宮城県仙台市で、2000年から路上生活者や生活困窮者を支援してきた「仙台夜まわりグループ」。これまでの活動や東日本大震災後の路上の変化、路上生活者の健康状態を聞き、健康を取り戻すためのアンケート調査などについて、事務局長の青木康弘さんに聞いた。

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事務局長 青木 康弘さん

震災復興事業や除染作業に従事した労働者が失業。
30代~50代が路上に

 青木康弘さんら3人が、仙台市内で週に1度、夜の巡回と配食を始めたのは2000年。それから18年間、「仙台夜まわりグループ」の活動が続いている。

 青木さんは言う。「仙台市では毎年、路上で10人以上が凍死で亡くなられていました。当時は仙台駅周辺や公園などに300人ほどの路上生活者の方がいて、支援当初は彼らから警戒されました。しかしながらそのうち悩みや要望を打ち明けてくれるようになりました」

 まずは「温かいものを食べたい」という要望に応え、第4土曜日のカレーの炊き出しを始めた。さらに、第1土曜日には食事会を開き、弁護士や行政書士を招いて労働者の権利や多重債務についての講演を依頼。そして木曜日には、軽食とお茶を楽しみながら、生活相談や散髪などが受けられる「ゆっくり過ごす会」が始まった。アパートを1棟借りて、生活を安定させながら仕事を探す自立支援を行い、女性専用のシェルターもつくった。

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毎月第4土曜に行っているカレーの炊き出し

 02年には「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が成立し、仙台市との協働事業が始まった。
市の助成を受けて清掃の雇用を創出し、市の自立支援ホームでシャワーと洗濯ができるようにしてもらいました。また、生活家電などを処分したい人から譲り受け、クリーニングをして、路上からアパートに入居した人に提供する“リユース事業”も始めました。
 これらの活動は、20人以上の非常勤スタッフと30人近いボランティアによって支えられている。「集まりのたびに、季節を感じるタペストリーを手作りする人」や「クリスマスに、ドイツから船便で大量のチョコレートを送ってくれる人」など、かかわり方もさまざまだ。

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サロン活動「ゆっくり過ごす会」では食事を提供

 活動当初、路上生活者は「50代後半から60代前半までの東北6県出身の男性」が8割近くを占めた。「大阪や東京で働き、年齢を理由に解雇されたが地元に帰るに帰れず、たどり着いた仙台から故郷を思う人たちであり、農家の次男・三男が多かった」という。

 ところが08年のリーマンショックを機により若い世代が増え、11年の東日本大震災以降は「復興事業や除染作業で全国から集められたものの仕事がなくなり、やむを得ず路上生活に陥った」若者や、30~50代の中堅世代も増えた。13年のアンケートでは平均年齢は47・5歳だった。

生活カルテ+健康カルテ
健康への関心をきっかけに人生や将来にも思いを馳せる

路上にいると、その日の食事や雨風をしのぐことが最優先になって、健康がおろそかになりがちです。特に高血圧や内臓疾患などは、つい我慢して悪化させてしまう。早めに受診してほしいとの思いがずっとありました。
“どこで寝て、どんな生活を送っているか”を聞き取りした「生活カルテ」を作っていたので、そこに健康カルテを加えれば、「病院につながり、健康を取り戻す糸口にできるのではないか」と青木さんらは考えた。

 そこで17年、ファイザープログラムの助成を活用し、路上で生活する30人と路上からアパート生活に移行した50人の中堅世代を対象に、「自覚症状の有無」や「飲酒・喫煙の習慣」などを聞き取るアンケートを実施した。

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健康アンケート調査の様子

あわせて、第1土曜日の食事会に医師や看護師、保健師を招き、夏の熱中症や冬の低体温症、冬の飲酒の問題点や、血圧の高い状態が身体にもたらす影響などを話してもらうセミナーも開きました。参加者に血圧の測定や尿検査を勧め、仙台市主催の結核定期健康診断にもつなげました。数値が気になる人には受診を勧め、必要な人には病院同行支援も行いました。
 健康への関心は「自分自身の取り戻し」にもつながったと青木さんは言う。

