新潟県柏崎市の桜井雅浩市長は、柏崎刈羽原発6・7号機の再稼働と引き換えに1〜5号機の廃炉計画を提出することを2016年に東京電力に求めた。東電は要請に応じ、2年以内に廃炉計画を策定すると回答していた。期日厳守が困難とみられた今年6月には、桜井市長が廃炉の数や号機、時期のいずれかを記載すればよいと、かなり譲歩する姿勢を見せたが、それでも東電はこれに対応できなかった。






柏崎市長が求めた廃炉計画
東電は提出できず、柏崎刈羽原発、全7基が停止中

表向きの理由は6月18日に起きた山形県沖地震だ。柏崎市は震度6弱、原発への影響を伝える東電からのファックスには「異常あり」とあった。すぐに誤報とわかり訂正されたが、桜井市長は原因究明と改善策を優先事項として求めた。逆の誤報が起きる場合もあり、軽視できない問題だった。

東電には廃炉を簡単には決められない事情がある。福島第一原発事故の損害賠償や同原発の廃炉、広大な地域の除染と廃棄物管理など、わかる範囲で積み上げただけでも総額22兆円に達する。現状、必要な資金は事故後に発足した損害賠償・廃炉支援機構からの借金で支払っているが、借金は将来にわたって返済しなければならない。そのためには利益を上げないといけない。

東電が策定した総合特別事業計画には、少なくとも毎年5000億円という莫大な利益を上げるために、7基ある柏崎刈羽原発のすべての再稼働が目指されている。この計画は12年に作成され、14年に新総合特別事業計画に、さらに17年に新々総合特別事業計画に改定されたが、全基再稼働目標は現在に至るまで変更されていない。

そもそも同原発は07年の中越沖地震で甚大な被害を受けた。7月16日10時13分に原発から真北の沖合13㎞ほどの地点で、震源の深さ15㎞、マグニチュード6・8の地震が発生。稼働中の2、3、4、7号機は地震の揺れで自動停止した(他は定期検査中)。原発の地下に設置された地震計では、縦揺れ、横揺れともにすべての号機で最大の想定を超え、最も高い値は横揺れでその3・6倍にも達した。

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07年の中越沖地震で柏崎刈羽原発には甚大な被害が発生

震源が近くだったために突き上げるような縦揺れも強く、揺れは最大想定の3・7倍となった。3号機では原子炉建屋脇の変圧器で火災が起きたが、消火装置の配管が破損したためにすぐには消火できなかった。原発の敷地の道路が波打ち、地割れが敷地内のあちこちに発生、液状化現象も起きている。冷却水の貯蔵タンクは座屈して水が染み出す事態にもなった。その後、6、7号機が09年に、翌10年には1、5号機が運転を再開したが、福島原発事故を受けて11年に再び停止。2、3、4号機は07年から停止状態が続いている。

新潟県の歴代知事は慎重に検証
雪深い冬に避難は不可能

中越沖地震による原発停止を受けて、当時の泉田裕彦新潟県知事は柏崎刈羽原発の安全性を検証する技術委員会を立ち上げた。技術委員会の下には、設備・耐震の検証、地震・地質の検証を行う二つの小委員会を設置した。泉田県政を引き継いだ米山隆一前知事は福島原発事故を受けて、これに加えて、健康と生活への影響を検証する委員会、安全な避難方法を検証する委員会、さらにそれらの検証を総括する委員会を立ち上げた。

そして、米山県政を引き継いだ花角英世知事も検証を続けている。「福島原発事故の原因究明、影響や避難などの検証が終わらない限り再稼働はない」との姿勢である。検証は終わりそうにない。

新潟の住民は注意深く検証の行方を睨んでいる。二つの地震で地元の原発の危険性を否応なく知ることとなった。そして一旦事故が起これば、避難することは困難、特に雪の降り積もる冬場に起きれば避難など不可能なことは身にしみている。

17年12月に6、7号機は原子力規制委員会から合格証を得たが、再稼働できそうにない状態が続いている。廃炉と引き換えの柏崎市の再稼働合意は一つのハードルにすぎない。新潟県ならびに県民の合意はいっそう困難である。東電は事故の反省を踏まえ原発からの撤退を進めるべきだとの主張が、今後いっそう強まっていくだろう。
(伴 英幸)

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(2019年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 364号より)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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