ホームレスの人々の路上脱出を支援するため、1991年に英国で生まれた『ビッグイシュー』。
今では、その意義に賛同した有志達が、それぞれに独立した団体・企業として各国版の『ビッグイシュー』を立ち上げ、雑誌発行を行っている(英国UK版、NORTH版の他、南アフリカ、オーストラリア、韓国、台湾、日本の計7誌ある)。今回は、そのデザイン性で高い評価を受けている『ビッグイシュー台湾』を裏側で支えるデザイナーのインタビュー翻訳記事をご紹介する。


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Hideaki Hamada / The Big Issue Taiwan
『ビッグイシュー台湾』の表紙


『ビッグイシュー台湾』 が2018年7月1日に100号刊行を迎えた。100号のうち95号分の表紙デザインを担当しているのが台湾人デザイナーのアーロン・ニエだ。彼のコンテンポラリーかつスタイリッシュなデザインは、読者の心を掴むだけでなく、デザイナー業界からも大きな注目を集めている。

-『ビッグイシュー台湾』の表紙デザインを担当するようになった経緯を教えてください。

アーロン・ニエ: 2009年、僕がアーティスト・イン・レジデンス・プログラム(*1)に参加するためL.A.に行く前のことです。『ビッグイシュー台湾』の代表で編集長のファイン・リーから会えないかと電話をもらいました。こんな雑誌を創刊するんだと 『ビッグイシュー』のコンセプトを説明され、表紙デザインをやってみないかと言われたんです。まだお互いのことをろくに知らなかったんですけどね!

*1 アーティスト・イン・レジデンス・プログラム: 芸術家が一定期間ある土地に滞在し、作品制作を行うこと。異なる文化に触れることで新しい芸術表現を生み出すことが期待される。アーロン・ニエはL.A.の「18th Street Arts Center」が主催するプログラムの招待作家だった。


あまり深く考えず、彼から出された要件に沿って、手持ちの素材で6パターンのデザインを起こしました。それぞれデザイン意図も変えました。縦向きの雑誌に対し写真はすべて横向きで使い、バランスをみながらロゴやタイトルを配置していきました。ロゴやタイトルをいつも同じ場所に配置するデザイナーもいるけど、『ビッグイシュー』では違うやり方ができると思うんです。だって本屋で売る雑誌じゃないから、ロゴやタイトルが他の本に遮られる心配がないでしょ。

その後、編集長が英国でプレゼンし、僕のデザインのひとつがパスしました。 創刊から3号までは台湾人グラフィックデザイナーのZhihong Wangが、4号は編集部によるデザインが使われたけど、5号から僕がデザインするようになったんです。台湾の女優グイ・ルンメイが表紙でした。それからずっと僕が担当し、この度、100号を迎えたというわけです。こんなに長く関わるとは思ってもみませんでした。どうやら、僕の人生とかなりご縁があるみたいだね(笑)。

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The Big Issue Taiwan
アーロン・ニエが最初に表紙を担当した5号

-同じ表紙デザインでも、『ビッグイシュー』と他の媒体では違いがありますか?

私の気持ちが違いますね。市場では、『ビッグイシュー』は他の雑誌ほど知名度があるわけではありません。ぶっちゃけ、『ビッグイシュー』みたいなスタイルの雑誌はありません。新しいコーヒーショップやブックストアなど流行に敏感な人は多いけど、この雑誌で取り上げられている話題は社会と強いつながりがあるものばかり、すばらしいクオリティです。

読むと豊かな気持ちになり、もっといい仕事をしようと思えます。さまざまなテーマの記事に、いろんなアーティストの画像やイラストを合わせ、センスよく調整していく作業はとても面白い。

-ホームレスの人々が販売チャネルであることは何か影響していますか?

特にありません。最初の頃は、市場や販売者の反応を自分で観察してましたが、そのうち、編集長が販売者たちの反応を教えてくれるようになりました。暗いイメージの表紙はあまり好まれないとか、人物写真を使うなら小さくしすぎない方がいい、といったことです。これらはすべてデザインで調整できます。デザインが伝わりにくいなら調整する、それで読者が受け取るメッセージが変わるのなら、間違いなくそれはやるべきことです。雑誌の表紙デザインは純粋なアートではありませんからね。

-写真、イラスト、モデル写真…使う素材によってデザインアイデアは変わってきますか?

あまり変わりません。私のこだわりは「場面を分解」すること。素材によって編集条件は違います。イラストの場合はできるかぎりそのままをキープしますが、自分たちで撮った人物写真を使う場合はもっと自由な発想で手を加えています。

-表紙デザインにあたって、「自分ルール」はあるのですか?