「自分の健康に興味をもつと、不思議なもので、自分の人生や将来にも思いを馳せるようになっていきました。セミナーでも、どんどん質問の声があがるようになり、それまで頑なに拒んでいた人が、自ら役所に行って医療券を発行してもらい、通院につながったりしました。生活習慣病は住居や生活習慣から見直さないと回復は難しいとアドバイスすると、生活保護を受給してアパートに入り、人生をやり直したいと前向きに考え始める人もいました。
 これらの取り組みにより自身と向き合い、治療につながる人が増加した。多くは高血圧や糖尿病、精神疾患をわずらっていて、最大血圧が200前後という人が15人もいた。
アルコールやギャンブルなどの依存症の人も9人いました。仙台夜まわりグループでは、元アルコール依存症者で、現在回復途中にあるスタッフが中心となって、アルコールやギャンブルの自助ミーティングを毎月開催しており、ここに参加してもらうことになりました。

ネットカフェや車上からもSOS
手の届かなかった層への支援が課題

 1年目の助成を終えて、課題も見えてきた。

「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査・厚労省)」によれば、路上生活者の人数は毎年減少傾向にあるが、震災後、仙台市では横ばいが続いている。

「数字に反映されていないネットカフェや車上からもSOSが来ます。ネットカフェからシェルターに保護した30代の女性によれば、翌日仕事がなければ路上生活に陥るような女性たちはSNSで情報を交換し合っていて、その数は市内だけでも40~50人になると言います。郊外の量販店や24時間営業の書店の駐車場にも、車上生活をしていると思われる車が十数台停まっています。
 この状況に着目し、地元の大学生の協力を得てネットカフェの実態調査を行った。これがきっかけで、ネットカフェのスタッフからも「気になる滞在者」について相談を受けることが増えたという。

 また、病院同行支援を続ける中で、病院に行っても自分の症状を説明できない知的障害や精神障害のグレーゾーンの方が多いこともわかってきた。「これまで生きてきた共同体が壊れてしまったこともあってか、震災後は、そのような方々が孤立して路上に出てくることも増えたように思います」と青木さん。

 そこで助成2年目の今年は1年目の活動に加え、「これまで行政や民間の支援の手が届かなかったこれらの方々への適切な治療や支援、居場所につなげる取り組みを新たに展開したい」と青木さんは語る。

「路上生活者の『自立』といえば、自分で稼げるようになることが目標のように語られてきましたが、年齢的にも肉体的にも精神的にも働くことが難しい人はいる。必要な助けを借りながら、いろいろな選択肢の中から自己実現のための生き方を選択する『自律』こそを、私たちは支援していきたいと思っています」
と青木さんは締めくくった。

(団体情報)
NPO法人 仙台夜まわりグループ
2000年1月、夜まわりを開始。04年、NPO法人認可、登録。路上生活を余儀なくされている人や生活困窮者に、食事・衣類・日用品の提供、安否確認や入院などの緊急支援、相談支援、居宅支援、就労支援を行うほか、行政との定期的な懇談を実施している。
http://www.yomawari.net/
TEL・FAX 022-783-3123
※会員・助成会員も募集中です。
 正会員 1万2000円/年
 賛助会員  6000円/年

※寄付の振込先
・ 郵便振替02240−5−66005 
 仙台夜まわりグループ ・ 七十七銀行 八本松支店 普通5214271  トクヒ.センダイヨマワリグループ
・ PayPalアカウント
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【ファイザープログラム~心とからだのヘルスケアに関する市民活動支援】

ファイザー株式会社の市民活動助成プログラム。2000年に創設。「心とからだのヘルスケア」の領域で活躍する市民団体による、「健やかなコミュニティ」づくりへの試みを支援することを目的としています。医薬品の提供だけでは解決することのできないヘルスケアに関する様々な課題解決のために真摯に取り組んでいる市民団体を支援することによって、心もからだも健やかな社会の実現に取り組む。

ファイザープログラム ~心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援
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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。