森林面積が村の95パーセントを占める岡山県・西粟倉村。過疎化と高齢化が進んだ村ながら、地域資源である森林を活用した事業が伸び、移住者と雇用を増加させている。その中心的役割を担っている「株式会社西粟倉・森の学校」代表の牧大介さんに話を聞いた。

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西粟倉村のICO構想取材を受け、ビッグイシュー日本版 245号(2014.08.15 )特集「いま、森をめざす」より記事転載。(状況や肩書は当時のもの)。西粟倉村のICO構想に繋がっていく土壌を感じられる記事です。 

人口約1600人の村で70人の雇用を生み出す

 岡山県中部の東端、兵庫県と鳥取県に接する山深い地域に位置する西粟倉村。面積の95パーセントを森林が占めるというこの村で、向かった先は山を背に佇む小学校跡。旧校舎の玄関に足を踏み入れた瞬間に、爽やかな木の香りに包まれた。迎えてくれたのはここにオフィスを構える「株式会社 西粟倉・森の学校」の牧大介さん。旧校舎の中には西粟倉の木で作った雑貨などが並ぶ「バイテン」や、木々を自由に使って創作できる「工作室」などがある。案内された部屋のテーブルも、地元の工房が西粟倉の木で作ったものだった。

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バイテンの様子
人口は減少し、国からの補助金も見込めない時代ですから、地域にあるもので価値を生み出して経済を回していかないといけません。この村には、山がある。森林という地域資源を中心に据えて、そこからいろいろな事業を展開し、村が経済的に自立できるかたちを作り出したいと考えています。

 村の人口は約1600人。2004年の「平成の大合併」では近隣市と合併せず、自立の道を選んだ。その西粟倉村が08年に掲げたのが、「50年生にまで育った森林の管理を、村ぐるみであと50年がんばろう」という「百年の森林(もり)構想」。それを具体化し、森林事業を中心にしたまちづくりを推進していくために、それまでに牧さんが立ち上げていた森林経営コンサルタント会社「トビムシ」と西粟倉村が共同で設立したのが、この「森の学校」だ。
まず取り組んだのは森にかかわって商品や事業を生み出す起業家型人材の育成です。起業家や起業を目指す人をサポートすることで西粟倉村に林業関係の仕事を増やし、現在までに70人もの雇用を生み出しました。


ファンドに800人が出資。 間伐面積6倍の300haに床材、1ヵ月に1万枚販売

 また、「森の学校」の設立に先立ち、村とトビムシは森林管理の資金を得るために「共有の森ファンド」を立ち上げ、一口5万円からの小口出資者を募った。「村として森の再生に真剣に取り組むぞという姿勢を明確に打ち出したことが共感を呼んだのでしょうか。当初は400人、その後に募った別のファンドも含めると計800人もの方が出資をともなうかたちで、この村を応援してくれることになりました」 

 集まった〝顔の見えるお金〟をもとに、林業機械を購入して森林の整備に着手。手入れをしてもお金にならないからとあきらめられ、放っておかれた山々の間伐に、村ぐるみで動き始めた。その結果、年間50 haだけだった間伐面積が、5年間で300haにまで拡大。また、それまで間伐材は山に切り捨てられていたが、切り出した丸太を販売まで一括して行うようになった。「面積は6倍の増加でも作業量は10倍以上になり、既存の雇用の安定にもつながりました」

「森の学校」が森林組合や山主から直接木を買い取ることで、売り主は原木市場までの運賃や市場手数料が不要となり、1立方メートル当たり3千円ほど収入が増えた。また、「森の学校」は買い取った木を販売するために、製材工場を設立。製材された木は、村内にある工房などに売るほか、自社で製品にまで仕上げて販売。また、建築材として工務店や住宅メーカーにも販売している。

「ベンチャーは既存の市場では太刀打ちできない。ニッチな市場から開拓していこう」という考えのもと、自社製品として企画開発されたのが床材「ユカハリ」シリーズだ。西粟倉産のスギやヒノキで作る50センチ角のタイルで、置いて並べるだけで簡単に無垢材の床を作り出せるというもの。オフィスの内装やマンションのリフォームなどでじわりじわりと人気を呼んでいる。「香りもいいし、感触もいい。木には調湿機能もあるので部屋の湿度も安定します。一面に敷き詰めるだけで空間が快適になると好評です」

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香りも素敵な「ユカハリ」シリーズ

 今では1ヵ月で1万枚を製造し、「森の学校」の年商の4割を占めるヒット商品となっている。大がかりな宣伝はせずとも、販路は自然と広がった。「この村の姿勢を含めて選択していただいているのかなと思います。また、実際に村に来て山を見たり、働く人と触れ合ったりする中で商品にも興味をもってくださる方もいます。もちろん品質管理も徹底、クオリティにも自信をもっています」

