ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や団体などで出張講義をさせていただくことがあります。今回の行き先は関西学院大学。
関西学院大では全学部に開かれた人権教育科目の一環として「人権問題演習」を開講しており、“「人権」をめぐる諸問題について、他人事ではなく「自分たち自身に関わる事柄」として学ぶ機会を提供すること”が、この授業の趣旨に据えられています。

社会学部・阿部潔先生のコーディネートによる「人権問題演習」の2018年度の統一テーマは「“働くこと”と人権の現在」。このテーマのもと、「就職と人権」「労働と人権」「生活と人権」の3つのテーマに分かれて授業が進められます。ビッグイシュー日本のスタッフは、テーマ「生活と人権」を担当。今回はそのエッセンスをレポートします。


ビッグイシュー日本スタッフが「生活と人権」で問いかけたこと

まず「ホームレス問題」とそれを解決するための活動をおこなっている「ビッグイシュー日本」の取り組みについて知ってもらった上で講師から学生への〈問いかけ〉として、いくつかのトピックを出し、議論を深めていきました。

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「ホームレス」のようにひとくくりにされ、誤解されがちな状態はなぜ生まれる?

「ホームレスの人は働かないから路上生活になった」などと思われがちですが、ホームレス状態になる理由は人によりさまざまです。

―会社が倒産した
―自分が病気になった
―派遣切りにあった
―震災、災害により事業ができなくなった
―親の介護のため離職したが、復職しようにも年齢制限によりできなくなった

「ホームレス」は見た目では判断できません。実際、話をしてみると性格もそれぞれの個人でまったく違っています。つまり「ホームレス」とは、住まいがない「状態」を表しているに過ぎず、決して特定の「人格」を表している用語ではないということです。

似たような「状態用語」として【LGBT】【貧困】【在日外国人】【外国人】【病気、性病】【シングルマザー】【定時制(学校)】【ひきこもり】などが学生から挙げられました。

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それぞれひとくくりに捉えられる場合が多いのですが、「一人ひとりの人格に違いがあることに無理解なのでは」という意見から、なぜそのような無理解が広がっていくかを議論。

「マスメディアの影響(そこでの表現・伝えられ方)によって、偏見や嫌悪感、ネガティブなイメージを作り上げてしまう」

「言い切りやすく、短い単語で表現することでわかりやすいレッテルを貼り、広まる。つまり“〇〇の人は××だ”と決め付けやすくなる」

「クラスタや集団として捉えることで、特定の人格を持たせたイメージが決めつけやすくなる」

「ネガティブな意味だけでなく、ポジティブな意味を決めつけている用語もある」

など、誤った意味で使われがちな「状態用語」について学生から指摘がありました。

なぜ日本の若者は自己肯定感が低下したか

仕事を失い、家を失い、路上生活となった人は希望を失い、自己肯定感も低くなっています。そのような状態では、路上から自立への壁を登りきる力が残されていません。

また自己肯定感の低下は、ホームレス状態の人だけでなく日本の若者全体に見られる現象です。

若者の自己肯定感

出典:内閣府「平成26年度版 子ども・若者白書


その原因について学生から仮説が寄せられました。

「“自分ではなく周りのほうが大事”と教えられてきたこと、周りに合わせろ、という空気の存在が自己肯定感の低下の原因では」

「1970年代までの高度成長期(の働き方、時代の空気)と比較したとき、自分たちの能力・成果を単純比較して低く見てしまうからでは」

という、行き過ぎた同調圧力や、自分の意見を主張しないことなどが、自己を低く見すぎる原因なのではという意見が。さらに、

「未来への希望が持ちにくくなっている。なぜならテクノロジーが過剰に発展して、求める生活水準が高くなってきており、それが逆に生きづらい社会を作っているのでは」

「安定を目指した社会が日本の問題点である。つまり、世の中においては“変わらないこと、安定”が求められており、それにもかかわらず現実として社会は急激に変化していく。そのギャップによって希望が持ちにくい」

といった議論もなされました。

「貧困は自己責任」で放置すると社会はどうなる?

厚生労働省の調査によると、リーマンショック直後と比べると、3万人以上いたホームレス状態の人の数は5,000人を切っているとされています。しかし、貧困問題が解決に向かっているわけではありません。

生活保護を受ける水準以下で暮らしながら、生活保護を受けていない世帯数が500万世帯あると見られており、ネットカフェで暮らす「ネットカフェ難民」も東京都だけで5千人はいるとされています。その他にも不本意ながら非正規社員である人、ニート、奨学金返済による破産など、貧困やホームレス状態になるリスクのある人の数は多いのです。このままの状態を放置するとどうなるでしょうか。

「格差が広がる。機会が平等でない状況がすでに生まれてきている。世帯の収入によって、就学率、大学進学率にも差があり、そもそものスタートラインの違いが大きい」といった学生からの意見が出ました。貧困を自己責任論で放置することが社会にとってプラスになることはありません。このような広がる格差に、どのような手立てが有効か考えました。

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「具体的には、小学生に通学カバンを支給する事例がある。ランドセルは高価なので購入するのが困難な家庭も存在する。文房具や通学に必要なものは、みんなが同じものを持てば連帯感も生まれて良い」

「必要最低限(ミニマムの保障)を公的に保障することの必要性。ベーシックインカム」

「税制の見直し。法人税の継続的な減税がなされてきたが、それを見直すことを検討する必要がある」

などの意見が寄せられました。

授業関連資料
内閣府「平成27年版子供・若者白書(全体版)

自己責任論を主張する人に貧困問題の実情を理解してもらうアプローチとは?


