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溶け落ちた核燃料は
原子炉脇からも漏れ出ていた?

福島原発事故から6年が過ぎようとしている。東京電力は1月26日に、核燃料が溶けてメルトダウンした2号炉の炉内調査を実施し、内部の様子を順次公開した。制御棒の交換用のレールを利用して格納容器の外から中の原子炉容器の下部までカメラと放射線測定器を挿入して映像やデータを得たものだ。
燃料が高温になり、周囲の金属と一緒に溶けて固まった(燃料デブリ)と考えられる小さな塊があちこちにあった。カメラが入ったのは原子炉の底ではなく、底部から数メートルの高さの格子状の足場のところである。まだ、デブリと特定されていないが、そう考えるのが妥当のようだ。

放射線量はなんと530シーベルト/時を観測した。その後の調査でも同様に高い線量が観測された。この非常に高い線量からもデブリと考えられる。人間は積算7シーベルト被曝で死亡するといわれるため、傍らに立てば1分も経たないうちに致死線量を浴びることになる。この値は原子炉の下部ではなく原子炉自体を支える構造物(ペデスタル)の外側で観測された。下部は20シーベルト/時、それ自体は高い数値だが、注水による遮蔽効果であろう。

これまで、「燃料が溶けて原子炉下部を貫通して炉外へ落下した」「1号炉はほぼ全量が落下」「2号炉や3号炉は一部が原子炉内に残っている可能性が高い」と説明されてきた。公式な評価は出ていないが、従来の説明では辻褄が合わない。なぜならペデスタル外側が非常に高い数値を示しているからだ。このことは、燃料デブリが下部へ落下しただけでなく、原子炉の脇を溶かして漏れ出たことを疑わせるものである。

東京電力は、今後さらに調査を継続してペデスタル内部の様子や放射線量のデータを得たいとしているが、果たしてできるだろうか?

画像を見るとペデスタル内部の格子状の足場(グレーチング)は一部が大きく脱落、調査ロボットは走行できない。しかも、強い放射線で電子機器は短時間で破損する。

高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体は、およそ1トンの使用済燃料を処理して出てくる放射性物質約50キログラムを閉じ込めたものである。ガラス固化直後の表面の放射線量はなんと1500シーベルト/時である。わずか20秒ほどで致死線量となるほど高い。2号炉には60トンほどの燃料が入っていたから、燃料デブリがとてつもなく高い放射線量になり、今後の作業の困難さをうかがわせる。

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廃炉に40年、費用は8兆円以上
準備調査の完遂すら困難


一つの目的のために一つのロボットが開発されている。1号炉も同様の調査が計画されているが、この調査のためのロボットが2月に開発された。調査はこれからだが、1号炉はほぼ全部の燃料が原子炉内から溶け落ちているとされ、グレーチングの上をロボットが移動できるか疑問である。これまでも途中で引っかかって回収できなかった調査ロボットは一つや二つではない。

廃炉費用は昨年12月に見直され、従来の2兆円から8兆円と一気に4倍に跳ね上がった。それでも足りるかどうかはわからない。なぜなら費用見積もりを積み上げて評価できないので、米国で起きた燃料溶融事故(スリーマイル島原発事故)の廃炉費用をベースにかなり荒っぽく数十倍に見積もった結果だからだ。

東京電力は、40年で廃炉作業を終わらせるというロードマップを描くが、この最大の難関は燃料デブリの取り出しだ。ロードマップによれば、デブリ取り出し方針の決定は今年前半に、その方法は来年前半に確定するとしている。これは当初計画からみれば3年程度遅れている。しかし、今回の調査で燃料デブリ取り出しの準備調査を完遂することが極めて困難で、方針の決定もさらに遅れる可能性が出てきた。

福島県知事は廃炉の遅れが福島復興の妨げになるとロードマップの先送りに強く抵抗しているが、技術的困難さに直面しているのだから、放射能がある程度低下するまで長期の安全保管を含めた柔軟な対応が必要ではないか。費用の点でもその方が安くつき、国民負担も減るのだろうから。


(2017年3月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 306号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)







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