『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が2019年12月に公開された。金ピカのコスチュームに身を包み、ドロイド(人工知能を備えたロボット)のC-3PO役を40年以上にわたり演じてきた俳優アンソニー・ダニエルズに『ビッグイシュー英国版』がインタビューを行った。

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「R-2、聞こえたかい? メイン・リアクターが破壊された..... 絶望的だよ。今度ばかりは姫も逃げられないだろう」

40年間ポップカルチャー界を席巻、今その歴史に幕を下ろそうとしている『スター・ウォーズ』冒頭のこのセリフを発したのは、人間とサイボーグのコミュニケーションを担う金ピカのドロイド「C-3PO(シースリーピーオー)」だ。

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キャプション: アンソニー・ダニエルズ
copyright & TM 2019 Lucasfilm Ltd. 


英国執事のような格式張った話し方、ぎこちなく歩くこのキャラクターは、スターウォーズ・シリーズの守り神的な存在であり、商業的にも多大なる貢献をしてきた。窮屈なコスチュームに身を包み、第1作からこのC-3PO役を演じてきた俳優アンソニー・ダニエルズも73歳になった。スター・ウォーズ全作品に出演してきた唯一の俳優でもある。

アンソニーが暮らすフランスのお宅にお邪魔すると、彼は庭仕事をしているところだった。
「輝く太陽のもと、教会の鐘の音を聞きながら、作業着姿で自然と向き合うのはなんとも気持ちいい。やるべきことは山積みだけどね」とアンソニー。

このときはまだ、嵐の前の静けさだった。スター・ウォーズの公開前には、いつも賑々しく宣伝が繰り広げられる。とくに今回は、いつも以上にいろんな噂が飛び交っていた。前作『最後のジェダイ』がスター・ウォーズらしくないというファンからの批判を受けて軌道修正が必要だったし、また全9作の締めくくりに相応しいものにしなければならないという、まさに ”宇宙規模” のプレッシャーがのしかかっていたのだ。

ある予告編でC-3POが目を赤く光らせた。これには深い意味があるのかないのか......憶測と期待が膨らんだ。しかしこの時点でアンソニーはまだ最後のセリフを収録していなかったという。「最後に何を言うか、それがどんな意味を持つのか、時が来ればわかるでしょう」

あの赤い目は、人々を煙に巻くためのものなのだろうか?
「まあ、その可能性もあるね」と含み笑いを見せるアンソニー。「ここで真実を明かすわけにはいかない」


C-3POの40年に及ぶ回想録を書籍化

そんなこともあって、彼はいろんな事実を明らかにしようと『I Am C-3PO – The Inside Story』(2019年11月出版、未邦訳)を出版した。スター・ウォーズ作品を“光速で” 旅する、率直な回想録だ。

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『I Am C-3PO』の書影

映画の中でC-3POは相棒のR2-D2につっけんどんな態度を取ってきたが、同じようにアンソニーはR2-D2を演じたケニー・ベイカーの話をしたがらない。「彼は多くのイベントに登場し、ファンから愛された。でも作品から離れると、私はファンと同じ気持ちにはなれませんでした」

新三部作(1999年〜2005年公開)の撮影時にはイジメがあり「商業主義で、かなり脅迫的な雰囲気」だったこと、マーク・ハミルとキャリー・フィッシャーが『フォースの覚醒』で自分たちの登場シーンがないことを知って愕然としたことなんかも語られている。最初の台本読み合わせでト書きを読まされたマーク・ハミルは、(それ以外にセリフがなく)「精神的ショックを受けていた」と。

「何もかもが素晴らしかったなんて言ったら、そんなわけないって思うだろ?」


『最後のジェダイ』撮影時のマーク・ハミルに話を聞いたとき*、彼はアンソニーについて「君らが想像する以上にC-3POそのもの。彼の方がトゲがあるけどね」と語っていた。アンソニー自身は、C-3POとの共通点を感じているのだろうか?

