企業や行政、教育機関などを対象としたLGBT研修やコンサルティングなどを通じて、性的マイノリティも働きやすい職場づくりを支援している「NPO法人 虹色ダイバーシティ」。理事長の村木真紀さんとスタッフの橋本竜二さんに話を聞いた。

“淀川区の奇跡”で生まれた日本初、自治体のLGBT支援

 LGBT(※1)施策と言えば、東京都渋谷区と世田谷区の同性パートナーシップ制度が先進事例として有名だが、実はそれよりも一足先にLGBT支援を打ち出していた自治体があるのをご存知だろうか。それは、2013年に「LGBT支援宣言」を発表、翌年から電話相談事業や居場所づくり事業を始めた大阪市淀川区である。LGBT支援に100万円単位で行政予算がついたのは日本初のことで、その一連の施策を当事者団体として受託・バックアップしてきた団体の一つが、「NPO法人 虹色ダイバーシティ」だ。

※1 Lはレズビアン、Gはゲイ、Bはバイセクシュアル、Tはトランスジェンダーの頭文字。当事者の「自称」を組み合わせた、当事者によって使い始められた呼称。

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淀川区での居場所づくり事業


 「LGBT支援というのは、そもそも行政では根拠法がないので予算が付きにくく、担当部署も明確でないのが実状です。また当事者団体も、10人以上の実名登録が必要なNPO法が高いハードルになり、なかなか法人格を取りにくい事情がありました。その中で淀川区では、民間企業出身の新任区長が、ゲイであることをカミングアウトしていた大阪・神戸米国総領事(当時)と会談し、性的マイノリティの置かれている状況を理解。若手の区職員も積極的に動き始めました。そして、たまたま区役所の近くでNPO申請していた私たちに声がかかって密接なタッグが組めたのです。私はこれを“淀川区の奇跡”と呼んでいます」と理事長の村木真紀さんは笑う。

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理事長 村木 真紀さん

 もとはソフトウェア会社に勤める会社員。NPOのイロハも知らず、まさか自ら法人を立ち上げることになるとは思いもしなかったという。端緒は、うつ状態で休職していた11年。同じく休職状態にあったレズビアンの友人と話した会話がきっかけだった。「がんばっても報われる気がしない」「上司を信頼しきれない」……。業種も規模も異なる企業に勤めながら、二人の悩みは驚くほど似ていた。当初は30代女性が経験する仕事の壁か、と思っていた。が、英国のLGBT団体が公表していた「LGBTと生産性」に関するレポートを目にした時、二人がぶつかっていた壁の正体はこれだと確信した。

 「そこには、しっかりとしたデータをもとに、カミングアウトできないことによるストレスが企業の生産性に悪影響を及ぼすといった内容が書かれていました。これは日本でも紹介した方がいいと、パワーポイントにまとめて公表したら、企業から講演や研修のお声がけをいただくようになったのが活動の始まりでした。会社勤めをしながら趣味でやれればいいと思っていましたが、ちょうどオバマ大統領の2期目の就任演説でもLGBTのことが触れられ、『世の中も変わってきた』と励まされ、やるなら今しかないとNPOを立ち上げました」


同盟者「アライ」
彼らがいる職場は働きやすい

 現在の活動は、学術機関などと連携したLGBTに関する調査研究や、そのデータを基にした企業・行政のLGBT施策支援、さらには書籍・インターネットでの情報発信など多岐にわたる。なかでも職場に関するLGBT当事者の声を集めてデータとして可視化する調査研究は日本ではほとんど例がなく、国際基督教大学ジェンダー研究センターと共同で実施している「LGBTと職場」に関する累計8000人以上の声は国際的にも貴重なデータとして評価されているという。

 「私がもともと経理出身で、社交よりもエクセルを眺めている方が好きだったということもあって、すべての活動の基盤にデータづくりがあります。特にLGBTは職場や社会の中でカミングアウトしにくいが故に、その困難さも見えにくいマイノリティなので、声なき声をデータとして語ることで、企業や行政に働きかけていくことが大事だと思っています」

 たとえば、職場に関する調査では、うつ経験のある人がLGBで約4人に1人、Tで約3人に1人と、有病率が一般よりも顕著に高かった(※2)。一方で、LGBTが働きやすい職場のひとつの傾向として、「アライ(ALLY)・同盟者」がいる職場では心理的安全性が高まり、勤続意欲も高くなることがわかってきた。そのため、このアライの存在に着目。18年度からはファイザープログラムの助成を受けて、企業内でアライとなる中堅世代社員を対象にインタビュー調査を行うことで、アライの可視化とエンパワーメントに取り組んでいる。

※2 日本では12ヵ月有病率が1~2%、生涯有病率が3~7%。(厚生労働省HPより )

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アライであることを示すグッズ



 スタッフの橋本竜二さんは、「行政や企業、教育など多様な職場で働くアライ10人に、支援者となった経緯や困難を感じることなどを聞き、アライの存在を目に見える形で浮かび上がらせたい。その姿をロールモデルにして、各職場でアライになろうと思う人が一人でも増えてくれれば」と話す。


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橋本 竜二さん

 調査結果をもとに、「職場におけるLGBT&ALLYサポートブック」を作成して啓発ツールとして多方面に配布していく予定だが、アライという概念については村木さんもこう続ける。

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LGBTについての情報をまとめた冊子を制作

 「アライというのは、支援・被支援の関係ではなく、アライアンスを語源とする同盟者という意味で、職場の誰かの困りごとを自分ごととして主体的かつ連帯して行動する人を示す言葉です。この考え方はLGBTだけでなく、他のマイノリティの問題にも応用できるものではないでしょうか」


G7唯一、法的保障なしの日本
理解から法律や制度の整備へ

 ここ数年、日本でもLGBTの関心がかつてないほど高まっている。ニュースの話題になるだけでなく、LGBTを題材にした人気ドラマやアニメも少なくない。しかし、世界的にみれば、日本はLGBTの差別禁止法もなければ、G7の先進国で唯一、国レベルの同性パートナーへの法的保障がない国でもある。村木さんは、やるべきことは山ほどあると話す。

 「最近、講演をすると、『LGBTの理解を求めて』といったタイトルがついたりするのですが、理解だけではなくて実質的な法整備が必要なことを伝えたいと感じています。私自身、18歳でレズビアンであることを確信してからもう25年、四半世紀もの間、日本の法律は変わらなかった。身近にいるレズビアンカップルでは出産する人も多くなってきて、法に守られていない家族もどんどん増えている。法律が実態にまったく追いついていないんです。だから、『LGBTが話題になっている』だけで終わらせず、法律や制度を実態に追いつかせたい。調査を積み重ね、他のNPOや行政、企業と連携しながら、本気で課題解決に取り組んでいきたいと思っています」


(団体情報) 
NPO法人 虹色ダイバーシティ 
「LGBTも働きやすい職場づくり」を目的に、12年より企業などを対象に講演・LGBT研修を開始。翌13年にNPO法人化。これまで大手企業を中心に160社以上の研修実績がある。また、学術機関と連携した「LGBTと職場環境に関するアンケート調査」等の調査研究、さらには大阪市淀川区のLGBT支援事業を受託するなど、多様な性を生きる人たちの声を可視化すると同時に、その課題解決に取り組んでいる。
Twitter:@nijidiversity
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