 このほか、村で切り出された木々は、「森の学校」のサポートを受けた工房などでテーブルや雑貨、割り箸、子どもの遊具などに姿を変える。「今まで丸太を売るという経験しかなかった林業従事者も、おじいさんの代から時間をかけて大切に育ててきた木が商品になり、消費者に届くところまで目に見えることが増え、それがやりがいにもつながっていると思います」


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 ショールーム 

足りない移住者用の家、 畑と水場付きの家の販売を計画

 村を応援してくれている出資者に村を案内することも多い。その際は、風景や食べ物など、その時々の西粟倉を味わい楽しんでもらえる内容を考える。牧さんや地元の名人が川で獲ってきたウナギを振る舞うこともあるそうだ。「そして、この村で一所懸命にチャレンジしている人たちに会ってもらうようにしています」と牧さん。たとえば、一人で村に移住してきて、村の木でテーブルを作っている工房主。また、村で最初に創業し、今や15人のスタッフを雇用している林業ベンチャーの代表。この村では、この5年で10社の林業・木材系のベンチャーが立ち上がっている。そうして50人もの移住者がこの村に定着した。

 ここで仕事をし始めて気づいたことの一つは、「移住者用の家が足りないこと」と牧さんは言う。「田舎で暮らしたいという人は増えていますが、まともに住める空き家が意外と少ない。仕事はネット環境さえあれば何とかなることも多いんです。だから来年から、移住者用の家の販売を始めます」。想定しているのは、100坪の敷地に30坪の南向きの平屋、畑と川で釣った魚などをさばける水場付きの家。値段は都市部の半額以下。骨組み部分は大工さんにお願いするも、あえて未完成のまま引き渡し、内装の仕上げを自力でやってもらう予定だという。「お金をかけずに時間をかけて自分の暮らしの基盤になるものを作ってほしい。田舎で生きていこうという人が増え、山や川、畑など、そこにある自然と向き合いながら生きていく人が増えるといいなと思っています」
新しい事業を生み出すことは一つひとつが地道で地味な作業ではありますが、そこに暮らす人、かかわる人たちが喜んでくれることがうれしい。僕個人にとって西粟倉は縁もゆかりもなかった場所ですが、日本の田舎とそこにある自然が美しく元気な状態であってほしいという思いがあります。そのためにも、人の生活を成り立たせながら、森や自然を守っていける仕組みを整えていきたいと考えています。
文:松岡理絵
Photos:中西真誠

(プロフィール) まき・だいすけ  1974年、京都府生まれ。京都大学大学院農学研究科修了。農山漁村専門のコンサルタントとして日本各地で新規事業の企画などに携わる。04年に総務省の地域再生マネージャー制度により西粟倉村に赴任。09年から株式会社西粟倉・森の学校の代表取締役。 http://www.nishihour.jp/company/index.html
肩書や状況は掲載当時のものです。

森の学校
http://morinogakko.jp/

編集部オススメ書籍

ローカルベンチャー 地域にはビジネスの可能性があふれている/牧 大介


西粟倉で2社で5億8千万円の売り上げを達成した筆者が、2009年からの企業ストーリーと「地域でのベンチャービジネス」を初めて語った。(書籍帯より)
上記記事に登場する牧さんの著作。1ページごとに、チャレンジを応援されているような気持になる、ワクワクがあふれ出て来る本です。2018年7月2日発売。


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『ビッグイシュー日本版』の関連バックナンバー

THE BIG ISSUE JAPAN245号(2014-08-15 発売)
特集:「今、森をめざす」
森を遊び場や仕事場にする人たちを訪ね、森や木々との対話の中で生まれる話を聞いた特集です。

・「人生を変えるツリークライミング」ジョン・ギャスライトさん
・「森の打楽器、雨上がりの山々にこだまする 間伐材を使ったカホンプロジェクト」/山崎正夫さん
・「林業女子会@京都」に楽しいたくらみ
などを掲載。
https://www.bigissue.jp/backnumber/245/ 


THE BIG ISSUE JAPAN266号(2015-07-01 発売)
特集:木の都市へ― ウッドファーストの世界

都市木造の普及を進めるNPO法人「team Timberize」と、東京・大阪で木造ビルに暮らす人々、また、駐輪場やアスファルトの路上を木材で覆う「都市の木質化プロジェクト」について取材。
https://www.bigissue.jp/backnumber/266/ 

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