第20回グローバル・ストリートペーパー・サミット開催中 (2016年6月アテネで開催)にて、ギリシャの元財務大臣ヤニス・バルファキス氏がINSPの独占インタビューに応じてくれた。( 前編はこちら

Q. ドイツ政府はギリシャとの協議を打ち切ったことで散々たたかれています。
当然の仕打ちでしょうか?メルケル首相もこの件では非難されていますが、難民受け入れ姿勢では賞賛されています。

A. 非難を受けて当然の人などいない。だが、ドイツ政府はすべきことを否定したのだから厳しい批判を受けて当然だ。人の命がかかっているのだから。
非難ではなく厳しい批判を、とりわけドイツ国民からの批判を受けるべきだ。ドイツ国民は政府のとばっちりを食うべきではないのだから。まだ国民は政府がつくり出している危機の深刻さを体感していないが、時間の問題でしょう。体感レベルになった頃には、状況はかなり深刻です。

Q. ギリシャ危機はドイツにも影響するということですか?

A.  影響はすでに出始めている。例えば、反EUを掲げる政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進、マイナス金利政策によるドイツ財政の悪化など。国民も不満を感じ始めている。黒字国への影響は何かと遅れて出るものなので、まだギリシャほどではないが。

 難民問題については、メルケル首相が「ドイツは難民の皆さんを歓迎する」と述べたとき(2015年9月の演説)、私は真っ先に祝福を送ったひとりだ。ドイツの新聞「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」紙にも、「メルケル首相のおかげで欧州人であることを誇りに思う」と寄稿したくらいだ。それなのに、たった1〜2ヵ月後に、ドイツ与党内での反発を受け、メルケル首相はオーストリア政府に国境封鎖を示唆したのだ。さらにはトルコと新条約の交渉を始めたので、私の中にあった彼女への信頼感は、難民問題も含めガタガタに崩れてしまった。

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ギリシャのアテネで開催された第20回国際ストリートペーパーサミットにて、基調講演のスピーカーとして各国代表の前で話をするヤニス・バルファキス元ギリシャ財務大臣。Credit: INSP.ngo/Dimitri Koutsomytis

Q.スイスは最近(2016年6月5日)ベーシックインカム制度の導入の是非を問う国民投票を行い結果は否決でした。これは間違いだったと思われますか?

A.スイスでの議論に私も呼ばれて参加をした。そこで、なぜベーシックインカム制度(※)が必要不可欠となっているかを説明した。

その理由は社会的正義なんかではない。資本主義を安定させるために不可欠なのだ。技術革新はいまや転換点を迎えようとしている。

新たな技術が、新しく生み出す以上の数の仕事を奪うという現象は、過去300年を振り返ってみても初めてのことだ。新たな技術がこれまであった仕事を無きものにしてしまうことはあったが、常にそれ以上の数の新たな仕事を生み出してきた。しかし、今、我々は何百万という仕事を人々から取り上げる一方でそれに代わる仕事を生み出すことができていない。

富は人口の0.1%の人々にますます集中するだろう。それは、機械が生産可能な物の総数と需要のバランスが崩れることを意味する。

機械は労働者にとって代わることはできるが、そこで作られた製品を購入することはないからだ。そうなると恒久的なデフレ基調が続く。

それを改善する唯一の方法で、最も簡単なのは、市民全員が資本主義における総資本のシェアホルダー(株主)だと考えることだ。

皆に(株の)配当がある。ベーシックインカムを資本主義経済全体の総資本の株主配当だと考えてみたまえ。マクロ経済的視点から見てもこれは理にかなっている。なぜならば、皆、手にしたお金は使うからだ。そうして、生産された商品を実際に人々が買うことができるようになる。

国家社会主義への移行といった(すでに試みられ失敗した)過激な方向転換をせずに、社会を安定させる唯一の方法といっていい。

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©photo-ac

(※)ベーシックインカム:全国民に一定額の現金を無条件に給付する制度。スイスでは2016年に導入推進派が国民投票に最低限必要な10万筆を超える署名を集め投票が実施されたが、賛成23・1%、反対76・9%で否決された。投票率は46・3%だった。

Q. あなたは権力を手にしていながら、なぜ辞任されたのですか?

A. 政府の要職に就いていただけで、権力など持っていなかった。
政府の一員であることと権力があることはまったく別問題だ。我々政府には何の力もなかった。あったのは、欧州中央銀行にとって極めて重要な金融商品から撤退するぞと脅すことでかろうじて得られた力だけ。このわずかな力を用いて、一気に有効な合意を取りつけようと意見が一致したから私は入閣を受けたのだ。

それなのに、私はその商品を使うことを禁じられ、ギリシャ政府は降伏し、すべての力を失った。だから、現在のギリシャ政府は、北アイルランドの村長ほどの力も持ち合わせていない。EUからEメールひとつでコントロールされており、メールが届いたら政府はその指示どおり動くだけだ。

Q.あなたは「政府が公約を実現できなければ辞任する」と言って実際にそうされました。これほどまで有言実行を貫ける政治家は、あなたが辞任された今、他にいるのでしょうか?