「斬新な表紙にする」が私のポリシーです。画像を選ぶ時も、写真を切り取る時も、いつもそれを意識しています。商業的なモデル写真を使う場合は、アート性を高め、ユニークなイメージになるよう心がけています。写真を切り取るというのは「商業性」を消し去る作業なのです。写真のほんの一部だけを見せることで「知覚的」なものになり、メディアでよく見る「広告っぽさ」が消せます。

-表紙に使われる人物の感覚器官(目、耳、口唇、鼻、舌)がよく使われるのは、なぜですか?

僕の好みだね。よく撮れたポートレート写真には、どこに見出しを配置しようとそれなりに見映えするでしょうけど、人物の顔や目の上に配置することで「感覚的」なものになって、読者の心理的反応を刺激できるんです。レイアウト的には顔の上に文字をもってこない方がいいかもしれませんが、それだと五感に訴えるものになりません。

-表紙デザインのプロセスを簡単に教えていただけますか?

いつも焦ってますね!(笑) 表紙に使う素材をもらうまでに、頭の中にいくつか案を作っています。大抵は、複数デザインした中から良い方を自分で決めてそちらを仕上げていきますが、ごく稀に2パターン作って編集部に選んでもらうこともあります。どちらも捨てがたくってね。

-第42号からロゴが少し変わりましたね。何かきっかけがあったのですか?

初期のロゴは、なんとなく馴染みにくかったんです。長い間使って飽きたのもあるし、僕のテイストが変わったのもある。ちょっと古くさいなってね。そんな時、『ビッグイシュー韓国』のロゴを見て、色合いがモダンだなと感じたので、編集長にロゴを変えてみないかと提案しました。

ロゴはレイアウトに大きく影響する重要な要素。だから、旧バージョンに似たもの、全く新しいもの、水平向きのものなど、新たなフォントをオリジナルで創りました。一番よく使っているのは水平向きのです。

-表紙デザインを担当されて約8年になります。その間、『ビッグイシュー台湾』のスタイルは変化したと思いますか?

そんなに変わったとは思いません。常に変化しているからかもしれませんね。毎号、見た目は違うのに、全体としてはとてもバランスが取れている。毎回こんなに変化する雑誌は他にありません。台湾のほとんどの雑誌は決まったスタイルを貫いていますから。

-一番印象に残っている表紙はどれですか?

第54号の「Planetary Scale」です。とても詩的で、これまでのレイアウトを構成するロジックとは違ったので、柔軟な心持ちでデザインしました。読者が「Planetary Scale」という単語を目にしただけで、「何か違う」と思えるものにしたかったんです。写真家ジェシカ・トレンプの作品も素晴らしかったですし、表紙デザインすることで彼女の思いに応えることができました。

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The Big Issue Taiwan
写真家ジェシカ・トレンプの作品を使用した 54号

-特に印象に残っている写真家やイラストレーターはいますか?

答えに窮するなぁ(笑)クリエーターにはそれぞれに持ち味があって、僕のところに届く素材にはいつも意表を突かれてます。僕自身の好みはさておき、イラストレーターのNoritakeはとても印象的です。彼の作品を使った表紙はいつだってミニマルな仕上がり。とても落ち着いた感じがする作品だよね。彼の作品が『ビッグイシュー台湾』に使われているってポスターをコーヒーショップなんかでよく目にします。(61号『WE ARE WHERE THE WILD THINGS ARE』、72号『Life on Mars』)

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The Big Issue Taiwan
イラストレーターNoritakeの作品を使った61号と72号


-これまでデザインで壁にぶつかったこと、これから試したいデザイン技法はありますか?

何度か特殊な色を使ったことがあるんだけど、これからも定期的にやっていきたいですね。「色」は遊び心を出せる重要な要素です。「壁」と言えば、デザインを仕上げる時間があまりにもなかったことが何度かありました。デザインを担当した96号のうち20号は海外で仕事しながら仕上げたもの。ホテルでひとり、時計とにらめっこしながら作業してます。

この仕事は、僕が長期レギュラーで担当しているほぼ唯一のプロジェクトです。毎号、テーマも素材もとても面白いのがありがたいです。今後環境が変わっていけば、また新たなデザイントレンドが生まれてくるでしょうね。

[アーロン・ニエ プロフィール]
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自ら立ち上げたデザインカンパニー「アーロン・ニエ・ワークショップ」所属(現メンバー5名)、「国際グラフィック連盟(AGI)」会員。物書きとしての才能を表した後、デザインに深く関わるようになり、独特の観察眼を発揮。2002年以降、巧妙なディテール使いと、野心的かつ挑発的なヴィジュアルで、台湾のポップミュージック、書籍、雑誌、アート展示などに新たな深みと意義を加えている。2009年以降、シーン、シンボル、多様な素材に巧みかつ穏やかな解釈レイヤーを加え、デザインの新たな視点を開花させている。彼独自のビジュアル世界を心待ちにしているファンは多い。
www.aaronnieh.com

by Brian (Ming-chang Huang)
Translated by Sunny Tseng (Taiwan)
Courtesy of The Big Issue Taiwan / INSP.ngo

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。