中卒・高校中退のまま大人になった若者に、高等学校卒業程度認定試験(高認※)や大学受験、資格取得のための学習機会を提供し、セカンドキャリアを応援する「慈有塾」。授業料も教材費も無料という塾を訪ねて話を聞いた。

※ 旧大学入学資格検定。合格者は、高等学校卒業者と同等以上の学力がある者として認定され、就職、資格試験等に活用することができる。

貧困、不登校、少年院出身者も。15歳~30代前半の26人にボランティア講師15人が教える

現在「慈有塾」の代表を務める高木実有さんは大学に入学してから、中卒の友達や後輩に無償で勉強を教え始めた。

「大学卒業後、就職してからも、自宅や公民館、営業時間外の飲食店のスペースを間借りするなどして個人的に勉強を教え続けました」

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夏期講習の様子


口コミや若者支援団体からの紹介で生徒が3人を超えた2014年には、この無料塾を「慈有塾」と命名。16年には法人化し、八王子市のシェアオフィス内と多摩市内、翌年には、遠方から通う人のために杉並区西荻窪の書店内にも教室を開いた。現在は、おもに15歳~30代前半の26人が通っている。

「中卒や高校中退のまま大人になった人の中には児童養護施設や少年院を出ているなど、諸事情を抱えている人も多い。ですがもう一度勉強する機会を得て、高認を取ることができれば、就職や資格取得につながり、低賃金・不安定なアルバイト生活から抜け出すこともできます。私たちが目指しているのは、そんなセカンドキャリアを応援するための“塾”なんです」

経済的な理由で学ぶことをあきらめることがないようにと、当初から無料を貫く。また、「お金がない」「ごはんが食べられない」などの相談を受けた場合には、「慈有塾で事務補助などのアルバイトをしてもらう、寄付された食品を渡す、生活保護や就労支援につなぐ」といった生活支援も行っている。

5教科8科目を教えるのは会社員や元教師、看護師など約15人のボランティア。教材は全国から寄付されたものを使っている。

二人の子ども育てながら看護師の資格取得のため進学。慈有塾で学んだスタッフも

相談支援事業を担当している事務局長の藤原彩沙さんも慈有塾で学んだ一人だ。高認を取得し、今は通信制大学に通う。

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高木 実有さん/藤原 彩沙さん

「高校に入学して3日目の合宿で、同じクラスの女子7人から集団暴行を受けて不登校になり、アルバイトばかりしていました。知人が『中卒だと苦労するから』と、慈有塾のことを教えてくれた。社会福祉士の資格を取って、塾生のロールモデルになれたらうれしい」と話す。

塾生の7~8割は高認を取得後、就職に必要な資格の勉強に取り組む。「児童養護施設と少年院を出た21歳の女性はここで週に1~2回、8ヵ月間勉強して高認を取り、看護師の学校にも合格。看護助手としてパートで働きながら0歳と1歳の子を育てていたので、塾にいる間は、育児経験のあるボランティアが教室内で子どもたちをみていました」

今年度は「中央ろうきん若者応援ファンド」の助成を受け、警察官や看護師、保育士などを目指す塾生の試験勉強や面接の練習をサポートする。一方で、「途中で勉強をあきらめ、連絡が取れなくなる子をどうつなぎとめるか」という課題もある。

「中には、九九から始めないといけないレベルなのに、親も学歴がなくて勉強の仕方がわからず、高認を取るためにいきなり過去問題集を買って挫折する子もいます。活動する中で、教育格差の連鎖を断ち切る必要性を日々感じています。塾生が夢をかなえて、社会に巣立ってくれるのが何よりの喜び。この活動をずっと続けていくことが目標です」



一般社団法人 慈有塾
貧困等さまざまな理由で学習機会を逃してしまった若者を中心に、学習機会やセカンドキャリアを一緒に考える時間を提供する非営利の無料塾。おもに高認・大学受験を目標とし、負担は各種試験の受験料・塾までの交通費のみ。授業料・教材費は無料。
○本部・多摩教室:東京都多摩市関戸4︲24︲7 第16通南ビル5F︲B
○八王子教室:東京都八王子市三崎町4︲11トーネンビル5F コワーキングスペース八王子8Beat内
○西荻窪教室:東京都杉並区西荻南2︲24︲15 信愛書店内
http://jiyujuku.net/

中央ろうきん社会貢献基金

 ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関。「中央ろうきん若者応援ファンド」は、家庭環境や経済状況、病気や障害などの社会的不利・困難を抱え、不安定な就労や無業の状態にある若者の自立支援に取り組む団体を応援する助成制度です。
2018年は、10団体に総額1,417万円を助成しています。
http://chuo.rokin.com/







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