アフリカゾウの密猟対策のために、NPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた滝田明日香さん。今回は、東アフリカを襲う干ばつ、災害を利用したケニアでの土地の収奪と部族間抗争について、滝田さんからレポートが届いた。

303takitasan-kao











インディアンニーニョによる東アフリカの干ばつ

過去半年ほどの間に、ケニア中部に位置するライキピア地方での治安がかなり悪化している。今年に入ってからさらに状況は悪化し、何人もの人命が奪われる惨事になりつつある。ライキピア地方では、何が起こっているのか? それは干ばつという傘に隠れた土地の略奪だ。

309kenyamap


ケニア全土でこの半年ほど、例年になくひどい乾季に農民たちが頭を抱えてきた。長引く干ばつは、ケニアだけではなく東アフリカの多くの国に影響を与え、ケニア、エチオピア、ソマリアなどでは食料の値段が倍になるなど多くの人の生活に問題が出てきている。

この干ばつは、インディアンニーニョ(※)と呼ばれる現象によって起きている。エルニーニョ現象とは「太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象」であるが、インディアンニーニョは同じ現象がインド洋で起きることを言う。
この現象によって、インド洋から内陸に流れる風が通常よりも乾いた風になってしまっている。インド洋からの湿気によって起きる10~12月の小雨季と3~6月の大雨季に頼っている〝アフリカの角〟の国々の農民にとって、インディアンニーニョは悲惨な出来事をもたらす。そして、このインディアンニーニョはエルニーニョと同様、地球温暖化によって今後さらに悪化する傾向にあり、干ばつが毎年の出来事になることが予測されている。

草、水豊かな地域で略奪が頻発。一番怖い、銃を使う家畜泥棒事件

気候の変化によって起こっている東アフリカの干ばつに、ケニア内で一番ひどく影響を受けている地域は、北部に位置するツルカナ地方、西ポコット地方、サンブル地方とバリンゴ地方である。問題になっているライキピア地方は干ばつにそこまで影響されていない。
では、なぜライキピアが問題になっているか? それは、ライキピアが干ばつでカラカラになってしまった4地方と隣り合わせになっている地域だからである。つまり、ライキピアにある土地は、ツルカナ、西ポコット、サンブルとバリンゴから草を求めてやってくる遊牧民で溢れかえってしまっているのだ。
当初は干ばつから起こってきた問題だったのだが、今年はケニアの大統領選があることから、北ライキピア地方の国会議員が、この干ばつという災害を遊牧民からの政治的なサポートを得るチャンスに利用しようとした。それが、ライキピアの土地略奪問題に発展してしまったのである。
 
ライキピアに家畜を連れてやってきたポコット族とサンブル族の戦士の数、おおよそ1万人。そして、彼らの家畜は13万頭だと想定されている。北部のツルカナ地方、西ポコット地方、サンブル地方は、内戦状態だった隣国のスーダンやソマリア、そしてエチオピアからも違法銃器が簡単に入って来る無法地帯である。この3地方だけでも2万5000丁の自動小銃が出回っていると言われている。そのため、ライキピア地方に移動してきた戦士たち1万人のほとんどが、違法な自動小銃を持ってこの地にやってきた。彼らは、砂漠同様の過酷な土地からやってきたスワヒリ語も英語もわからないハードコアな戦士たちである。

ケニアで一番怖いのは、強盗でも密猟でもなく、自動小銃を使って行われる家畜泥棒事件である。この青年たちは、牛泥棒から家畜を守るため、幼い頃から武装して暮らしてきている。そして乾季が長引くと、他の部族が住む草と水のある地方に移動し、時には民家を襲って人を殺し、家畜を略奪してその草と水を奪い取ることも繰り返してきた人たちである。
気候がよくて作物が育つ地方に住む農耕民族は、農地を耕すために土地に定住するライフスタイルを取り、定住したからこそ、隣に住む人ともうまくやっていこうと隣人と友好的な関係を作り出す。一方、草と水が限られた場所に住む遊牧民のライフスタイルは、自分の家族と家畜のために、その少ない自然資源を勝ち取るために常に移動している。自分たちが生きのびるためには、他人からも資源を奪い取らなければならない。なので、過酷な環境で生きる彼らの牛争奪の戦いは人の命が奪われるほど過激なのである。

放火、射殺、野生動物虐殺-牧場乗っ取りへあらゆる嫌がらせ

そんな彼らの気性とライフスタイルを自分の利益のために利用しようとしたのが、北ライキピア地方の国会議員マヒュー・レンプルケルだった。彼はライキピア地方に移動してきた戦士たちに大牧場を乗っ取れと告げ口をし、銃器も配布したと噂されている。戦士たちはライキピアにたどり着くと、まず牧場の電気フェンスを破壊し始めた。
そして、牧場内にあった施設(農場主の家や観光用のロッジなど)に放火した。農家の家畜や犬を射殺し、牧場内の野生動物を大量虐殺した。シマウマやバッファローを射殺し背中の皮から彼らが使う皮の紐を作り、ゾウを射殺し象牙を取り、妊娠中のキリンを射殺し腹の中から胎児を引きずり出した。農場主がすべてを失ってその土地を出て行くように仕向けるため、ありとあらゆる嫌がらせを行ったのだ。
ムギ牧場では、大量の野生動物が戦士たちの攻撃によってその命を失った。スイヤン牧場では、観光施設であったロッジ2軒が戦士たちの放火により全焼した。そして、ソシアン牧場では、農場主の白人が頭と顔を撃ち抜かれて命を失った。
ライキピア地方はケニア白人が多く住むエリアで、この土地略奪は白人をターゲットにした攻撃だと言われているが、白人が殺されたのはたった一人であり、黒人の方が多数命を失っていることはあまり報道されていない。
この1ヵ月だけでツルカナ、西ポコット、サンブルとバリンゴだけでも30人の地主が殺されている。悲しいことに政府が動き出したのは、白人の被害者が出てからだった。379人の戦士と国会議員のレンプルケルは逮捕され、さらにケニア軍隊と英国軍が、武装戦士たちがのさばっている地方に派遣されることになった。2017年の8月に行われるケニアの大統領選挙は、開始前から大いに部族抗争問題と土地問題に乗って、荒れまくっている。
(滝田明日香)

※ インド洋ダイポールのこと


蜂を怖がる象が農地に立ち入るのを防ぎ、
養蜂によって地域の人も収入を得る「蜂箱フェンスプロジェクト」への寄付先

 〈日本国内の寄付口座〉
ゆうちょ銀行 (記号)10080─(番号)67547161
 〈他銀行から振り込む場合〉
ゆうちょ銀行/店名 〇〇八/普通預金6754716/名義 アフリカゾウの涙NGO運営委員会)

たきた・あすか
1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。 現在、ケニアのマサイマラ国立保護区で動物の管理をしながら、追跡犬・探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともに「アフリカゾウの涙」を立ち上げ、2015年6月、NPO法人に。 https://www.taelephants.org/


▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回掲載。

unnamed
ぜひ路上でお買い求めください。
販売場所はこちら


▼アフリカ関連バックナンバー
296号:スペシャルインタビュー:アフリカのマラウイ視察と活動10年目の思い(知花くらら)

http://bigissue-online.jp/archives/1061715946.html

  ・246号特集「アフリカゾウとともに生きる」
246_01s
http://www.bigissue.jp/backnumber/bn246.html


バックナンバー3冊以上で通信販売がご利用いただけます。





過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。