*記事下「スター・ウォーズ関連記事」参照


「C-3POはちょっとせっかちで、それもあって皆があまり話を聞いてくれない。私もどちらかというとせっかちだね。なにかとおせっかいなところも似てるんじゃないかな」

第1作を撮影した40年以上前には、この作品が自分たちの人生、そして大勢の観客の人生を変えることになるとは思ってもみなかった。ロンドンで役者のバイトをしていたアンソニーは、大ヒットしたことがニュースになって初めて、この作品が米国で公開されていたことを知ったと言う。

「『タイム』だか『ニューズウィーク』だかの表紙を見て知ったんだ。それからすぐロサンゼルスに飛び、ハリウッド大通りで足型を取った。映画館の前にできた長い行列は高級住宅街まで続いてて、トイレを我慢できない人が庭先で立ち小便をしてた。それくらいの大ブレイクでした」

ロボット役を演じることへの強いこだわり

映画を観てC-3POを本物のロボットと思った人も多かった。「褒め言葉だと思っています。ロボットのフリをして、それを信じてもらえたわけですから。砂漠での撮影時、よくマーク・ハミルをからかったものです。『君は演技をする必要ないよ。だって私がちょっとよろめくだけで、観客はみんなこっちを見るんだから』ってね」

今やロボットやAI技術もずいぶん進化したが、C-3POのレベルにまでは達していない。ただ長年ドロイドを演じてきた者として、テクノロジーには注目してきたという。

「個人的に興味を持っていたので、このテーマならたくさん語れますよ。スター・ウォーズはたくましい想像力が創り出した作品ですが、現実的な要素も入っているので、そこはデタラメを言うわけにはいきませんから」

「ただ金ピカの衣装を着て、ぎこちない歩き方をして、面白おかしく話すだけのキャラクターではない。それを分かっていただけるとうれしい。私の演技は全くと言っていいほど評価されてきませんでした。それを今さらとやかく言うつもりはありませんけどね。自分がやってきたことには自負があります」

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砂漠の惑星タトゥイーンでの撮影中に飲み物をもらうアンソニー・ダニエルズ演じるC-3PO
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おかしな話し方といえば、スター・ウォーズの生みの親ジョージ・ルーカスは当初、こんな喋り方をイメージしていたわけではなかったそう。

「早口でまくしたてる、ニューヨークの中古車ディーラーみたいな話し方を想定していたそうです。私は聞かされてなかったのですが」実際、多くの俳優が声のオーディションを受け、その中にはリチャード・ドレイファスもいたらしい。

「監督は撮影後の編集段階で声を吹き替えたらいいと考えていたのですが、誰かがアンソニーの声のままでいこうと言い、心の広い監督が ”了解” したのです。ひやひやもんでしたが...まあそのおかげで、漫画や書籍、CMなどいろんな関連作品に登場できたのですから、ラッキーでした」

もしこれから収録するセリフがあれば、今からでも当初の計画どおり、ブロンクス訛りで話してみてもよいのでは?

「C-3POがそんな話し方を始めたら、ファンががっかりするでしょうね」


人気作ゆえの熱烈ファンたちとの応酬

ファンががっかりしたといえば、前作『最後のジェダイ』への批判はアンソニーも重々承知している。

「ジョージ・ルーカスがオリジナルをいじって “特別版”を制作するたびに、不満を募らせるファンは少なくありません」

「つい最近、『フォースの覚醒』と『最後のジェダイ』についての批判をYouTubeで見ましたが、皆さん、なかなかの持論を展開しています。作品を嫌う人というのは一定数いるものですが、ファンの皆さんは何か大切なものを失われたように感じ、怒りを爆発させている。その気持ちはよく分かります...にしても最近のネット世界は “怒り”に溢れてますよね」


さらにアンソニーは、大勢いる『スターウォーズ』の強烈なファン、いわゆる“マニア” について言葉を選びながらこう言った。「“マニア” と言うと、ちょっとネガティブな感じがして、エラそうに聞こえるかもしれませんが、決してそういう風に見ているわけではないんです」


「フランスの人たちは心強い “支持者”で、自分たちも作品の一員であるかのように、作品のありのままを楽しんでくれます。初回上映に足を運んで大いに興奮し、友達を誘ってまた観に来てくれる。そんな方々がいてくれたからこそ、私たちは次回作を撮り続けられ、こうして全9作ものシリーズができ上がったのです」

