カナダやヨーロッパ、オーストラリアに既に開設されている合法的薬物注射施設が、ついにアメリカでもシアトルに開設されそうな気配です。しかも、そのプロジェクトを推進しているのが、薬物常用者のスタッフが51%を占める非営利団体ピープルズ・ハームリダクション・アライアンス。ちなみに団体を率いる事務局長はヘロイン常用者だそうです。
※この記事は2016年11月に公開された記事を再編したものです。
『ポートランドのストリートペーパー、合法的薬物注射施設を求めるキャンペーンを展開』
シアトルの麻薬使用者、全米初となる合法的薬物注射施設の開設を計画
ストリートルーツ‐USA
薬物使用者でハームリダクション運動家のシロ・マーフィーは、全米初となる合法的薬物注射施設の開設を計画している。マーフィーたちが運営する非営利団体ピープルズ・ハーム・リダクション・アライアンスが進めるこの計画は、賛否両論はあるが、シアトル在住の薬物使用者たちに医療スタッフが見守る中で違法薬物を注射できる安全な場所を提供するものである。このハームリダクションの方法は、静脈注射で薬物を使用する人たちの死亡を劇的に減らすといわれている。マーフィーは合法的薬物注射施設の開設により、屋外での注射をやめさせ、命を救うのだと言い、その計画を話してくれた。――エミリー・グリーン
※ハームリダクションとは、薬物やアルコールの乱用そのものの是非を問うことなく、それによって引き起こされるより悪い状況(過剰摂取による死、汚れた注射器を使っての感染症、薬欲しさの犯罪など)を減らすことに重点を置く実害軽減措置。
スタッフ、ボランティアの半分が薬物常用者!?
事務局長はヘロイン愛用者
全米初の合法的薬物注射施設は、6カ月から18カ月のうちにシアトルに開設されるとシロ・マーフィーは言う。
シアトルを本拠に彼らが運営している非営利団体ピープルズ・ハーム・リダクション・アライアンス(以下、アライアンス)は、政府から資金援助を受けていない。そのため、税金で注射器交換などのサービスを提供するハームリダクション推進団体などが手掛けにくい賛否両論のあるプログラムを試みることができる。
たとえば、アライアンスではシアトルの薬物使用者たちにクラック(パイプで吸引できる状態にしたコカインの塊)の煙を吸引するためのガラスパイプを提供し、毎週およそ25から30個のパイプを配布している。ワシントン州の法律は、薬物摂取に必要な道具の提供を禁じている。
オレゴン州のマルトノマ郡をはじめ、ワシントン州とオレゴン州の5つの郡にまたがって活動しているこの非営利団体の運営に関わっているスタッフやボランティアの少なくとも51%は現在進行形の薬物常用者である。 アライアンスで事務局長を務めるマーフィーはヘロイン常用の当事者である。自らの薬物を愛用する彼の姿勢は、ハームリダクション運動に関わる同業の人たちからも批判を受けてきた。
アライアンスと、シアトルの薬物使用の当事者たちが全米初となる合法的薬物注射施設の開設に成功すれば、そこでは詳細な分析が行われ、このようなアプローチがヨーロッパやオーストラリア、カナダで効果を発揮したように、アメリカでも同様の効果を上げられるかどうかを判断するためのモデル的役割を果たすことになるだろう。
「時流に乗るか、さもなければ邪魔をしないか」を決める時期が来た
2015年10月、『シアトルウィークリー』紙が合法的薬物注射施設開設の動きを最初に報じたのは、マーフィーがシアトル市役所のカルチャーセンターで、「時流に乗るか、さもなければ邪魔をしないか」を決める時期が来たと聴衆に語ったあとのことだった。
同紙はまた、公設弁護人協会がその活動に参加したこと、そして市議会の新しい議員全員が、合法的薬物注射施設を支持あるいは容認していることを報じた。シアトル市長のエド・マレーまでが、選択肢の1つとして考慮すると同紙に語った。
シアトルではヘロインが関係する死亡者数が急増しており、2014年には156人と、前年の99人から58%増加したとワシントン大学のアルコール・薬物乱用研究所は報告している。
ポートランドがあるマルトノマ郡でのヘロイン過剰摂取による2014年の死者数は、人口1人当たりの割合で比較すればシアトルがあるキング郡とほぼ同じなのだが、シアトルと異なり、ポートランドの政治家は合法的薬物注射施設を対策案の一つとして考慮するのに消極的である。
オレゴン州ポートランドを拠点に路上生活者支援を行うストリートペーパー『ストリートルーツ』がマルトノマ郡に対し、郡が行うホームレスの死亡理由を調査する『Domicile Unknown(住所不詳)』の2014年版に合法的薬物注射施設の実行可能性調査を含めることを要請したが、担当者によって断られてしまった。
医療機関以外で死亡したホームレスの人々の死因を調査したこの報告書によれば、ヘロインが、路上で亡くなった14人の死亡の主な原因、または引き金となっていることが明らかになった。マルトノマ郡では路上死した14人を含む56人が、2014年にヘロインの過剰摂取によって死亡している。
