社会の偏見を恐れ、自分の仕事を明かせない性風俗産業で働く女性たち。GrowAsPeople代表の角間惇一郞さんに、性風俗産業が抱える問題の本質を聞いた。
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角間 惇一郞さん

偏見恐れ、支援窓口へ行きづらい
20・30代のうちに昼の仕事の感覚を身につける

 GrowAsPeople代表の角間惇一郞さんはかつて建築関係の会社で働きながら、まちづくりのNPOの代表を務めていた。「2010年、埼玉県内のショッピングモールでイベントを開催したところ、風俗店のオーナーが声をかけてきたんです」

 その人は、キャスト(性風俗産業で働く女性)から「自宅で子どもが生まれそう」「彼氏が暴力を振るう」という連絡や相談を受けることが多く、「本人だけでなく、子どもにも連鎖する問題だと危機感を覚えて話を聞きにきた」と話した。

 翌々日、大阪でマンションに置き去りにされ2児が餓死した事件が発覚。母親は風俗店で働いていたことも報道された。この二つの出来事が頭から離れず、角間さんは会社を退職。“どこに問題があるのか”を探るために、そのオーナーの店で働き始めたという。

「ちょうど店の事務所を引っ越すタイミングで、内装の設計を任されました。キャストに、事務所の使いやすさについてヒアリングするうちに、困りごとも話してくれました」が、その多くは「仕事を人に言えない孤立感や、履歴書に書くキャリアの空白などの悩み」だった。そこで、キャストの社会的孤立や転職がしづらいといった課題に取り組むべく、角間さんは12年に「一般社団法人 GrowAsPeople」を立ち上げた。

“夜の世界”は色眼鏡で見られがち。次のステップに進みたい女性たちも過去を知られるのを恐れて行政の窓口へ行きづらいうえ、窓口でも『そんな仕事をしているから』と諭されるなどして必要な支援を受けにくい。社会にもこの問題はあまり認識されていない。
と角間さんは話す。

 キャストの多くは40歳前後には引退に追い込まれるというが、別の仕事への転職はきわめて困難。そこで、結婚や出産を意識する20代半ばから30代の女性を中心に、空いた時間を利用して“昼の仕事の感覚”を身につけてもらう「セカンドキャリア支援」を中央ろうきんの助成を受けて開始した。

セカンドキャリア支援で37人が就職。理解深める『夜の世界白書』

「セカンドキャリア支援」は「NPOや企業でのインターンを通して、過去を共有できる相手や履歴書に書ける過去をつくり、同時に自己肯定感を高めていく」もの。現在は受け入れ先として15団体が登録し、12年度以降、支援を通じて商社やIT企業、社会福祉団体などに37人が就職した。一番大切なのは「安心して相談できるつながりを増やすことで孤立を解消し、働き続けられる環境をつくること」だと、角間さんは強調する。

 また、16年度にこれまでキャストから聞き取った内容をまとめた『夜の世界白書』を発行。17年度版は調査対象を全国に広げ、キャスト400人に記入式で回答を得た結果もまとめる予定だ。

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5月に開催した「夜の世界スタディーツアー」で参加者を前に現役のキャストさんと角間さんが対談する様子

その他、ヤンキーのインターン事業を行う「株式会社ハッシャダイ」や、シングルマザーを支援する「NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ」などとも連携する。風俗店の事務所でキャストやスタッフの話を聞ける「夜の世界スタディーツアー」には、昨年11月から今年5月までに全国から約60人が参加。その5月開催分は、スタディーツアーを企画運営する「リディラバ」との共催だ。将来的には行政とも連携し、キャストが公的窓口に相談に行きやすい環境をつくりたいという。

 これらの活動を通して“夜の世界”への理解が広まり、「過去にこだわらない文化が定着して、女性たちが自然と次のキャリアへ進める社会になってほしい」と角間さんは言う。

【団体紹介】一般社団法人GrowAsPeople(GAP)
10年に団体設立。12年、一般社団法人格を取得。東京都荒川区を拠点に、性風俗産業で働く女性の相談事業、「セカンドキャリアプログラム」事業、実態調査、情報発信などを行っている。
東京都荒川区西日暮里4‐22‐2 則竹ビル202
TEL 03‐6673‐1047
★「セカンドキャリアプログラム」利用者、インターン受け入れ企業や団体を募集しています。また、個人・法人からの寄付の受け付けもしています。詳細や申込みについては公式サイトをご覧ください。
http://growaspeople.org

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