日本には、アルコール依存症の疑いのある人が440万、治療の必要なアルコール依存症の患者は80万人いると推計(*)されている。それぞれおよそ27人に1人、150人に1人の割合だ。

「人はいとも簡単に依存症になるが、克服するのははるかに難しい」という。人数の割には理解されることが少ないこの問題について、当分野で多数の著書があり、現在はオーストリアのフォアアールベルク治療センター院長を務める精神科医レインハード・ハーラー氏に話を聞いた。

 *厚生労働省のWebサイト http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_alcohol.html(2003年調査)より

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- 依存症についてお聞かせください。実際、どういう状態を言うのですか?

依存症とは「足りない」「止められない」病気です。判断力を失い、あらゆるコントロールが効かなくなります。でも、チョコレートを食べるのとヘロイン注射するのでは違います。依存症に似た行為でも、単なる習慣もありますから。依存症の特徴は、喫煙者のように、反射的に反応することです。 同じ動物好きでも、無害な「ペット依存症」と破壊的な「動物を獲物にしたがる依存症」があります。スポーツ依存症、仕事依存症のようにポジティブに思えるものも、度を越してコントロールを失っているようなら対処が必要です。

- ポジティブな影響しかない依存症もありますか?

真っ先に思いつくのは「憧れ」の感情ですね。憧憬はとても強い感情で、副作用はなく、創造性を高め、変化を促します。ひとつの依存症ですが、ネガティブな要素は一切ありません。

- 依存症に苦しむ人はどれくらいいるとお考えですか?

実のところ、9割方の人が依存症に近い行動を示しています。そもそも人は型にはまった行動を求め、習慣が必要な生き物なのです。「依存症への逃避」ということばがあり、問題に直面した時に手っ取り早く何かできる!と強く感じると、依存性薬物に手を出しがちなのです。ストレス、プレッシャー、屈辱、競争などが原因です。薬物やネット中毒も大きな問題となっています。つまり、多くの人がこの厳しい競争社会から逃げ出したいと強い欲求を感じているのです。

- 依存することでより強い感情を求めているのですか?

そうです。日常生活では感じられない「激しさ」を求めているのです。変化に欠ける状態から興奮できる状態へ踏み出すことは決して悪くありませんが、そのために依存性薬物に頼るようになると問題です。

依存することで、自らを癒やし、慰めようとする人もたくさんいます。常習行為を取ることで、空虚感、恐怖心、劣等感を乗り越えようとするのです。

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© Pixabay

- 依存性薬物は治療薬になるとも考えられますか?

ほとんどの薬は治療薬としても使えます。例えば、アンフェタミンやアヘン剤はとても重要な薬ですし、コカインは多くの眼科手術で局部麻酔に使用します。アヘン剤やその系統のものは、心不全、激痛、癌の治療に不可欠です。

薬はそれ自体が危険なのではなく、その摂取量をコントロールできなくなり、過剰に摂取し、その間隔がどんどん短くなることが問題なのです。

- 依存症が始まるのはどのタイミングですか?
毎週末、ワインをボトル半分飲むのが習慣の人は依存症にあたるのですか?

依存症はコントロールを失うか否かが問題です。例えば、ワインをグラス1杯だけ飲むつもりだった人が結果としてボトルを2本空けるようなら、それはコントロールできていません。摂取量をコントロールし、途中で止められる人は依存症ではありません。

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© Pixabay

アルコール依存症には、めったに酔っ払わないケースと頻繁に酔っ払うケースの二種類あります。前者は暴力的になることがほぼありませんが、途切れることなく飲み続けているので、しらふ状態になることもほぼありません。後者は数日くらいならアルコール摂取なしでも平気ですが、いったん飲み始めると行動が手に負えなくなります。
「飲まねば」という衝動に駆られ、この願望が強まっていくのが、依存症の人によくある兆候です。

- 依存症の人たちは何を欲しているのですか?

当事者に聞けば、「たまらなくおいしいから」「かっこいいから」と答えるでしょうが、もちろんそれだけではありません。依存するには常に、安心感、ストレス解放、自尊心を高めるなど心理的な理由が伴います。深層心理学の観点からいうと、依存症は愛され・受け入れられることなのです。 

- ゲーム、アルコール以外にも依存症はあるのですか?

実にたくさんあります。冒険依存症、恋愛依存症、食物依存症、自己依存症、オンライン依存症、難クセ依存症、収集依存症、議論依存症、心配依存症…、他にもさまざまな依存症や強迫行為があり、それぞれに特徴があります。

- 依存症になりやすい人というのはいますか?
それとも誰でも依存症になり得るのですか?

依存症にはさまざまな理由と多くの要因が関わっています。とはいえ、依存症になりやすい遺伝的素質もあります。例えば、アルコール依存症は遺伝的要因が強く影響しています。
その一方で、依存症は社会的要因ともつながりがあります。子ども時代の体験、記憶、トラウマなども原因になります。当然ながら、性格が安定している人は不安定な人より依存症になるリスクは低いです。
でももっと大切なのは、依存症は適切なサポートを受ければ克服できるという点です。

- 依存症から抜け出すため、精神科医はどんなサポートをするのですか?

依存症は他の病気より軽く見られがちです。依存症の人も「何の問題もありません」と自分が病気であることを認識せず、問題をうやむやにしがちです。ですから、第一段階は依存症の人が自分は病気だと認識すること。

それから、依存症の原因を見つけ出します。原因は心の奥深くに潜んでいることが多いので、徹底的に調べる必要があります。依存症状が出ていて、それを認識することは、氷山の一角に過ぎません。心理療法によって原因を突き止めなければいけません。

それからもちろん、肝臓や血球数など依存症によって受けている影響に対処していきます。

我々が目指すのは、依存症の人が自律的に行動できるようになること。そして、彼らが自分の人生をコントロールできるようになることです。何かに依存せずとも問題に対処できる術を学んでもらいます。

- 依存症への一般的な治療法があるのですか?

依存しているものを「断ち切らせる」方法では治療できません。いったん依存症になってしまうと依存状態は続くのです。でも、症状が出ないように生きる術は身につけられます。全面的な解決策は当事者の中に存在します。最終的に問題を解決できるのは自分しかいない、そう自覚できた時、当事者たちこそが最良の医者になるのです。

By Christine Gnahn
Courtesy of Apropos / INSP.ngo
Translated from German by Katrin Wolf

※この記事は2018年6月に公開したものに加筆・修正したものです。

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