命を守れ。全米第一号の施設は2016年にシアトルでオープン予定
合法的薬物注射施設とは、訓練を受けた医療専門家の監督の下で、安全に薬物を注射することができる屋内施設である。薬物使用者は、ごみ収集容器のうしろに隠れたり、公衆便所の個室に閉じこもったりしてこっそり注射器を使わずに済む。隠れて薬物接種をすれば、過剰摂取による事故が起きた際に発見が手遅れになるが、安全な場所であれば、もしもの時にも過剰摂取の拮抗薬を処方してくれる人がいるというわけだ。
スタッフがすみやかに対応してくれる施設で注射をするようになれば、静脈注射による薬物使用者の死亡を劇的に減らすことができることは、薬物使用当事者の研究結果からもすでに明らかになっている。このような施設が開設されれば、公共の場での注射を減らせること、そして施設を利用する依存症者が、その後治療を希望する傾向があることもわかっている。
最近のマルトノマ郡の薬物に関する報告書によると、昨年、ヘロインや鎮静剤を含む薬物の過剰摂取で救急車の出動要請があった632回のうち、40%近くが公共の場や路上への出動だった。さらに4パーセントはバーやレストランへの出動だった。
命を守り、路上での注射をなくすため、今こそシアトルに合法的薬物注射施設を開設すべきだとマーフィーは言う。ピープルズ・ハーム・リダクション・アライアンスの活動の一部として開設に踏み切るならば、第一号の施設は2016年にオープンする予定だと彼は言う。施設を監督するための独立した非営利組織が必要だということになれば、開設は2017年中頃になるのではないかということだ。
プログラム運営に関わる人の51%は薬物常用者でなくてはならない
マーフィーが、全米初の合法薬物注射施設を開設する計画について、なぜハームリダクションのアプローチが有効であるのかについて、話してくれた。
エミリー・グリーン:合法的薬物注射施設の運営で、現役の薬物常習者が果たす役割は何ですか?
シロ・マーフィー:われわれの内規では、理事会の51%、スタッフの51%、ボランティアの51%をプログラムの参加者(現役の薬物使用者)が占めることが定められており、正式には「自分たちで奉仕する、あるいは自分たちで奉仕することが可能であること」と定義されています。だから実際に、現役の薬物使用者が施設運営の過半数を占めることになります。
E・G:合法的薬物注射施設には医師か看護師を常駐させる予定ですか?
S・M:はい。医学的な緊急事態や支援には医療の専門家が対応し、利用者が摂取しようとしている薬物に関する情報提供は当事者スタッフが対応することになると思います。
アメリカの薬物との闘いの難しさ。常用者はあちこちに散らばっている。
E・G:施設の大きさはどのくらいになりますか?
S・M:アメリカではカナダの「インサイト」のようなモデルにする必要はないと思います。(インサイトは2003年からカナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバーで運営されている合法的薬物注射施設で、ヘロイン使用者が集中している地域にある。)
なぜなら、インサイトはバンクーバー特有の問題に対処するためのもので、バンクーバーには、あまり言い方はよくありませんが、ヨーロッパ的な赤線区域があります。もちろん利用者はバンクーバーじゅうにいますが、インサイトが採用している方針はとても費用がかかり、かつ薬物使用者が集まっている地域で効果を発揮するものなのです。
たとえば、あなたが薬物利用者で、今ポートランドにいるとしましょう。ポートランドのダウンタウンに合法的薬物注射施設を開設したらどうなるでしょうか? ポートランドのダウンタウンの薬物利用者が利用するでしょう――おそらく85%は利用するでしょう。現在はホームレスで、屋外で麻薬を使っている人たちです。でも、もしあなたがポートランドの南東地域に住んでいたら、利用すると思いますか? おそらく利用しませんね。そのためだけに、バスに乗ってわざわざ出かけたりしないでしょう。だからカナダと違い、アメリカでは複数の施設が必要となるのです。移動可能なトレーラーを使ったり、同時に10カ所で開設したりする必要があるのです。
それがアメリカにおける薬物との闘いの難しいところです。薬物接種をする人たちが一か所に集まっているわけではない。町に薬物が売買される場所があるという話は聞きますが、それらは分散しているのです。これは複雑な問題で、合法的薬物注射施設はその解決策になるに違いないのですが、使い勝手のよい施設でなくてはなりません。
ホームレス、精神病、虐待、トラウマ…薬物乱用者が抱える複雑な問題と必要なサポート
E・G:このような施設は、薬物を断ちたいと願う人たちに、治療サービスへのきっかけを作る役割も果たしていると思いますか?
