かつては女性の役割とされてきた「ケアラー(介護者)」に男性や30~50代の独身者が増えているという。介護の問題に20年近く取り組んできた「NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジン」代表の牧野史子さんにそんな事情を聞いた。

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牧野史子さん

男性や30~50代の独身者が増え多様化するケアラーの実態

 現在「NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジン」(以下「アラジン」)理事長の牧野史子さんは1995年の阪神・淡路大震災の際、兵庫県西宮市に住んでいたことから、仮設住宅を訪問し、心のケアをする活動に6年半取り組んだ。

「家族の介護に疲れた被災者から相談を受け、彼らが地域の中で孤立しないような支援の必要性を感じて、99年にケアラー(介護者)のリフレッシュプログラムを始めました」。その後、東京へ引っ越した01年、ケアラー支援の団体「アラジン」を立ち上げた。

 研修を受けたボランティアによる電話相談や、2人1組の「ケアフレンド」による訪問支援、「介護者の会」の立ち上げ支援のほか、個人宅の一角をケアラーの居場所として開放した「ケアラーズカフェ」などを開設。この取り組みは、今や全国20~30ヵ所に広がっているという。

 一方でさらなる課題も見えた。「ケアラーといえば昔は85パーセントが女性でしたが、最近は男性や30~50代の独身者が増えている。若年性認知症の20代の孫を介護している60代の方もいれば、統合失調症のお母さんをみている10代の子どももいて、多様化しています」

 高齢化が進む上に、共働きや単身世帯の増加など“家族”の在り方が変化していることがその要因の一つだと牧野さんは言う。中でも深刻なのが「ヤングケアラー」の問題だ。「共働きの両親に代わり、若くして介護を担ったため、1度も実家を出たことのない30~50代の人もいます。就職や結婚などの機会を失い、長期のひきこもりと同じ状態になっている人も介護という隠れ蓑のせいで社会から見えにくくなっています」

介護の経験を分かち合う「娘」「息子」サロン
介護しながらできる仕事づくり

 事務局の庭田悠甫さんによれば、「アラジン」ではケアラーが男女に分かれて介護の悩みを話す「娘サロン」や「息子サロン」、シングルのケアラーがおしゃべりを楽しむ「若者ひろば」などを開催している。その中で、興味はあっても、介護をしながらの一般就労は難しい現状と悩みが浮き彫りになってきた。

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庭田悠甫さん

 そこで「中央ろうきん若者応援ファンド」の助成を受け、介護しながらできる仕事づくりやプチ起業の可能性を探る「ジョブ倶楽部」を開始。「SNSやブログで情報を発信することから始めて、簡単なホームページ作成など、仕事につなげるITプログラム」のほか、農業や編集について学ぶプログラムも進行中だ。

 同時に、「いきなり始まることが多い介護」に備えて、30~40代の働く世代にケアラーの体験談を知ってもらう勉強会「夜活」も都内で展開する。「受講した仲間同士で情報を共有したり、居場所となる『ケアラーズサロン』をつくったりしてもらえれば、孤立化の予防にもなる」と牧野さんは話す。

 こうしたプロジェクトの結果をもとに「介護離職などに悩む企業に研修するためのテキスト」も作成する計画だ。

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「一人っ子や、きょうだいと疎遠な人は、誰にも相談できず、介護を一人で抱え込んでしまうことが多い。子育てなどで思い通りにいかない経験を積んでいないシングルの人は、なおさらがんばりすぎてしまう傾向がある。できるだけ一人で介護を担う環境を避け、チーム体制での介護環境を整備することを推奨したり、ドイツのように家族介護を労働とみなして、年金や労働保険の受け取りを可能にする法整備も必要です」

(団体概要)NPO法人 介護者サポートネットワークセンター・アラジン
介護者が地域で孤立しない、仕事や人生をあきらめなくてもいい社会の実現を目指し、介護者のための電話相談・訪問相談、地域で介護者が集う場の創設と運営及び運営の支援、介護者に寄り添う人材の育成、地域の社会資源を巻き込んだネットワークづくり、介護者の会や介護者支援団体の全国組織化に取り組む。
ホームページ:http://arajin-care.net



ビッグイシュー・オンライン編集部より:本誌連動企画として、「中央ろうきん若者応援ファンド2017」の特集記事をお届けします。この記事は「中央ろうきん若者応援ファンド」の提供でお送りしています。

中央ろうきん社会貢献基金
 ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関。 「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの社会的不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者の自立支援に取り組む団体を応援する助成制度です。 2018 年は、10 団体に総額1,417 万円を助成しています。







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