人は誰しも、日常生活で多かれ少なかれストレスを抱えている。しかし路上生活者は、「心身を衰弱させうるレベル」で「長期的」にストレスを受け続けている。米国オレゴン州ポートランドのストリート紙『Street Roots』が、路上生活者ならではのストレスについて取材した。

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ポートランドの路上生活の人々(2018年)/写真:西川由紀子

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家がない人たちは、どういった状況ならリラックスできるのだろうか。

大事な就職面接を控えている、タッチの差でバスに乗り遅れた...etc. そんな時には一時的にストレスが高まる。スリルに近いこうしたストレスは「急性ストレス」といわれるものだ。これに対して「慢性ストレス」は、アメリカ心理学会によると「じわじわ痛めつけられ、長い年月をかけて、日に日に人の心を消耗させるもの」。生きる気力を奪いかねないストレスだ。

この慢性ストレスは、不安症や不眠症、免疫機能の低下など、精神的にも身体的にも健康を脅かす。「米国ストレス研究所」が挙げた50の典型例(*1)には、判断力の低下、気分の落ち込み、学習トラブル、外見に無頓着になる、早口になる又は言葉につまる等がある。しかし、さまざまな精神症状と同じで、慢性ストレスが引き起こす症状は多岐にわたり、症状が常に出るわけでもない。

*1 50 Common Signs and Symptoms of Stress (The American Institute of Stress)
https://www.stress.org/stress-effects#50


子ども時代からのトラウマに強度なストレス体験が加わり...

ホームレス生活者(およびその経験者)は、次の食事をどう手に入れるか、雨降りの日はどうやって夜を明かそうかといった日常の不安に加え、子どもの頃に負った心の傷が、大人になった今なお、深刻なストレスになっている場合もある。

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Christian Erfurt(Unsplash)

マイケル・ガーナーは13年間の路上生活で、計り知れないほどのストレスにさらされてきた。8歳のときに祖母に見放され、「児童保護サービス(*2)」に送られた。以来、10ヶ所以上の施設を転々とした。依存症に苦しみ、銃で撃たれたことも、精神病院に入院したこともある。

*2 児童虐待や育児放棄の通報に対し、責務を追う米国各州の政府機関。

「路上生活ではとにかく選択肢がありません。何をされてもおとなしく従わざるをえず、敗北感でいっぱいでした。もう死んでしまいたいと思い、何度も(自死を)試みましたが、できませんでした...」

そんな多くの困難を経験してきた彼だが、約3年前から支援者のおかげで薬物やアルコールをすっかり抜いて、「再起を目指す会」に参加するようになった。おかげで、周りから受け入れられ、前向きな気持ちになれ、久しく経験していなかった ”自分はここにいて良いのだ” という安心感を味わえるようになったという。

同じ頃、アパートにも入居でき、この2年はそこで暮らしている。路上生活におけるストレス要因の多くは軽減されたが、アパートに入ったことで新たなストレスもあるという。オーナーがしつこく立ち退きを迫ってくるのだ。ここ最近、体調を崩している彼だが、その原因ははっきりしていない。

「常に自分の生死のハンドルを他人に握られている、そんな気がしてしまいます」

「かといって路上に戻っても、刑務所行きになるか殺されるのがオチです。今の自分に路上生活ができるとは思えません。もうそのエネルギーは使い果たしてしまいました…」

女性ホームレスが抱えるストレスと解消法

路上生活2年になるヘザー・ハリントンも、いかに日銭を稼ぐか、厳しい寒さから身を守るか、所持品を盗まれないようにするか...日々ストレスと向き合っている。他の路上生活者たちとも、うまくやっていく必要がある。

「この街には、行き場所を失い、助けを必要としている人が、かつてないほど増えています。街を徘徊し、ぶつぶつ独り言をこぼし、歩道のど真ん中で眠り、目に見えない誰かに向かって大声を張り上げる。ストレス要因だらけの路上では、常に気が張りつめています」


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ポートランドの路上生活の人々(2018年)/写真:西川由紀子


同じく路上生活歴2年のエイミー・タルコも、他の路上生活者とのつきあいに苦労している。とくにストレスなのは、モリソン橋の下の騒々しさとプライバシーのなさだという(*3)。「まわりに大勢の人がいてプライバシーはゼロ。精神的にきついです」

*3 モリソン橋はポートランド中心部を流れるウィラメット川にかかる橋。最も交通量が多く、その橋の下を多くのホームレスの人々が寝床としている。


でも自然に触れるのが大好きな彼女は、最近では「ポートランド日本庭園」や洞窟庭園「ザ・グロット」を訪れ、自然を満喫したり教会音楽を聴いて穏やかな気持ちになれたと言う。スターバックスでの仕事も良い息抜きになっているようだ。

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Photo by Helen Hill 
モリソン橋の下で暮らす『Street Roots』の販売者エミー・タルコ
(「
女性の路上生活者も激増している米ポートランド、男性より苛酷なこととは」より)

「仕事中はよく笑っています。一緒に働いている人たちのことも好きです。私が落ち込んでいると、皆で私を笑わせようとしてくれたり。誰かが携帯スピーカーを持ってきて、夜、食器洗いや清掃しながら一緒に踊ったりするんです」

今、彼女は(ホームレス状態の)彼氏と一緒にアパートを探している。特に体や心を休めたいときには、安宿に泊まってテレビを見るなど、ゆっくりするようにしているという。

高血圧、精神疾患、襲撃...シェルターを飛び出す人、シェルターが心休まる場になる人

約12年に及ぶシェルター暮らしを経て心身の不調をきたしたジョン・スミスは、昨年から路上生活を始めた。現在は高血圧の薬を服用しているが、その原因は、遺伝的な要因と家がないことによる過度のストレスにあると本人は言う。「路上では気が休まることはありません。油断していると痛い目に遭うだけです。」時々、妻の家や娘の家を訪れるときだけは、屋内で警戒心を解けるという。

精神疾患を患っているジェリック・ハレンスタインは、周辺環境からストレスを押し付けられているように感じている。「いつだってストレスを感じている、もはやそれが私の日常です。」現在は、昨冬から出入りしていたシェルターで暮らしている。1日が終わり、夜をシェルターで過ごせるのは心が休まると言う。


元販売者のレオ・ローズは、今ではホームレス擁護活動に精力的に取り組んでいるが、その前30年間はほぼホームレス状態にあった。路上では暴力を振るわれたこともあるという。「水辺で寝てたら、鉄パイプで頭を三度殴られました。路上はストレスだらけです。」8年前からは家のある暮らしを送っている。しかし、「Right 2 Dream Too」などホームレス支援プロジェクトに取り組んでいると、この街にはあまりにも課題が山積していることを見せつけられ、依然大きなストレス下にあるという。

これら当事者たちの声にあるように、ホームレス生活者(及びその経験者)は長期に及ぶ慢性ストレスを抱えていることが多い。それは、長年にわたる心の傷に、日々の強度なストレス要因が上乗せされるため。中には ”逆境力”でこの厳しい状況を乗り越える者もいるが、その多くは、トラウマや喪失感を抱えながら、気を休めることができない日々を送っている。

「路上でリラックスできたことなどありません。これは家で暮らせるようになっても、すぐに解決するものではありません。PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症しており、もうホームレス状態に陥る前の精神状態には戻れませんから」ハリントンは言った。

By Aliza Saunders
Courtesy of Street Roots / INSP.ngo


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