米国では失業保険の申請が3600万件を超えたという(2020年5月14日時点)。“普通に” 働き、“普通に” 暮らしてきた多くの人たちが、新型コロナウイルス感染症拡大の煽りを受けて、仕事だけでなく家まで失う事態に見舞われている。そう、「ホームレス」というのはものすごく特別な人だけがなるものではないのだ。

コロナ危機以前から、ちょっとした「めぐりあわせ」や「タイミング」で路上生活に行き着いてしまった人がたくさんいる。

国際ストリートペーパーネットワーク(INSP)が2019年に25周年を迎えたのを機に、世界の販売者に「25歳の自分に宛てた手紙」を書くよう呼びかけた。自分の過去に思いを馳せるとともに、今25歳の若者にかけることばとは。

ギリシャ・アテネのストリートペーパー『Shedia』

「ニュースを掘り下げて考えよう。自分の内面を豊かに」/レオニダス・ジョージウ

19歳で同級生だった化学エンジニアである夫と結婚、25歳の頃にはすでに4人の子持ちでした(今は6人)。一日15時間働きながら、より良い未来を目指して労働組合の運動にも参加していました。「意志あるところに道は開ける」と信じていたし、その思いは今も変わりません。人生はとても素晴らしいもの、一握りの人だけしか謳歌できないなんてもったいない。
25歳の頃は、自分は何でも分かっていると思いがち。
インターネットもあるし、怖いものなしってね。
実際、人間関係のほとんどがオンライン上で成り立ってますからね。
でも、見聞きするニュースをもっと掘り下げて考えるようにしてください。
批判的に考え、フェイクニュースをきちんと見分けられるようにね。

そして、自分のことをもっと大切にしてください。
自分の内面を豊かにすると、それはゆくゆく他者にも伝わります。
過ちを恐れず、もっと行動的になってください。
過ちを犯さないのは死者くらいですよ。
43

「人生が与えてくれるものを楽しみ尽くしてください」/マリア・ドランゴウ(53)

25歳の私へ。28年が経った今、この手紙を書いています。
あれから長い年月が過ぎ、いろんなことがあったから、以前よりも愛と理解の心を持ってあなたと向き合うことができます。あなたが犯してしまった失敗も、今ではよく分かります。責めるつもりはありません。ありのままのあなたを愛しく思います。生まれ育った環境など、人生のいろんな条件が違っていたら、別の選択をしていただろうとも思います。
あなたがこの地球上に存在していることは単なる偶然なんかじゃありません。
自分が向かうべき目的地を見つけたら、そこに向かって歩き出す、それが使命です。
その途上で、同じような旅人たちと出会うことでしょう。
その人たちを愛し、人生を彼らと分かち合うのです。
独りぼっちで成功できる人などいません。誰もがお互いを必要としています。

人生は堪能し尽くすことができないくらい美しいもの。
生きていく中で、さらに美しい姿を見せてくれます。
だから、あきらめないで。人生が与えてくれるものを楽しみ尽くしてください。
47

米シアトルのストリートペーパー『Real Change』

「人に敬意を持って接すれば、それはいつか自分に返ってくる」/ジョシュア・トルヒーヨ(36)

25歳の頃は何でもわかっているつもりで、保護観察にも従いませんでした。服役中だった2010年に大好きな母親が亡くなり、翌年には父親も他界。犯罪に手を染め刑務所行きになるよりずっとまともな生き方だと思ったから『Real Change』の仕事を始めました。私に収入と生きる目的を与えてくれました。
25歳の若者たちへ。
「販売者に “まともな仕事をしろ” と言ったり、見下した態度をするのはやめてください。
これは、れっきとした仕事です。
人に敬意を持って接すれば、それはいつか自分に返ってきます。
人生は積み木のようなもの、私たちは互いに支え合っているのです」
41

「今のままで十分。何だってできますよ」/ジェーン・シャウアー(73)

25歳の私は未婚のシングルマザーとして子育てをしていました。3歳の娘が1型糖尿病を患っていたので、栄養学を学びたくて大学にも通いました。当時は栄養学についてあまり明らかになっておらず、知り合いの多くが命を落としました。その娘ももう50歳ですが、未だにこれっといったやり方があるわけではありません。

高校時代は、秘書の養成訓練を受けているようなものでした。当時、女性解放運動はまだ始まったばかり。避妊手術であれ自動車ローンを組むのであれ、女性が何かするには夫なり父親なり、男性の署名が必要でした。なんとかアパートを見つけられたものの、基本的に家というのは既婚女性のためのものでした。(父のように)海軍兵など夫が遠く離れたところにいるとしてもです。
今25歳の若者にはこう言いたい。
「あなたは今のままで十分。何だってできますよ!」
42

「テクノロジーから離れる時間を持ち、他者をよく知る努力を」/ネシア・M.(43)

25歳の私は絶望の真っただ中だった。2人目の子どもを妊娠中で、収入はゼロ。子どもの父親は服役中で、ベビーカーを買うお金すらなかった。大きなストレスの中で薬物やアルコールに手を出すようになり、路上生活に。PTSDに苦しむ毎日でした。

