日本では臓器移植の希望者がおよそ14,000人。そのうち、移植を受けられるのは年間およそ400人(※日本臓器移植ネットワークの調査より)。ニーズは高いが提供者が少ない、これは海外でも見られる傾向だ。では、臓器提供を有償にするとどうなるだろうか。お金をもらえるなら…と検討する人は増えるかもしれないが、貧困状態にある人が臓器提供することで、よりひどい状態になることも。『Big Issue North』より、「英国の臓器市場」についての記事を紹介する。

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体の一部を失ったら、あなたはどのようにして自分のアイデンティティを保てるだろうか?  体の一部を提供することでお金を稼げるかもしれないが、罪に問われることもありうる。私たちの身体とアイデンティティの関係性とはいかなるものか。

自分の体の一部を売ることでいくら稼げるのかを調べようと思う、そう言うと大抵の人は顔をしかめる。続けて、私の場合だと総額数百万ポンド(約4億円)になるらしいと言うと、今度は驚きの表情を見せる。

ジュリア・ロバーツのように笑顔に2,200万ポンドの保険をかけないととか、キム・カーダシアンのようにお尻には2,100万ポンドの価値があるのとか、テイラー・スウィフトのように9,800万ポンド相当の美脚なのと言ってみたいものだ。でも現実にはもっと驚かされた。

例えば、私の脂肪や体液、血液を細かく剥ぎ取り、それに臓器や髪の毛、排泄物、爪などを付けると、総額で数百万ポンド(約4億円)にもなるというのだ。理論的には、何不自由なく一生安泰に過ごせそうだ。緊縮経済下の英国ではかなり魅力的な話ではあるが、当然これには落とし穴がある。そこまで体を切り売りしたら死んだも同然になるのだから…。

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体の部位ごとに値付けするのは難しい。大きな問題は、誰が買ってくれるのかだ。標本、移植、闇市場… 販売目的によっても価格は異なる。人間の体トータルで見ると、3,700ポンド(約51万円)〜3,400万ポンド(47億円)まで大きな幅があるという。

これにはもちろん、生命に必要不可欠な部位も含まれている。ちなみに、心臓は42万5,000ポンド(約5,900万円)、肺は20万6,000ポンド(約2,800万円)、靭帯と骨は3,600ポンド(約50万円)。一方、体内に約5リットルある血液は500ccあたり225ポンド(約3万円)、体を覆う皮膚は1平方インチあたり6ポンド(約800円)と言われている。


髪の毛や母乳、「再生可能」パーツの市場


そこまでしなくとも、英国では「再生可能パーツ」の市場も活発だ。

髪の毛の販売は合法だ。英国のウェブサイトでは、きれいな髪なら50cmほどで60~200ポンド(約8,000円〜27,000円)で販売されている。私のロングヘアなら少々傷んではいるものの80ポンド(約11,000円)くらいにはなるだろう。


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子育て中の女性の余った母乳は、未加工もしくは冷凍状態で約25ミリリットルあたり1.6ポンド(約220円)ほどで販売されているとか。年間で続ければ約200万円になる。男性にだってチャンスはある。精液は外来1回あたり35ポンド(約5,000円)、連続で通えば最高750ポンド(約10万円)になるそうだ。

もちろん実際の必要性から取引されているものもあるが、「フェティシズム(性的感情)」の対象になっているものも。英国の母乳販売サイトには、男性向けに販売してもよいかを問う項目がある。「eBay」では人体由来の商品販売はサービス利用規約に反するが、非合法ウェブサイトでは、尿・爪・脇毛が「性的な目的」で販売されている。私だって使い古しのイヤホンくらいなら売れるかもしれないけど、それが誰かに「楽しまれている」とは、いくらお金を稼げるとしても考えたくない。

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治験に参加するメリット・デメリット


治験に参加して稼ぐという方法もある。イングランド北部には、さまざまな疾患(湿疹からアルツハイマー病まで)の治療法を発見するための治験施設がある。ある研究では、18〜50歳までの健康な男女がマンチェスターの施設で行われる4週間の検査に参加した(2泊の宿泊 x 3回を含む)。参加者は ’期間中は血液採取に同意しなければならない’ が、1,920ポンド(約26万円)の報酬と交通費が支払われるのだから悪い話ではない。

しかし、こうした治験がひどい結果をもたらすこともある。2010〜2015年の間に新薬投与の副作用により病気を患った人々は7,187人、うち493人は重篤状態、197人は「顕著な障害を負った」(英国「医薬品・医療製品規制庁」)。治験はやめておこうと思った。

本気で体のパーツを売って稼ぎたい、そのために手術を受けることや非合法取引も平気なら、闇市場に臓器を売る手があるとも入れ知恵された。腎臓を売ったらいくらになるだろう。奨学金を返せるかもしれない、などと妄想する。


臓器出品で人生を狂わせた男たち


もちろん英国では「人体組織法2004」によって、人体部位の営利目的での販売は禁じられている。移植を目的とした身体部位の提供に関して金銭的・賞品的な「見返り」を授受することは犯罪なのだ。

2003年、英国人男性が脳性麻痺を患った娘の治療費に充てようと自分の腎臓を eBay に出品したところ、9万5千ポンド(約1,300万円)の高値が付いた。その後、当取引はeBayにより取り消されたが、起訴されていれば、最長3年の懲役又は罰金、もしくはこれら両方が科されていただろう。

