ホームレスやひきこもり経験者、性的少数者のLGBTなど多様な背景を持つ人たちによるフットサル大会「ダイバーシティカップin関西」が2018年5月12日、大阪市内で開催された。





英語の“多様性”の意を冠する同大会は、主催のビッグイシュー基金が2015年に東京で初めて開催。今回はこれに続く関西初の大会となったが、目指しているのはオリンピックに代表される勝ち負け第一の「競技性スポーツ」とは異なる、人と人をつなぐ「社会性スポーツ」の新たな試みだ。日大アメフト部の悪質タックル問題をはじめ過度な勝利至上主義の弊害がスポーツ界を揺るがす中、新たなスポーツの可能性を模索する同大会をレポートする。(写真:一般社団法人京都ジェンヌの会 写真部)

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社会から孤立しがちな人にこそ求められるフットサル

 午前10時前、会場となった大阪市内のフットサル場には続々と参加チームが到着。貸切りの3面のコートでは思い思いにボールを蹴り始める参加者たちの姿が見られ、会場はにわかに大会前の高揚感に包まれた。その光景は、一見すると、よくある普通のフットサル大会。子どもや女性の参加者も目立つため、ちょっとした企業のレクリエーションに見えなくもない。だが、この日、集まったのはホームレスやひきこもり経験者、LGBT、精神疾患、依存症、聴覚障害などの当事者と支援者たち。一般にはフットサルとは無縁と思われがちな人たちだ。ホームレス状態の人の支援を行う認定NPO法人ビッグイシュー基金が他の当事者団体に呼びかける形で、実に12チーム、約150人が参加する、まさに多様性豊かな大会となった。

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07アジアンタール


 だが、そもそもなぜフットサルなのか。ビッグイシュー基金は、社会から孤立しがちなホームレスの自立支援を行う中で住居や仕事の提供だけではなく、本人の生きる意欲や人とのつながりをつくるスポーツ・文化活動を積極的に応援。そのひとつとして、ホームレスワールドカップへの参加を契機としたフットサル活動を10年以上続けてきたが、今回、参加した団体の多くも同じように日常的にフットサルを行ってきた背景があるという。

例えば、ギャンブルや薬物、アルコールなど依存症からの回復を目指す「ワンネスグループ」は、普段は集団で余暇活動を行うプレジャープログラム以外で、月1回休みの日にフットサル活動を行ってきた。ギャンブル依存からの回復を目指している大塚悠貴さんは「これまでギャンブルや薬物などに依存してきた僕らにとって、休日や日々の空き時間をどう過ごすかというのは大きな課題。依存のせいで周囲との人間関係もほとんどなくなっているので、週末に予定を立ててサッカーなどのチームスポーツをすることはとても意味のあること」と話す。

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 また、精神障害者と健常者によるチーム「インクルーシブフットボールクラブHalf Time」は、偏見や差別のない生きやすい共生社会を目指して、09年から障害のあるなしに関わらず誰もが参加できるフットサルクラブを運営している。当事者の中にはフットサルを始めたことで気持ちが安定した人も多く、自殺を考えていた人が生きがいを取り戻した例もあるという。代表の平山惣一さんは、数あるスポーツの中でも特にフットサルのリハビリ効果が高いと話す。「少人数の5~6人でコミュニケーションがとれて、しかも室内競技で雨天に左右されないので、心身に不安定さを抱えている人も継続的に参加しやすい良さがある。それにクラブチームもたくさんあるので、今日のように年間を通して多くの参加機会もつくりやすい」という。

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 フットサルをはじめとするスポーツは、一般には日常の余暇活動にすぎない。だが、参加者たちが語るフットサルは単なる余暇活動におさまらない意味のあるものであり、社会から孤立しがちな人たちにとってはそれこそが必要な居場所となることもある。

そうした中で、昨年7月、社会的に孤立した人たちに対してスポーツの機会をつくることを目的とした「ダイバーシティサッカー協会」が設立。ビッグイシュー基金のフットサル活動から、そのすそ野が広がった形だ。今大会はその全国展開の第一歩となったが、スタッフの川上さんは「多様な背景を持つ当事者・支援者がそれぞれの立場を超え、スポーツを通じてゆるやかにつながり、自分や他者を認め合う場にしたかった」という。

