えることになる。たとえば、東海原発では対象人口が93万人に膨れあがった。60人乗りの大型バスで、のべ1万5500回もの輸送になる。500台のバスでピストン輸送しても、10日以上かかるだろう。浜岡原発でも74万人に増えた。地震で道路が寸断され、また、避難車両で道路が渋滞することになれば、いっそう避難に時間がかかることになる。

30キロメートルの範囲で十分か?という根本的な問題もある。福島原発事故で、近藤駿介原子力委員会委員長は菅直人総理大臣(当時)の要請で最悪の事態を想定した。これによれば首都圏3千万人の避難も考えなければならない事態になる恐れもあった。

人口密度が高く、実効性のある避難計画が立てられない日本は、原発を建てるには適さない国といえよう。

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)