2007年、ウェスト・ミッドランズ在住のダン・タック(26)が「移植目的で人体部位の提供を教唆した」として英国で初めて起訴された。彼はギャンブルでつくった借金を返済すべく、チャットルームに「腎臓売ります。正真正銘の本物です。」「当方、健康な白人男性です。」と広告を出したのだ。一旦は2万4千ポンド(約330万円)での落札に合意したが、この取引がキャンセルとなり、執行猶予付きの懲役刑を言い渡された。半年後、彼は自殺した。


闇市場で需要が高い腎臓、アメリカではメジャーな卵子提供


臓器の闇市場で最も需要があるのは腎臓だ。これは、糖尿病、高血圧など欧米式ライフスタイルに起因すると考えられる病気が増えているため。世界保健機関(WHO)によると、毎年7,000もの腎臓が闇取引されているそう。

しかし、闇取引は深刻かつ経済的な悪影響をもたらし得る。臓器提供者が危険かつ痛みを伴う合併症を患い、長期間にわたる治療を必要とするかもしれないのだから。そして、臓器を売る前より経済的に苦しい状況に陥ることもありうる。

腎臓が問題外なら、他に何が売れるだろうか? 合法かつ生命に影響しないものといえば、生殖に関するものか。英国では女性が卵子を提供すると750ポンド(約10万円)の対価を得られる。しかし、そのためには2週間にわたって毎日、体調に悪影響をもたらしかねないホルモン注射を打ち、卵子採取を受けなければならない。


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もちろん米国では卵子提供はすでにメジャー、競争の激しい市場となっている。学位を取得した女性なら遺伝子セットを1万500ポンド(約200万円)で売ることができる。ドナーはウェブサイトに自分の写真と経歴を掲載する。どの女性も、まばゆいばかりの笑顔と艶のある髪で買い手を魅了する。彼女たちは稼いだお金をカード支払いや大学の学費に充てる。高額報酬に惹かれ、3度、4度と卵子提供を繰り返す女性たちもいる、身体のことを顧みずに...。


硫酸をかけられて皮膚移植が必要だった女性にとっての「ギフト」


とはいえ、体パーツの取引によって誰かの命が救われる、ないしは苦しみが軽減されるならそれは本当に価値のある行為だ。皮膚は1平方インチあたり6ポンド(約800円)にしかならないが、25歳の時に元恋人に硫酸をかけられたケイティ・パイパー(元モデル、現在は活動家兼テレビ司会者として活躍)にとっては非常に貴重なものだった。

「ボロボロになった皮膚をすべて除去する必要があったのですが、手術前に感染症を防ぐため遺体から取った皮膚を移植したのです。黒人、アジア人、白人、いろんな人の遺体の皮膚を使ってパッチワークのようでした。」


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「高齢者のものも若い人のものもありました。顔や胸を移植した皮膚で覆った状態で2〜3日置き、剥がし、患部に自分の皮膚を移植したのです。遺体から取り出した皮膚のおかげで命拾いできたのです。」

彼女は匿名のドナーから角膜の提供も受け、おかげで左目の視力を取り戻すことができた。3年間、角膜が傷ついた状態で過ごしていたが、「いつも痛みがあった」と言う。亡くなった男性から提供された角膜は彼女にとって「すばらしいギフト」だった。


生体移植に対価を払うことの妥当性


生体移植に相応の対価を支払えば、移植を待ち続けて亡くなる人の数を減らせる、そう語るのはマンチェスター大学の倫理学教授で『How To Be Good: The Possibility of Moral Enhancement』の著者ジョン・ハリスだ。臓器の供給量を増やすには臓器にお金を払うべき、というのが彼の主張だ。


「正当な報酬を与えることは利他主義を否定するものではありません。結局、国民保険サービス(National Health Service)の経費削減につながります。」

「お金が絡むなんて卑しいという意見がありますが、違います。臓器不全で亡くなる人々がいる一方、数多くの臓器がムダになっているのですから。」


英国では、2016年だけで心臓、肺、腎臓、肝臓の移植を待ちながら亡くなった人は約500人。「移植待ちリスト」には依然6,500人が名を連ねている。2016年10月、メイ首相は臓器移植に関する制度変更を発表した。新制度では、反対の意思を表明しない限り、すべての人は死後の臓器提供に同意しているとされる。


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「臓器提供者に対価を支払わない現行制度は全くもって利他的ではありません。」とハリスは言う。

「現行制度では、医師や看護師、臓器移植コーディネーターなど臓器提供者以外の人たちには対価が支払われています。臓器移植を受けた人々はこの上ない’贈り物’を手に入れます。臓器提供者だけが自己犠牲を求められています。これは公正ではないし、合理的でも効果的でもありません。」

どういう料金設定が有効かはさまざまな方法を試してみるべき、と言うハリス。

「現在、腎臓は3万ポンド(約400万円)で販売されています。大金に思えますが、人工透析を必要とする者への国民保険サービス費用は年間3万5,000ポンド(約480万円)です。移植された臓器は少なくとも5年は機能します。」

対価が発生する制度になれば、これまで臓器提供を考えなかった者たちも検討し始めるかもしれない。

「お金が必要な人は臓器提供により前向きになるでしょう。貧しい人々は社会に何のメリットももたらさないことに手を出しがちです。彼らが所有する「財産」でお金を得て、誰かの命をも救えるのなら、これを否定すべきではありません。」


結局、身体パーツを売ってみようという私の冒険は、髪の毛を売って数十ポンド(約5,000円)を得るどまりだった。体の一部パーツを売ったら大金を得られると思えても、「生命に影響しないパーツ」から得られる額はしれてるし、不当な取引を上回るほどの価値は見い出せなかった。やはり無償で提供できるものが一番、それが私の結論だ。


By Sophie Haydock
Courtesy of Big Issue North / INSP.ngo

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