大学や専門学校への進学率が低く、中退率が高い社会的養護出身の若者を卒業まで見守るシェアハウスを始めた「ようこそ」。運営の仕組みや取り組みの内容、今後の展開を聞いた。


築60年木造2階建てを改装、夜間はハウスアテンダント常駐

  「NPO法人 学生支援ハウスようこそ」理事長の庄司洋子さんは東京都民生局に勤めたあと、社会事業大学で家族社会学を教えていた。「10年ほど、児童養護施設にいる子どもや出身者の状況を調査し、その後、立教大学社会学部に移って07年に退職しました。09年には一般の大学進学率が5割を超えたのに対し、施設出身者は1割強(※1)。社会的養護(※2)の若者は、高校卒業後は施設を出るため、困った時に相談したり、頼れるサポートも少ない中、中退者の割合も高いという状況が今も続いています」

※1 厚生労働省HP内、「社会的養護の現状について(参考資料)」参照 
※2 保護者のない児童や、保護者が育てることが適当でないと判断された児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと。
子どもたちは中卒の場合は15歳、高卒は18歳の卒業と同時に施設を出なければならない。

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庄司洋子さん


 そんな折、庄司さんは親戚が暮らしていた1957年築の二階家を相続することに。
 「なんとか費用を工面して耐震工事とリフォームを行い、16年にNPOを設立。児童養護施設や里親家庭を出て大学・短大・専門学校に通う女子学生のための、支援つきシェアハウスとして運営を始めました」

 家賃は光熱費を入れて月5万円だったが、今年の1月から3万円に値下げ。朝晩の食事は無償で提供している。「家賃は、卒業して5年働けば返済が免除される国の貸付制度『児童養護施設退所者等自立支援資金貸付』を利用している学生もいます」

 都内にあるハウスを、事務局次長の深田耕一郎さんに案内してもらう。「1階はリビング、台所、食堂の共有スペース。2階には四畳半の個室5部屋と共用のサンルーム(物干し室)があり、現在は大学生3人と専門学校生2人が入居し、福祉や看護ほか、さまざまな勉強をしています」
 夕方5時から朝9時までは、4人のハウスアテンダントほか社会福祉の現場経験ゆたかな宿泊スタッフが必ず一人、食事や相談の支援をするために常駐している。

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深田耕一郎さん

明け方まで相談につき合う。若者支える制度、全国展開模索

 「学生の中には、暴力を振るう親から逃れ、心に深い傷を負っている人もいます。弁護士と連携しながら警察や役所に付き添うこともあれば、時には明け方まで人間関係や将来についての相談につき合うこともある」と、庄司さんは話す。

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食事の際などに入居者やスタッフが集うキッチン

 今年は中央ろうきんの若者応援ファンドの助成を受けて、「ハウス長を中心とするハウスアテンダントの新体制」を整備しているところだ。来春には学生5人のうち3人が卒業予定であることから、入居者募集のPRも兼ねて、関東・中部地方の児童養護施設にアンケート用紙を送付。「高校卒業後の進学希望者やハウスへの関心の有無、卒業後に必要な支援」などを書いてもらった。

 その結果「すでに定員の3人を超える入居の希望がありました」。必要な支援としては、「きめ細かいパーソナルサポート」を求める声が多く寄せられた。ハウスでは随時相談に乗るほか、「月に1度は状況を共有するスタッフ会議を開き、必要な学生には個人面談をする」「2ヵ月に1度は学生同士が玄関の靴や洗濯物、トイレ掃除の当番などについて話し合う会議の場を設ける」といったサポートをしている。

 「活動を続けるうちに、地域には社会的養護に限らず、支援の必要な若者がたくさんいることがわかってきた。高等教育機関が多い都市部では特に、このような学生専用のハウスが必要です。“就学型自立援助ホーム”として若者を支える制度ができるようモデルケースとして、ここで得た知見を発信したいと模索しているところです」


NPO法人 学生支援ハウスようこそ
児童養護施設や里親など、社会的養護出身で大学・短大・専門学校等に進学する道を選択した女子学生のために、2016年4月からシェアハウスを運営。生活を支援しつつ卒業まで見守り、将来の自立のサポートをしている。
★運営継続のためのご寄付や、乾物などの食品寄付を募集しています。詳しくはホームページからお問い合わせください。


中央ろうきん社会貢献基金

ろうきんは、はたらく人のための非営利・協同組織の福祉金融機関。「中央ろうきん若者応援ファンド」は、若者の自立支援に取り組む団体を応援する助成制度です。2019年は、8団体へ総額1,184万円を助成しています。
http://chuo.rokin.com/

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上記記事掲載号

THE BIG ISSUE JAPAN371号
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https://www.bigissue.jp/backnumber/371/


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