多くの人にとってスター・ウォーズ作品は “人生の一部”になっている。登場人物と自分を重ね合わせているからこそ、新作が期待どおりのデキじゃないと、それこそ大問題となる。そう、この作品はもはや、映画制作者のものというより「熱心なファンのもの」なのだ。


「熱烈なファンたちは作品を“自分ごと”に感じている。なので、何かを変えるにはリスクが伴います」とアンソニーも同感だ。
「でもそれくらい気にかけてくれているのは、素晴らしいことです。皆、作品に対する純粋な気持ちがあって、それを披露したい、一目置いてもらいたいと思っているのです」

『最後のジェダイ』では、熱烈なファンだけじゃなく、マーク・ハミルも作品の方向性が気に食わなかった。「確かにそうですね」

それはファンの反応を十分に考慮しなかったことから来るのか? それとも制作者側が自分たちの創造性を押し通した結果だったのだろうか?

「その両方でしょうね。確かにマーク・ハミルは前作に満足じゃなかった。だけどそれは、マーク本人やルークという役柄にではなく、作品全体に対しての思いです」

「もちろんマークの言い分もよく分かります。でも、誰かが責任を負わなくちゃならない。私たち俳優は監督の進む道を信頼しないと。“船長” である監督のやり方を尊重すべきなのです。『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年)では、船長たち(フィル・ロードとクリス・ミラー)とやりたいことが合わなくなり、新しい船長(ロン・ハワード)が投入されました」


船長が “嵐” に突入したのはこの時だけではない。C-3POの衣装に身を包み、ほとんど“見えない” 存在だったアンソニーと違い、ジャー・ジャー・ビンクス(新三部作に登場)を演じた俳優アーメド・ベストが厳しい非難にさらされたのだ。キャラクターのすさまじいほどの不人気ぶりが原因で。

「あれはむごかった。アーメド自身は知的で才能に溢れ、頭の切れる、ウィットに富んだ、明るくてエネルギッシュな人です。彼は監督が望んだ通りの演技をした。これが船長に従う映画づくりの肝。言われたことを言われた通りに演じるのが俳優なのです」

自分が演じるC-3POだけが「本物」と言い切れる境地

今作『スカイウォーカーの夜明け』には新たな希望を抱いているというアンソニー。不満があれば隠せない彼の性格からすると、これは期待してよさそうだ。

「演技スタイルは昔に比べるとずいぶん磨かれました」と言う。「私はローレンス・オリヴィエ全盛期に演劇学校に通っていました。あの頃からすると、だいぶ自然な演技になってきました」
「ある時、オスカー・アイザック(ポー・ダメロン役)、デイジー・リドリー(レイ役)、ジョン・ボイエガ(フィン役)と込み入った会話が続くシーンのリハーサルをしていました。3人がとても静かにまじめに話しているところに、C-3POが大声で割って入る。ああ、演技スタイルが変わったなと実感しました」


スター・ウォーズのオリジナルシリーズは終わりを迎えようとしているが、今後も商機があるかぎりは "消滅” することはないだろう。しかし、アンソニーの出演はこれで最後になるやもしれない。

「今作はおもしろい要素が満載で、“最後の出演” に相応しい仕上がりです」

R2-D2やチューバッカを演じた俳優は途中で交代となったし、今は亡きキャリー・フィッシャーやピーター・カッシングはデジタル技術を駆使してカメオ出演した。この先、C-3POを誰か別の俳優が演じることはあるのだろうか?

「キャリーを復活させるよりは簡単でしょうね」

自分以外の役者が演じるC-3POを見たら、どんな気持ちになるのだろう?

「決していい気分はしないだろうね。でもそれが人生であり、芸術さ。特に今みたいなデジタルの時代は、俳優は “消耗品” なのだから」

「C-3POと自分を重ね合わせるようなことはしない。だけど、私が演じているときだけが “本物” のC-3POなんだ。彼が考えること、感じること、リズムの刻み方を、他の誰よりも心得ているからね。C-3POは消滅するには惜しいキャラクターです。誰かが引き継いでいってくれるでしょう」

By Steven MacKenzie
Courtesy of INSP.ngo / The Big Issue UK bigissue.com @BigIssue


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