住宅価格の高騰により“普通の人々” には手が届かない物件ばかりになった街では、「車」が一つの “アフォーダブル住宅”* となっている。その代表が、ハイテク業界の好景気から住宅価格の高騰が著しいシアトルだ。ホームレス状態となる人々が急増しており、車上生活者の数はこの10年で約4倍に増加(キング郡全体で881人から3,372人に)。シェルター外で生活する人の少なくとも30%が「車」で生活していた。

しかし、ホームレス人口の急増を受けて駐車規制を強化する自治体も増えている。その上、路上生活者と比べると車上生活者についてはあまり知られていないという状況もある。そのため、環境改善を求める声はなかなか届かず、ただでさえ不安定な生活が脅かされているという。シアトルから届いた最新レポートを紹介する(掲載元: 『The Conversation 』)。







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自身を "ホームレス”と認識していない車上生活者も多い

近年、再開発がすすむシアトルの工業地域。ビリー(68)は路肩に停めた全長6メートルのキャンピングカーで暮らすようになって17年になる。かつては “なんでも屋”としてカーペットを敷く作業員などをしていた。車上生活を抜け出したいとは思っているが、今や収入も貯蓄もない。住宅価格が高騰したこの街で賃貸できるような信用もない。

こんな大きな車を駐めておけるスペースは路地裏にはない。かといって公道では、市の駐車規制が厳しいため、無人状態で置いておくと撤去される恐れもある。仕事なり住宅なり福祉支援を求めに行くこともままならない。

ホームレス支援サービスは利用しないのかと訊くと、ちょっと間を置いて「自分は “ホームレス” じゃない。この車が俺の家だ」と返ってきた。だけど「あらゆるものから締め出されていると痛感するね」とぼやく。

近年、ビリーのように車を “住まい” としている人が急増しているが、いわゆるホームレス支援から切り離されている現状がある。

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Image by John Paul Edge from Pixabay 

さまざまな理由から車上生活に行きつく人たち

筆者は約10年前から車上生活者の調査を始め、この2年はシアトル市から資金提供を受けた唯一の「路上生活者アウトリーチワーカー*」として非営利団体で働いている。福祉サービスを斡旋すべくリーチした車上生活者は約1,500人にのぼる。

*アウトリーチは積極的に対象者の居る場所に出向いて働きかけることをいう。


彼らが車上生活に行き着く理由は多岐にわたる。べらぼうに高い住宅価格、労働や産業のあり方の変化、自然災害やプライベートでの苦難...。住み慣れた地域から離れたくないため、公共の駐車場で車上生活することになった人たちが多い。中には、高報酬のハイテク企業で働いているにも関わらず、破格な家賃を払うのが嫌でキャンピングカー暮らしを選んでいる者もいた。

しかし市内には厳しい駐車禁止ルールが設けられており、特に大型車のみをターゲットにしたものもあるため、気軽に路肩に駐車することができない。長時間、車を無人にしておくことすらも難しいため、こうした車上生活者は事実上、地域コミュニティや社会福祉サービスにアクセスできないでいるのだ。

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Image by Christine Schmidt from Pixabay 

まずは車上生活者カウントの基準づくりから

米国住宅都市開発局では「ホームレス実態調査」の一環として、全国の自治体に対し2年に1度(奇数年)、シェルター・移行住宅(transitional housing)・公共スペースで生活している人数を報告するよう求めている。

しかし、車上生活者を数える正式な手法はなく自治体任せだ。調査員が早朝にフロントガラスが結露している車の数をカウントしている自治体もあれば、「見れば分かる」としている自治体もある。 しかしこれでは、いわゆる「ホームレス」なのか、キャンピングカーの旅を楽しんでいる退職者なのか判別し難い。サンディエゴ市は2019年度の政府報告から「車上生活」に該当していた数百人を含めないことを決めた。

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車上生活者の存在が公式に認められていなければ、持ち物の差し押さえ、公共スペースからの移動を促す看板設置などの「差別」を訴えることも難しい。

そこで私は、公共駐車場で車上生活している人を数え、地図に落とし込んでいく作業を、研究者チームで取り組むことにした。その際、基本的特徴6項目のうち少なくとも3項目を満たす車をカウントするという基準を設定した。

1.フロントガラスからバックガラス(リアウィンドウ)が見通せなくなっている。
2.少なくとも片方の窓にカバーがされ、見えなくなっている。
3.窓の内側に凍っていない結露がある。
4.少なくとも1つの窓が少し開いている。
5.生活していることを示す物(発電機、自転車、物入れ等)が車外に取り付けられている。
6.ビニール袋に入った大きな荷物が、車内または脇に置いてある。

これにより、ボランティアもカウント作業がしやすくなり、データの精度と信頼性を向上することができた。

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Image by Lisvnorrland from Pixabay 

キング郡では、この基準を2017年度以降のホームレス実態調査に取り入れており、路上生活者の少なくとも53%が車上生活にあるという実態を掴むことができた。この調査に続いて、1台の車内に暮らす平均人数をみる調査も実施した。

こうして正確な数を把握し、政府に報告することは、支援に必要となる資金を確保するうえでも、各自治体としてどういったサービスが必要なのかを判断するうえでも、極めて重要である。

排除より安心して駐車できるスペースを提供したほうが低コスト

その次に必要な対策としては「安全な駐車スペース」の提供だ。

現状、彼らが合法的に駐車できるスペースが圧倒的に不足している。シアトルにも、福祉サービスと連携した駐車場はほぼ無いに等しい。通常、"ホームレス支援” が提供されるシェルターにさえ、車上生活者が駐車できるほどのスペースはほぼない。


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そのため、ほとんどの車上生活者は公共駐車場でやっていくしかなく、駐車違反チケットを切られないか、持ち物を押収されないか...と常に不安を抱えている。

車上生活者を公共スペースから追い出し、地域内外に移動させようとする都市も多い。しかしそれでは、弱い立場に置かれている人々をさらに不安定な境遇に追い込むこととなり、法的処置および福祉サービスにかかるコストも膨れ上がってしまう。

個人所有の車で生活する「車上生活者」がアメリカの街角に増えている今、各自治体は地域内の実態把握、駐車スペースの提供、必要な福祉サービスの提供に一層の努力が求められている。数千人もの車上生活者たちが、せめて自分の車で安心して暮らせるように。

By Graham Pruss(ワシントン大学人類学部の研究者)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

参考:Vehicle residents: Seattle's forgotten homeless community


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