「僕は普通の家に住みたいです。追い出されない家がいいです」。首都圏や関西などへの広域避難者と支援者の集会(※)が2月12日、都内で開かれ、東電福島第一原発事故後、福島から東京都内に避難している中学生の男子が訴えた。今回で7回目となる集会では、昨年の4月に避難区域外避難者(区域外避難者、自主避難者)の避難住宅が打ち切られてから、避難者の生活がますます苦しくなっている現状が明らかになった。

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原発被災地や放射能汚染地から広域避難した人が、厳しい生活の現状を語った集会

「避難住宅からの退去」を自治体が催促

「毎日、ふるさとを思わない日はない。事故前は2世帯住宅で暮らし、両親の助けを受けながら子育てしていたが、原発事故で母子避難して母子家庭になった。昨年、住宅から出ていく準備をしてくださいという書留を東京都が送ってきた」と語ったのは福島から避難している女性。

 避難生活の中で入院した時、カルテを見た医師に「なんで避難しているの? 賠償金が出たんでしょう? お子さんはいじめに遭ったの?」などと、根掘り葉掘り聞かれた。「すごく軽く聞かれて、本当に悔しかった」と涙ぐんだ。

 ただ、「入院中、患者4人の大部屋の入口に自分の名札があって、『この狭い空間だけは、安心して居ていい場所。誰からも出ていけと言われない場所だ』と思ったら、気持ちが楽になった」とも言う。避難先の自治体が避難住宅から出ていけと催促することが、避難者をさらに追い詰めている。

 いわき市から避難している女性は、「子ども4人と暮らしているが、大都会の中での子育ては大変。子どもを守るために避難したのに、子どもたちを守り切れていないなという思いがある。生きるだけで精いっぱいの7年だった。」と涙ながらに話した。

8割弱が、生活苦を訴える
なぜ悪い、被曝リスクの回避 
なぜつくれない、避難の制度

 会場では、「原発事故による避難世帯の生活実態調査2017」が報告され、区域外避難者の生活の困難が深まる実態は数字によっても示された。この調査は900世帯を対象に行われ、98世帯が回答した(現・旧避難区域55%、区域外避難45%/きらきら星ネット、とすねっとの実施)。

 避難生活の長期化に伴う生活状況は「とても苦しくなった」46%、「ある程度苦しくなった」33%で、8割弱が苦しくなったと答えた。原発事故後は収入が減った(48%)一方で、医療費や交通費などを含む生活費が増えた(63%)。複数回答で、80%が小児甲状腺がんについて不安に思い、66%が原発事故と関係があると回答。医療面では、国に対して、大人も含めた医療費の無料化や、健康診断体制の整備を求める声がそれぞれ6割程度になった。除染に莫大な復興予算が割かれるものの、原発事故後の医療支援不足が浮き彫りになった。

 冒頭で紹介した避難区域外から都内に避難した中学生の男子は、学校でいじめに遭ったことを話した。自分の図工作品にたくさん悪口が書かれていたり、福島のなまりをからかわれたりしたという。「学校で、特に説明もなく『福島から来た避難者だよ』と紹介されたら、絶対にいじめられると思う。(賠償金をもらっていない区域外避難者なのに)『賠償金をたくさんもらっている』と誤解される。国がちゃんと説明しないから、子どもも大人もいじめられる」

 いわき市から都内に避難した「ひなん生活をまもる会」代表の鴨下祐也さんは「いわき市でも放射線管理区域4万ベクレル/平方メートルを超える地域がたくさんあり、そこには被曝のリスクがある。避けられるリスクは避けたい、というのが避難生活を継続している理由」と語った。

 関西に避難した、東日本大震災避難者の会Thanks & Dream(サンクス・アンド・ドリーム)の森松明希子さんも「原子力災害による放射能汚染で普通の暮らしが広範囲で奪われた。避難している人の生活基盤である避難住宅を取り上げることは、強制送還に等しい。被曝を避ける権利は、誰にでも与えられるべき。7年経っても避難の制度ができておらず、国は責任を取っていない」と指摘した。

(文と写真 藍原寛子)

※主催は「東京災害支援ネット・とすねっと、ひなん生活をまもる会、きらきら星ネット、福島原発避難者の追い出しをさせない!!市民の会」。震災後、毎年開催している。


あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。
ブログhttp://ameblo.jp/mydearsupermoon/

*2018年3月15日発売の331号より「被災地から」を転載しました。

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