1年間棚ざらしの被災者支援法。いま市民が実効あるものにできるか?

Genpatsu

(2013年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 219号より)

1年間棚ざらしの被災者支援法。いま市民が実効あるものにできるか?

福島原発事故子ども・被災者支援法の政府担当者が解任された。理由はツイッターで悪態をついていたからだった。「今日も大量被弾なう」「4問被弾—ああ面倒」。

被弾とは、国会での質問に対して答弁内容を準備する仕事のこと。また、3月7日に衆議院議員会館で開催された院内集会の様子について「左翼のクソどもからひたすら罵声を浴びせられる集会に出席」「白黒つけずに曖昧なままにしておくことに関係者が同意。こんな解決策もある」と書き込みをしていた。腰が低いとの評価もある人物の本音がツイッターで出ていたのかもしれない。

その人物は水野靖久参事官(45)で総務省キャリア。千葉県船橋市の副市長を務めたこともある。彼が担当していたのは同支援法の基本方針づくりだ。

法は、原発事故の被災者の生活を守り支える施策を推進することで被災者の不安の解消と安定した生活を実現させることを目的として、昨年6月に成立した。政府の避難指示によって避難した人たちだけでなく自主的に避難した人たちも対象となっている点ですばらしい法律だ。

そして、具体的な施策実現のために、たとえば支援対象地域などの「基本方針」を定めることが規定されている。ところが、法成立から1年がたつが、この基本方針がつくられないため、いまだに法に基づく支援が実施されない状態が続いている。

国会内外で基本方針策定を求める声が上がっているがなかなか定められないできたのは、被災者の実情の把握に時間がかかっているというより、政府の姿勢が問題だった。政府の中に被災者支援法を曖昧なままに放置して骨抜きにしようとする姿勢があることが、この事件ではっきりした。

水野氏は担当から外されたが、これで解決したとは言えない。法は民主党政権下で成立したものだが、そもそも原発を政策として積極的に進めてきたのは自民党であり、福島原発事故の責任の一端も自民党にある。

その責任をとって被災者支援法を実のあるものにすべきだが、どうやら姿勢は被災者でなく産業界に向いているようだ。私たち市民が法の動きに注目して、実効あるものにしていくように声をあげていきたい。

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)