S・M:はい。われわれは薬物使用を二通りのタイプに分けて考えています。安定的な薬物使用型と乱用型です。安定型の薬物使用者は生活を管理し、薬物の使用量を控えめにすることができます。安定的な薬物使用者は、薬物の使用をやめたり、量を減らしたり、逆に増やしたりという調整を絶えず行っています。一方で乱用型の薬物使用者は、コントロールがきかなくなり、薬物を摂取することが生活の中心になっているようなものです。そして、乱用型の常用者のすべてがそうだとは言わないまでも、たいていの場合複数の問題を抱えています。ホームレス、精神病、虐待、トラウマ、そういったことがこの乱用型の薬物利用に絡んでいるのです。
ですから、乱用型の薬物使用者に対しては、治療施設や解毒施設、そして同時にセラピー施設や精神医療施設へのアクセスを明確に示すことがとても重要です。われわれの望みは、さまざまな問題を抱えるさまざまな人たちにとっての案内役になることです。そして1つの選択肢として治療を示し、常に提供できる状態にしておくことです。しかし正直なところ、オレゴン州ポートランドは、ワシントン州と似ています。解毒施設や治療施設の資金調達は、必ずしも容易ではありません。医療保険制度改革以来、状況は大きく変わりました。
多くの人たちが医療保険に加入し、その結果、低所得の人たちが民営の医療機関にかかりやすくなりました。そのような医療機関をかかりつけにする低所得の人たちが増え、長い順番待ちをしています。医療サービスに多くの患者を紹介すると同時に、さらに多くの医療機関の宣伝にもなっているのです。
警察は合法的薬物注射施設の開設を望んでいる。
E・G:キング郡の検察局とシアトル警察は、安全な麻薬使用施設の開設に協力的ですか?
S・M:それは先方に直接聞いてみるべきですね。何度か話はしましたが、話し合いはまだ始まったばかりです。
ストリートルーツでは実際に問い合わせをしてみたが、どちらもコメントをしぶった。キング郡検察局の広報担当者は、立場を表明するのは時期尚早だと言い、警察からの返答は締切りに間に合わなかった。
E・G:警察が注射施設を利用している人たちをターゲットにして、薬物所持などの現行犯で逮捕するかもしれないという懸念はまったくありませんか?
S・M:ありません。われわれにはシアトルで25年間、警察や検察と協働してきた実績があるからです。薬物に走らざるを得ない人、直接サービスを使える人や使う必要がある人がいることは、彼らも理解しています。代弁するつもりはありませんが、警察はそういう人たちに、他の人たちと同様にサービスを受けてもらいたいと思っています。正直に言ってしまえば、公共の場での薬物使用や薬物中毒死を終わらせるこのアイデアを最も支持しているのは警察なのです。それが原因で多くの苦情が寄せられているからです。
政治なんてクソくらえ。モットーは「私たちがやらなくて、誰がやる? 今やらなくて、いつやるの?」
E・G:施設の開設を阻んでいるものはありますか、それとも円滑に開設までこぎつけると考えていますか?
S・M:特に障害になっているものはないと思います。私たちの活動を阻害するのは、「うちの近所ではやめてくれ(”not in my back yard”略してNIMBY)」というNIMBYな人たちであるのが常ですが、この計画に関しては「うちの地区に開設してほしい」というコミュニティーもあれば、「うちの地区はよくわからない」というコミュニティーもあれば、同じコミュニティーでも「是非に」という人と「いらない」という人がいるところもあります。ですから、それらの意見を参考にして、最適な場所を考えていくつもりです。
薬物使用に関して、これまでわれわれが見落としてきてしまったのが、薬物を取り巻くスティグマ、そして思いやりの欠如です。多くの薬物使用者が他者から「お前は悪いやつだ」「恐ろしいやつだ」「やめるべきだ」と口々に言われはするけれど、「ありのままのあなたを愛している」という言葉をかけてくれる人は誰もいないということです。
人は愛されているとより良い選択をします。思いやりを寄せられるとより良い選択をします。われわれは彼らが愛され、大切にされることを望んでいます。われわれのプログラムに参加して、本当に久しぶりに存在を認められて泣き出す人が大勢います。わたしにしてみれば、政治なんてクソくらえだ。人びとが必要としているものは愛であり、誰もが愛されるべきなのです。だからわれわれのモットーは「私たちがやらなくて、誰がやる? 今やらなくて、いつやるの?」です。
もうウンザリなんだ、友人を失うのも、友人が苦しむのも、辱めや残酷な仕打ちを受けるのも。
E・G:なぜ今なのでしょうか?