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関西学院大学の阿部潔先生


世間には「私は成功者だ。私は自らの努力で成功した。だから努力すれば、たとえ貧困だとしても誰でも成功できるはず。できないのは個人の自己責任だ」「貧困状態の人がいるのは仕方がない」「支援など、本人のためにも甘やかすのは良くない」「自分で決めたことならば、自分で責任を取るべき」などの“貧困問題の自己責任論”を唱える人は少なからず存在しています。

しかし、貧困を自己責任論で放置することは、社会のどの階層にも強いストレスを与えることとなり、さまざまな社会問題として現れてきます。

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では、自己責任論を主張する人に貧困問題の実情を理解してもらうには、どのようにアプローチすればよいでしょうか?

編集部注: ここで問題となる貧困については「相対的貧困」を念頭において話を進めることにしました。相対的貧困とは、先進国における貧困問題で、所得による格差のことです。例えば「学校の給食費が払えない」「修学旅行に行かせてあげられない」といったものも含み、特に子どもたちに破壊的なダメージを与えるとされます。
関連記事:
相対的貧困率とは何か:6人に1人が貧困ラインを下回る日本の現状(小林泰士)


自己責任を論じる際、自己責任を問われる人々に、どれだけ公平で豊富な選択肢が用意されていたのかを無視してはなりません。例えば「生きるか死ぬか」のような場面でなされた選択は、たとえその時点で自分が決めたことであっても、自己責任を問うことはできないのです。
参考:“貧困”の問題は「絶対的貧困」からスタートし、現代では「社会的排除」の考え方へ。「社会的排除」に対抗する「社会的包摂」の考え方

その前提を無視しがちな人々に対する有効なアプローチを探ってみました。

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・数字、データを提示して理解してもらう

生活保護を受給する水準以下で暮らしながら、生活保護を受給していない世帯数は500万世帯。同じくニートは200万人、ひきこもりは70万人以上と言われています。個人の問題ではなく、貧困に陥るリスクの高い人々の規模を示すことで、コトの重大性を理解してもらう方法があります。

・近現代史を正しく学び、正しく伝える

日本の学校教育で見過ごされがちな「近現代史」を学習することも重要です。近現代史を学ぶことで、人権問題を含む社会課題がどのような理由で現代まで続いているのかを深く理解することができます。

編集部のオススメ:
「選挙で勝ったから、それが民意だ」という独善的な考えがなぜ現代にまかり通るのか?を理解するには、「民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道」がオススメです。


・当事者から語ってもらう

社会課題を画面の向こうにあり消費する「コンテンツ」として捉えると、他人事になり「自分に影響や問題はない」と見過ごしてしまうことがあります。社会課題の当事者に直接その人が経験したことを語ってもらうことで、共感や当事者意識を刺激するという手段もあります。

編集部補足: 今回の授業には西宮北口の販売者・近藤さんも参加。 学生のみなさんに向けて、ホームレスになった経緯や、ビッグイシューの販売者としての現在のお話をしました。
和歌山県で生まれた近藤さんは、大学卒業後、大阪で三田工業(現・京セラドキュメントソリューションズ)に就職し、製造部で勤務。1998年、三田工業が会社更生法の適用を申請。しばらくして近藤さんは退職。電機メーカーの子会社の工場でピッキング作業など、さまざまな職場を転々とするうち、だんだんと生活が苦しくなり、家賃も払えない状態が続き、路上に出ることになります。


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そして事務所ビッグイシュー日本の販売者となった近藤さんは、現在ステップハウス(※)に入居しながら販売に従事しています。

近藤さんのお話には、学生のみなさんから「これまでホームレスの方に対して持っていた、自分の“ホームレス像”といったものが完全に取り払われました」といった感想もありました。

最後に、どのように自己責任論を覆すか?「お金優先で人権に興味を持たない人たちに向けて、どうやって人権の重要性や必要性を伝えればよいか?」をテーマに、レポートを作成。「様々な立場を体験できる教育の機会、利益追求とともに人権教育の重要性を伝える教育の機会の提供」「人権問題について娯楽なども含めたメディアでの露出を増やす」など、難しいテーマについてそれぞれの立場で取り組んでいました。

阿部先生「学生は身近に・実感を持って考えることができて初めて学ぶことができる」

「"働くこと"と人権の現在」という統一テーマのもと、「生活と人権」について学生たちに考えてもらうのに、関係者/当事者から話を聞くことが必要だと判断してビッグイシュー日本を選んでいただいたというコーディネーターの阿部先生に、授業の感想をお伺いしました。

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「今の学生が『人権』を考える上で、身近に・実感を持って考えることができてはじめて、より大きな/マクロな視点から『人権』それ自体について学ぶ/考える力を育むことが可能になる、と授業を通して実感しました。

その点では「ホームレス」という言葉から何かしらのイメージを持ってはいても、実際に当事者から話を聞いたり問いかけたりしことがなかった学生にとって、ビッグイシューの関係者と販売者の「生の声」を聞く機会を得たことには、大きな意義があったと感じています。」

取材協力:都築義明



格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。