A.私は政治から離れたわけではなく、現在やっていることも政治的活動だ。だから、ここにいるさ!
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Credit: INSP.ngo/Dimitri Koutsomytis

Q.大臣としてではない政治活動ですか?

A. 大臣の座はひとつの道具だ。他の道具と同じで、使うには最適な時と場所というものがある。わたしは、国民を痛めつけるために道具を使いたくはない。何か前向きなことができるのなら、政府に戻ることもやぶさかではないが、大臣でいたいがために国民を裏切ってまでその座にしがみつくことはしない。

Q. TTIP(環太西洋貿易投資協定)についてはどのようにお考えですか?

A. 民主主義と人類に対する大きな脅威だ。大臣時代、交渉資料を読むにあたり守秘義務契約を交わしたので詳しい内容は話せないが、TTIPがいかに間違ったものであるかは断言できる。

しかし、EU離脱に投票することで反TTIPになると考えている英国の友人たちには、「寝ぼけるな!どこの世界の話をしてるんだ?」と言ってやりたい。離脱派が勝利すれば、ボリス・ジョンソンが首相になり、保守党の重鎮たちが政権に入ればTTIP推進派が増えるのは目に見えている。だから、私の同志でもある英国左派メンバーが、離脱に投票することで反TTIPになると考えているなんて、私にはさっぱり理解できない。

Q. EUの体制に異を唱えつつも、心の奥底ではご自身を欧州人だと考えているのでしょうか?

A.欧州人と考えているからこそ、英国のEU離脱やギリシャのEU離脱に反対活動を行ってきたのだ。 そう、私は欧州主義者だ。
1920~30年代であれば何をしただろうか?当時のヨーロッパにおける権力に反対したはずだ。欧州主義者であり、人道主義者であり、欧州の分裂を望まなかったからだ。それは今日でも同じこと。真の欧州人であればこそ、EUやドイツ政府などあらゆる権力に対し、戦いを挑まねばならない。ただし、今ある連合体(EU)の分裂を加速するようなやり方であってはならない。


Q.ストリートペーパーの販売者や読者など、政治権力を持たない一般の人々が、より公平な社会、より良い政治・経済システムを築くには何ができるでしょうか?

A. まず、ストリートペーパーの製作者には「良い雑誌を作りなさい」と言いたい。そして、ホームレスの人々をできるだけ紙面づくりに巻き込むこと。彼らに参加してもらうほど良い雑誌になるからだ。さらには、このような活動をより広い政治抵抗力と統合できる方法を見つけ出すこと。
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ストリートペーパー「Shedia(筏の意)」販売者(「Shedia」公式サイトより)

Q.雑誌作りに関わっていないその他の人々はどうでしょうか? デモ参加などの抵抗運動に加わるべきですか? こうした活動は今でも意味を持ちますか?

A. もちろんだ。だからこそ私も「民主的ヨーロッパ運動2025(DiEM25)」に全精力を注ぎ、ヨーロッパのあらゆる運動を統合できる政治的インフラ構築を目指している。何度も言うように、成功するかどうかが重要なのではなく、こうした努力そのものが傷ついた欧州を癒す多くの副作用をもたらすのだ。


Q. 本当でしょうか? デモに参加しても誰にも見向きされていない気持ちになります。

A. 見向きはされない。しかし、勇敢に失敗を重ねることこそが、進化が起きやすい土壌をつくり出すのだ。


Q.「民主主義の赤字」(*)と、右派・大衆主義者・移民排斥派政党の台頭には何か関係があるのでしょうか?

A.負債デフレによる危機とナチスの台頭には直接的な因果関係がある。
負債デフレの危機に陥ると、官民ともに借金が増え、所得は減り、物価は下がり、政情不安リスクも高まる。そうなった時、権力層は、徹底的な改革の必要性から目を背けられる唯一の方法として、ますます権威を振りかざすようになる。

希望が失われ、債務が増え、国家が権威的になると、国民の間に分裂が起きる。何もかもを外国人のせいにする安易な主張に同調する者たち、そして、急進的になる者たち(**)に二極化していく。そして、光と闇の壮大な戦いが始まるのだ。1930年代は、闇の勢力(*ナチズムを指す)が勝利したが、今回はどちらが勝者になるのか? それが問題だ。

*「民主主義の赤字」:欧州統合が進む中で、EUの決定機関に対する批判概念として生まれた言葉。
** 急進派が支持する政治家としてバーニー・サンダース(米国の政治家)やジェレミー・コービン(イギリスの政治家。現在は野党・労働党党首)を挙げている。


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近年、ヨーロッパでもっとも自殺者が増加した国は?緊縮経済下のギリシャと世界各地の自殺予防対策について(ギリシャのフリーペーパー『シェディア』のレポート)

▼関連リンク

ヤニス・ バルファキス:資本主義が民主主義を食い尽くす-今こそ立ち上がろう(外部リンク:TED)

▼ヤニス・バルファキス氏の書籍
『黒い匣 (はこ) 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命――元財相バルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層 』

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