独自のプログラムで、スポーツを誰もが認め合える場に

大会では、参加12チームが「チャレンジリーグ」と「エンジョイリーグ」の2リーグに分かれ、それぞれリーグ戦形式で対戦。各チームが上位を目指して熱戦を繰り広げたが、「多様性」をテーマとする同大会では通常のフットサル大会には見られないプログラムも随所に取り入れられた。

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例えば、チーム紹介などが行われた開会式後には、「アイスブレイク」の時間が設けられ、参加者がチームの枠を超えて、ハイタッチや鬼ごっこなどをして交流。また、リーグ戦の前には一切走ってはいけない「ウォーキングサッカー」が行われ、世代を超え男女を問わずプレーできるユニークなサッカーに、参加者たちからは思わず笑いがこぼれた。さらに、リーグ戦後には、各チームのメンバーがばらばらに入り混じっての「ミックスゲーム」も企画。参加者らはそれぞれの立場や属性を超えてチームメイトとなり、お互いを認め合いながらプレーする楽しさを実感したようだった。

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大会中、20人近くに声をかけて話を聞いたが、誰ひとり言いよどまず、自らの障害や他の人には話したくないような過去も清々しげに語る姿が印象的だった。なかでも終始楽しげな表情で語ってくれた「LGBT&ALLY」の村木真紀さんは、自分にとって今日は30年ぶりのリベンジだったと話す。「『キャプテン翼』が全盛だった小学生の時、サッカーがしたくて仕方なかったけど、当時はそんなことをしたら『おとこ女や』と言われる時代。スポーツは男女で分けることが多く、それがつらい当事者も多いけれど、こんな風にLGBTであることも当たり前に認められた状況でいろんな人とプレーできる場ならすごく楽しめるし、社会もそうであって欲しい」

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大会は誰もが認め合い、楽しめる場であったようだが、「hikimapプロジェクトチーム」の岳安一郎さんにとっては小さなチャレンジができる場でもあったようだ。自身はいわゆる社会的ひきこもりで、不安障害になったこともあり、失敗や人間関係を避けがちだったが、フットサルを通じて違う変化も感じているという。「フットサルがうまくなりたいとか、不安につながりそうな競争心や向上心はできるだけ持たないようにしていたのですが、失敗しても怒られないこういう場なら大丈夫な気がしてきていて、今日は負けたら悔しいという感覚を久しぶりに感じた。でも、大会前に立てたシュートを1本打つという目標は達成できたので、ゴールはできなかったけど、嬉しかったです」

とかくスポーツは、勝敗の結果ばかりをみてしまいがち。プレーの上手い、下手によっても優劣がつけられ、場合によっては疎外感を感じ、人を排除する方向に作用するのが従来の競技性スポーツが持つ拭いがたい特性だ。大会の中でも、確かに敗戦を悔しがる声は多く聞かれたが、かといって「勝てないから面白くない」とはならない。むしろスポーツを通じて人と人がつながり、それぞれの小さなチャレンジを無条件で認め合える場となることで、勝つことと楽しむことがうまく共存しているようだった。

余談だが、かのサッカー大国ブラジルには、小学校の全国大会がない。子どもの頃から勝利至上主義に傾くと、才能ある素晴らしい選手が輩出されないという歴史から学んだためである。(稗田和博) 
「第1回ダイバーシティカップin関西」
日時:2018年5月12日(土)10時~17時
場所・会場協力:フットメッセ天下茶屋(大阪市西成区岸里1-1-40)
主催:認定NPO法人ビッグイシュー基金
共催:ダイバーシティサッカー協会、ダイバーシティカップin関西 実行委員会
助成:平成30年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業


「社会性スポーツ」に興味を持った方へ

 ビッグイシュー基金から独立して設立された「ダイバーシティサッカー協会」では、「社会性スポーツ」の試みを広げていくために、ボランティア・寄付サポーターを募集しています。活動に賛同いただける方は以下のページをご覧ください。

http://www.bigissue.or.jp/activity/info_18031501.html

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『ビッグイシュー日本版』の「社会性スポーツ」関連号

THE BIG ISSUE JAPAN 336号 国際記事:“受容と寛容”の「クィディッチ」
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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。