S・M:私はもう自分の友人や愛する人たちを過剰摂取で失うのは嫌なのです。友人が大型のごみ収集容器の中でパニックを起こしたり、C型肝炎に感染したり、細菌に感染したり、自分の体を痛めつけたりするのは、もう嫌なのです、不必要なことなのです――薬物をやめるべきだと言いながら、一方で解毒施設を閉鎖したりする行政のやり方にはもうウンザリなのです。思いやりがある最もすばらしい人たちが、辱めや残酷な仕打ちを受けるのも、もう嫌なのです。だから、死にかけている人や苦しんでいる人がいること、政府は何兆ドルも薬物との闘いに投じているのに逆に人々を苦しめる結果になっていることを、みんなに理解してもらう必要があると思います。今こそみんなで立ち上がり、「だめだ、今注射をするな、ここで注射をするな」というべきなのです。
E・G:すでに資金は確保できているのですか?
S・M:われわれの組織は、計画を実行するまで資金を調達しません。まずは実行し、それから答えを探すのです。
E・G:合法的薬物注射施設の実現に向けて、大きく前進しているように見受けられます。実際に薬物を使用している人たちが、薬物使用者組合などの形で議会への働きを行っているのですから。現在の運動で、組合はどのような役割を果たしていますか?
S・M:アライアンスに実際にこの計画を持ちかけたのは、アーバン・サバイバーズ・ユニオン(マーフィーがシアトルで設立した薬物使用者の全国的な組合)です。両者は常に連絡を取り合い、協働しています。多くの会員が「ごみ捨て場は(注射するのに)安全な場所ではない」と言っています。この問題には長く取り組んでいます。ポートランドとシアトルにとって、バンクーバーはとても身近な場所です。そこでは10年前から合法的薬物注射施設が運営され、たいへんな成功を収めています。
吸引用パイプの支給によりC型肝炎、HIV感染や膿瘍のリスク激減。
E・G:吸引用のパイプを配布することがなぜハームリダクションの一環といえるのか、説明してもらえますか?
S・M:利用者がしょっちゅう来ては「これは知っておいてくれ。自分が注射器を使うのは、パイプが手に入らないからだ」と言います。そこでわれわれは考えて出た答えは、「それはとてもばかげたことだ」です。つまり、安全な方法を選びたいのに手に入らないから危険な方法を使っているというのなら、われわれが入手できるようにすればいいではないかということです。そこでわれわれは利用者たちと話し合い、ちょっとした調査をしました。大多数の使用者は、もしパイプの提供のようなサービスがあったら、注射を減らすと回答しました。だから提供を始めたのです。実はちょうど今、この事業の効果を調査しているところなのですが、成功しているのは明らかです。われわれは可能な限り吸引を続けてほしいと思っています。吸引で薬物を摂取するようになった人は、吸引を継続し、注射する可能性が低くなります。また、(注射から吸引に)戻りたい人にも提供しています。吸引ならば、C型肝炎への感染の可能性がきわめて低くなり、HIVへの感染や膿瘍のリスクは皆無だからです。
E・G:ポートランドでは、注射器の交換をしている団体が(不衛生な注射器使用や使いまわしのリスク削減のため)パイプを提供することはありません。あなたの非営利団体は、ポートランドに支部がありますね。プロジェクトの一環として、ポートランドでも吸引パイプの配布を計画しているのですか?
