今、「ひとり暮らし世帯」が世界レベルで増えている。まだ十分に注目されているとは言い難いこの事象の今と考慮すべき影響について、国連経済社会局人口部の元ディレクターで人口統計学者のジョゼフ・チャミーが解説する。

IPS_The Rise of One-Person Households
  単身世帯に暮らす人がますます増えている credit: Rebecca Murray/IPS

世界的に広がる単独世帯の増加

現在、世界に20億ある世帯のうち約15%にあたる3億世帯が「単独世帯 (one-person households) 」である。 これはあくまで世界平均で、実際の単独世帯数は国によってかなりバラつきがある。 単独世帯率が最も高いのはヨーロッパだ。デンマーク、フィンランド、ドイツ、ノルウェーで40%超、スウェーデン38%、オーストリアとスイスが37%、オランダ36%、フランス35%、イタリア33%と続く。ヨーロッパ以外では、日本が32%、アメリカとカナダが28%、韓国27%、オーストラリアとニュージーランドが24%。先進国の中で目立って低いのはロシアの19%だ。

Screen-Shot-2017-02-21-at-9.08.23-pm

発展途上国は先進国より低く、 インド、インドネシア、イラン、メキシコ、フィリピン、ベトナムで10%以下。中国で15%、トルコ13%、シンガポールでも12%だ。ただし、中国は14億もの人口を抱えるため、世帯数にすると6,600万と世界最多にあたる。2位のアメリカで3,500万世帯だ。 近年、単身生活者は着々と増えている。1960年代以降の増加ぶりは著しく、ヨーロッパ諸国、オーストラリア、カナダ、中国、日本、韓国、アメリカの単独世帯数は倍以上に。また、先進国25ヶ国では「夫婦 + 子ども」の世帯数よりも単独世帯数が上回っており、特にエストニア、フィンランド、ドイツ、日本では二倍以上に達している。

Screen-Shot-2017-02-21-at-9.08.34-pm

単身生活者が増えた背景

この流れにはさまざまな要因が絡んでいるが、主な理由は経済発展、豊かさ、生活水準の向上だろう。金銭的な余裕から、プライバシーを確保できる一人暮らしを選ぶ人が増えている。ゆえに、先進国で顕著な現象なのだ。

社会的かつ経済的に自立した女性の一人暮らしも増えている。 高度な教育を受け、働く人が増え、男性と同じようにキャリアを築き、女性のライフスタイルの幅が広がっている。

人口高齢化もひとつの要因だ。元気に長生きする高齢者が増え、社会保障や健康保険制度が整備された先進国では特に、配偶者に先立たれた者がひとり暮らしを選択するケースが増えている。人口密度が高く、コンパクトな住居、暮らしを支えるサービスが充実した都市部では、難なく一人で暮らせるのだから。60年代には世界人口の三分の二が田舎に住んでいたが、現在では55%が都会暮らしだ。若者が都会に出ることで、残された高齢者がひとり暮らしになるケースも多い。

Screen-Shot-2017-02-21-at-9.08.46-pm

若者のあいだでひとり暮らしが増えているのは、結婚を遅らせる、または結婚しない選択が増えていることが理由だ。高学歴化が進み、専門性を持ってキャリアを築く人が増えている。離婚で別居するケースも増え、再婚率も低い。価値観や家族構成の変化もこの流れに拍車をかけている。中国でも離婚率はこの30年で急増、1980年代半ばには1,000人あたり0.4件だったのが現在は2.7件。OECD加盟国でも1970年代に1,000人あたり1.3件だったのが2014年には2.1件だ。

インターネットやSNSの発達により、ひとり暮らしであっても家族や友人と簡単につながれる時代だ。ひとり暮らしだからといって孤独とは言えなくなった。

単身生活者のニーズに応える政策づくりを

こうした単独世帯の増加は、消費パターン、ヒト・モノ・カネの配分 、人間の移動性に影響してくる。住宅、交通機関、天然資源、エネルギーへの需要が高まるうえ、多岐にわたるビジネスや産業に関係してくる(住宅、家電、電子機器、家庭用品、ヘルスケア、食品製造やパッケージのあり方、資産や生活まわりの相談、旅行、娯楽、家事代行サービス、等)。

単身生活者が安心して暮らせる生活など、社会的規範づくりにも大きく影響する。単独世帯は同居人がいる世帯より不安定な傾向にあり、社会としても負荷がかかる。収入源も限定されるため所得は低め、失業、けが、疾病、不慮の事故、障害、社会的孤立に陥った際の対処がより難しくなりがちだ。 政府方針にも影響してくるだろう。単独世帯は定年後に備えた貯蓄が少ないため、将来的には高齢者向けの経済支援が必要となってくる。有権者の着目点も変わってくるため、政界のリーダーたる者は洞察力を持って、子どもがいる世帯ばかりでなく単身生活者のニーズに応えていく必要がある。

このように、世界レベルで起きている単独世帯の増加がさまざまな分野に影響を与えるのは必至だ。自分だけの空間、ひとり時間、自分らしいライフスタイルを貫きたい者にとってはありがたい「単独世帯」だが、都市部ならびに地方の社会的・経済的開発、この時代の家族の役割、単身生活者、特に高齢者への政府サポートなど新たな課題も見えてきている。

単独世帯が急増している現実をしっかり認識し、議論し、適切な計画立案が求められている。

Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo

ビッグイシュー・オンライン「独居」「住居」関連記事

なぜ単身高齢の生活保護利用者が「ドヤ」に滞留させられていたのか?(稲葉剛)

脱法ハウス、賃貸独居老人、上昇する家賃負担…日本の住宅政策はどうあるべきか?

蓄えも保証人もないまま社会に巣立つ児童養護施設・里親家庭出身者を「女性専用のシェアハウス」でサポート-NPO法人 すみれブーケ








過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。