野生動物獣医になりたいと、18年前ケニアに移り住んだ滝田明日香さん。ナイロビ大学で医師免許を取得、ジステンパーウイルスの予防接種、ゾウの密猟対策などの仕事を続けてきた。広大なマサイマラ保護区を車で駆け回ってきた滝田さんに突然、運転できないという試練がやってきた。

これからも野生動物保護の仕事を続けたいと願う滝田さんからの手紙を掲載します。

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これからも野生動物保護の仕事を続けたいと願う滝田さんからの手紙を掲載します。

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私がアフリカで野生動物を治療する野生動物獣医になりたいと夢をみて、ナイロビ大学に入学したのは今から18年前のことだった。死に物狂いで5年間勉強して獣医師免許は取得したものの、夢であったケニアで野生動物を治療することができるのは、ケニア野生動物公社の政府獣医のみという大きなハードルにぶつかった。

マサイマラ(※1)で野生動物の命を助けたいため獣医の道を選んだのに、外国人である私には治療許可が下りない。そのことに絶望したが、それでも野生動物の命を救いたい一心でこの13年間、野生動物保護のためなら何でもやってきた。肉食獣に疫病がうつらないように国立保護区と隣接した集落のマサイの犬9千匹に狂犬病とジステンパーウイルスのワクチンを投与しながら、小さな軽自動車の車体が悪路で大破するまで500㎢のエリアを朝から晩まで3年間走り続けた。

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2008年にやっと3年間のボランティア生活からマラコンサーバンシー(※2)の正式な職員になり、密猟者を逮捕するための追跡犬のユニット、さらにゾウの密猟を阻止するための象牙・銃器探知犬ユニットを結成して、保護区をレンジャーたちと駆け回った。また、ハチの巣箱でフェンスを作ってゾウが畑に入るのを防ぎ、農家の収入にもなる蜂箱フェンスプロジェクトにも挑戦した。

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野生動物の命を奪う密猟者を逮捕するための追跡犬ユニット

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象牙探知犬のガーヴィと

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毒矢が刺さった巨大な雄ゾウの治療に参加

しかし、18年間ずっとあきらめていなかったのは野生動物治療にかかわること。密猟対策活動に没頭しながらも、南アフリカで野生動物治療の学校へ行けと言われれば現地に飛び、ライキピア地方(※3)で政府獣医の下で見習いをしろと言われれば1歳児の息子を抱えて3ヵ月ブッシュで生活をし、政府獣医がマサイマラでの治療する現場には必ずアシスタントとして参加した。

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マサイマラで一番初めにやったのは家畜の診療

その間、野生動物治療の許可は何度求めても下りなかった。最後の挑戦と思い、昨年末、許可を申し出たところ、これまでの野生動物保護に貢献した実績が認められ、信じられないことに、外国人として初めてケニア野生動物公社から野生動物治療の許可を得ることができた。

しかし、麻酔銃が手に入れば、すぐに野生動物治療を開始しようと意気込んでいた矢先、自分でも予期しない状況にぶつかってしまった。“悪路運転の超人”と呼ばれていた私だが、マサイマラの悪路の運転で、ついに椎間板が潰れてしまったのだ。マサイマラは大阪府とほぼ同じ面積1627㎢である。各レンジャーステーションを行き来し、野生動物を探して、毎日200㎞から300㎞、1週間に2000㎞近くの悪路を走ってきた。気がつけば、大破した前の車と合わせると40万㎞の距離を走り、車も、私の身体もボロボロになっていたようだ。

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サバンナを舞台に、毎日200キロを走り回りながら仕事をしてきた

マサイマラで車が運転できないと、怪我した動物も探せないし治療現場にもたどり着けず、18年かけて現実化した野生動物治療ができない。すでに数ヵ月間、腰の痛みを我慢して仕事をしたが、長距離運転をすると痛みで夜も眠れなくなる。医者に大幅に運転を制限しないと取り返しがつかないことになるときつく指示をされ、ライフスタイルを変えなければならなくなってしまった。

一時は「マサイマラでの活動ができなくなってしまう!」と真っ青に。けれど、「できなくなったらどうしよう!」と嘆くより、「今後もマサイマラでの活動を続けていく道」を探すことにした。どういう形なら「今までと同じ、またはそれ以上の活動ができるのか?」と考え、陸路の移動が無理なら空から目的地に辿り着くしか道はないと思い至る。

もちろん私はパイロットライセンスを持っていないし、どのような機体を使えばいいのかわからなかった。運転ができなくなった数週間の間にセスナ、ヘリコプター、そしてジャイロコプターを持っている知り合いにそれぞれの機体に乗せてもらい、実際に現場に向かうのに一番使いやすく安価な機体を調べた。その結果、着陸が保護区内の道でも可能で、維持費も他より低めのジャイロコプターなら、野生動物治療や密猟対策の現場などでも十分使えることがわかった。

実際にジャイロコプターに乗ってみて、野生動物治療現場で怪我した動物の捜索、上空からの密猟者捜索、追跡犬の事件現場までの飛行、ゾウなどが保護区外の畑に侵入した時に保護区までの誘導などにも使えると実感。今まで以上に、マサイマラでの野生動物保護活動の幅を広げられるとも確信した。

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ジャイロコプター

18年間自分のすべてを野生動物保護活動に注いできたのに、車の運転ができなくなることで活動をやめては、悔やんでも悔やみきれない。アフリカ大陸で唯一、日本人で野生動物獣医として正式に資格をもらえた今、今後もどんなことをしても野生動物を治療していきたいと思っている。今までのようにアフリカの道や大地を走れなくても、大空を飛び回って動物の命をまもる活動にかかわっていきたいと心に決めている。


ずっと私の活動を見守ってくださったみなさまにお願いです。どうか、私にマサイマラの空を飛んで野生動物の命を救う道を開くためのご支援をしていただけないでしょうか。

MARA SORA PROJECT支援金振込
口座名:MARA SORA
ゆうちょ銀行から振込の場合
口座番号 10130-79020661

*その他の銀行から振り込む場合
店名:〇一八
店番:018
普通預金 口座番号 7902066


(文と写真 滝田明日香)

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以上、ビッグイシュー日本版328号より「滝田明日香のケニア便りvol.10編」を転載。



たきた・あすか
1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ナイロビ大学獣医学部に編入、2005年獣医に。 現在、ケニアのマサイマラ国立保護区で動物の管理をしながら、追跡犬・探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともに「アフリカゾウの涙」を立ち上げ、2015年6月、NPO法人に。 https://www.taelephants.org/


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▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。
本誌75号(07年7月)のインタビュー登場以来、連載「ノーンギッシュの日々」(07年9月15日号~15年8月15日号)現在「ケニア便り」(15年10月15日号~)を本誌に年4回程度連載しています。


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