『Real Change』の販売は決して簡単な仕事ではありませんが、おかげで収入を得、自分を信じられるようになりました。
25歳の若者たちへ。
些細なことをおろそかにしないで。
テクノロジーから離れて過ごす時間を持ち、他者を知る努力をしてください。
私は人に厳しすぎましたから。
40


ドイツ・ニュールンベルグのストリートペーパー『Straßenkreuzer』

「自分を信じて突き進んでください」/スティーブ・ゼウナー(40)

18歳のときからストリートペーパーを販売していたので、25歳のときにはすでにこの仕事をとても肯定的に捉えていました。でも販売者として働くことが、これほど自分を助けてくれることになろうとは思いませんでした。
25歳にもなれば、自分というものを理解すること、そしてきちんと仕事に行くことが大切です。自分をもっと向上させないととか成功しないとと心配することはありません。勇気をもって、自分を信じて突き進んでください。
48


フィンランドのストリートペーパー『Iso Numero』

「人生の困難を乗り越えていける野心に満ちた女性でありたい」/アングリア(18)

私が25歳になる7年後には、母国ルーマニアの自分の家で暮らしていたいです。今は夫の両親と同居しているので。もう国を離れる必要がありませんように。夫や子どもたちと一緒に暮らし、お金も稼げていますように。 この夢を叶えるためなら何だってしたいです。

25歳はまだまだ若いと思います。それまでに色んな経験をして、人生の困難を乗り越えていける野心に満ちた女性でありたい。

今は人生の苦しい時期。 お金を稼ぐため、生後2週間の娘を義理の母に預けてルーマニアを離れなければなりませんでした。 フィンランドで『Iso Numero』を販売しています。 販売は順調で、常連さんもいます。私のことを気にかけてくれて、娘の話をすると涙するお客さんもいて、私もやっぱりつられて泣いてしまいます。
25歳になった娘への手紙にはこう書きたい。
私が今デンマークで働いているのはあなたの将来のためよ、あなたが何一つ諦めなくていいように、今私はここにいるのよ。

70

カナダ(モントリオール)のストリートペーパー『L’Itinéraire』

「とにかく前を向いて励んでください」/マクシム・バルコート(57)

私が25歳だったのは1987年。当時は今よりも幸せな時代で、みんなが人生を楽しんでいたように感じます。レッド・ツェッペリンやストーンズ、ピンク・フロイド、地元ケベックのバンドの音楽をよく聴き、よくクラブに踊りに行ってました。パーティーやディスコも全盛、80年代は良い時代でした。でもそれも2000年頃まで、それから私の人生は下り坂に。 薬物とアルコールの代償は高すぎましたね。

25歳のお前は、確かに楽しんでいる。若いし、健康だからな。でもそれも長くは続かない。病気にもなる。病院に入って、薬抜きにセラピー、治療の嵐だ。楽しい生活はどっかに行ってしまう。ロクでもない奴らとバカばかりしてないで、まともな仕事を見つけろ。そうすれば旅に出て、すてきな人生を送ることだってできる。
25歳の若者たちへ。
何だってできる! とにかく前を向いて励んでください。
助けが必要ならいつだって助けがある、そのことを忘れないで。
71

カナダ(バンクーバー)のストリートペーパー『Megaphone』

「いつも前向きに。決して夢をあきらめないで」/ステファン・スコット(49)

25歳は人生で最高の年でした。アメリカとカナダを何度も旅し、モデルの仕事もしてました。学校を卒業して、ハウスクリーニングのビジネスを立ち上げたのもその頃。お客もたくさんいて、有名人のレコーディングスタジオや、人気ドラマに出てくる高級住宅地の邸宅にもお邪魔したこともあります。パートナーとも出会い、25年が経った今も一緒にいます。

25歳 ー人生の4分の1が過ぎたってこと。25歳の若者には、
いつも前向きでいること、そして決して夢をあきらめないで
とアドバイスしたいです。

50歳になる2020年5月、私の夢が叶います。10年近く続けてきた販売者生活で貯めたお金で、パートナーとオーストラリア旅行に出かける予定なんです。 コアラを抱っこして、ニュージーランドにも訪れるつもりです。これは自分たちへのご褒美旅行。もう何十年もまともに休んでいませんから!

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米シカゴのストリートペーパー『StreetWise』

「何事も懸命に取り組み、前向きでいなさい」/ロバート・スミス (47)

25歳の私へ。当時の私は鬱状態で生きづらかった。身なりなんて構ってられなかったし、何一つやる気がせず。その後学校も中退し、違法行為にも手を出すようになった。そんなこんなで、まっとうな生き方から外れてしまった。
何事も懸命に取り組み、前向きでいなさい。
たとえ断られても簡単に諦めるんじゃない。
お客を恨むようなことはするな。
彼らにだって嫌な1日はあるし、きっとまたいつか戻ってきて、お金を払ってくれる日が来るから。
「よい1日を」と声をかけて、次に行けばいいのだ。
辛い経験をした私だからはっきり言えます。
最初は厳しく思える道も、やがてそうでもなくなりますから。
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**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画**





期間:2020年4月10日~6月30日
販売者から購入できない方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2020/04/12874/







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