S・M:われわれのプログラムでは、それぞれの地域の薬物使用者がサービス内容を決めるというやり方をしています。ポートランドでも、薬物使用の当事者たちと話し合い、サービスが必要かどうか考えていますが、まだ具体的な結論には至っていません。彼らが望めば可能性はあります。
ホームレスの人が住む橋の下に自転車で注射器を届ける配達サービスが効果
E・G:あなたがたの注射器交換は1対1の交換ではありませんね。(ポートランド地域で交換を行っているマルトノマ郡の窓口や支援団体アウトサイド・インは使用済みの注射器を持ってきた人に清潔な注射器を渡すという、交換スタイルを採用しているが、マーフィーの団体では、注射器を持ってこなかった人にも注射器キットを提供している。)交換するやり方を採用しない理由を教えてもらえますか?
S・M:本質的にはそれが最善のやり方だからです。全国的にもこのモデルが標準となっており、どのデータを見ても、無条件に入手できるようにする方法が、C型肝炎やHIVの感染予防に最適であることが分かっています。保健〔衛生〕局の場合、科学的根拠より政策に従わなくてはならないことは理解できますが、われわれは科学的根拠に従います。
E・G:使用済みの注射器は受け取りますか?
S・M:すべての施設で使用済みの注射器を回収しています。実はその量を測っているのですが、われわれが配布するよりずっと多くの注射器が集まってきます。
ポートランド・ピープルズ・アウトリーチ・プロジェクトは、ピープルズ・ハーム・リダクション・アライアンスの施設の1つです。われわれは施設開設の支援はしましたが、実際に軌道に乗せたのは、自転車での配達サービスなどで支援を支えたポートランドのすばらしい現地スタッフたちです。ちょうど新しい考え方と古い考え方が出会ったという感じで、科学に基づいた観点やデータと、昔ながらのアウトリーチの働きかけを組み合わせ、必要としている人々のもとにサービスを届けることができるようになりました。橋の下に住んでいるホームレスが必ずしも注射器の交換に出向いてくれるとは限らないですから。
われわれにはデータと科学的根拠があります。同時に愛と思いやりもあります。人を相手にするときには、数字や統計には注目しません。1人1人に目を向け、その人の健康をいかに改善するかを考えます。それにわれわれの施設はサービスを利用している当事者たちによって運営されています。だからたとえばヘロインとフェンタニル(主に麻酔や鎮痛、疼痛緩和の目的で利用される合成オピオイド)の混合物が町で広まって、過剰摂取で死ぬ人が出てきたら、当事者スタッフがいない組織よりも早く対処することができます。われわれが敏速に察知して対処した事例が、3カ月後に政府から文書や電子メールで送られてくるということが、何度もあります。
不可能なことだといって高望みせず夢もみないのは、はじめから負けている。
E・G:あなた自身、薬物を常用していますね。以前「ヘロインで命を救われた」と話していました。そのことについて、説明してもらえますか?
S・M:かつてのわたしは典型的な行き場を失ったティーンエイジャーで、路上で生活し、考えもカオス状態でした。薬によってわたしは心を開き、考え方が広がりました。薬物のおかげで多くの人と出会い、関わるようになりましたし、さまざまな文化や考え方に対応するようにもなりました。わたしも両親もとてもリベラルな考え方でしたが、たとえば保守的な考え方の人たちを知るようにもなりました。LSDと幻覚剤もそうです。そのおかげで、わたしの人生はより良いものになりました。だからといって、すべての人の人生が必ず良くなるというわけではありませんが。
E・G:ハームリダクションの運動家の中には、薬物に対するあなたの考え方を批判する人たちもいます。あなた自身、常用者たちの良いお手本になっていると思いますか?
S・M:はい。希望を感じてもらえると思いますし、いつも言っていることですが、私たちは不可能と思えることでも高望みすべきだと思います。夢は大きすぎるということはありません。あらゆる夢を持つべきです。そうでなければ、いつまでも縮まって生きなくてはなりません。月に行きたいと願わなければ、人類が月に行くことなどなかったでしょう。1マイルを5分で走ろうと努力しなければ、走れるようになどなりません。そんなことは無理だと誰もが言っても、あなたの心はきっとできるはずだと言ってくれます。われわれも、薬物使用者が尊重されることなどあり得ない、そんなことは不可能だと言われます。でもわたしが子どものころ、同性婚などあり得ないと言われていました――でも実現しました。マリファナが合法化されることなどあり得ないと言われていましたが、ワシントン州でもオレゴン州でも今では合法です。不可能なことだといって高望みせず夢もみないのは、はじめから負けているのです。
E・G:あなたは今でもヘロインを常用しているのですか?
S・M:はい。今でも自分が使いたいときに薬物を使います。実のところ、最近は働きすぎで、薬物を使うことが減っています。わたしの薬物使用を阻む最大の障壁は、薬物使用者のための仕事が多すぎることなのです。
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