有限会社ビッグイシュー日本では、ビッグイシューの活動やホームレス問題への理解を深めるため、高校や大学で出張講義をさせていただくことがあります。
今回ビッグイシュー日本の大阪事務所長・吉田と販売者の入島さんが向かったのは、大阪府立吹田高等学校。3年生の「総合的な探究」の授業として、体育館にずらりと並んだ約200人の生徒さんたちに、吉田からホームレス問題やビッグイシューの事業の解説、そして入島さんから体験談をお話しました。

「ホームレスの人と聞いて、どんな人を思い浮かべますか?」
授業の冒頭、吉田は生徒さんたちに「ホームレスの人というと、どんな人を思い浮かべますか?」と問いかけました。
多くの人が「汚い」「怠けている」といったネガティブなイメージを持っているかもしれません。しかし、これまで数百人のホームレスの人たちと面談をしてきた吉田は言います。
「会社で上司とケンカした人、派遣切りに遭った人、病気で仕事ができなくなった人、災害で家をなくした人、親の介護で離職せざるを得なくなった人など、ホームレスになる原因はいろいろなものがあります。そして、人となりも、うるさいくらいよくしゃべる人もいれば、静かな人もいます。優しい人もいれば、とっつきにくい人もいます。そのへんの町にいるおっちゃんと同じなんです。僕が“賃貸の家に住んでる”というのと同じ感じで、ホームレスの人たちには“家がない”ってだけなんです」
「吹田高校の人はみんながこんな人だ、ってくくれないのと同じで、ホームレスの人、というのは人となりを表す言葉じゃなくて、ただの“状態”を表す言葉なんです」
ホームレス状態になると、働きたくても働きにくい
さらに、「住所がない」「保証人がいない」「前家賃が払えない」など、社会的な壁が就労の妨げになっていることも説明しました。
授業では、「生徒の皆さんがコンビニ店長だったら」という設定で、マジメで仕事ができそうだけれどちょっと高齢で住所や連絡先を書けない吹田高校の先生と、履歴書を埋めている若い人の方が応募してきたら、どちらを採用したいか?…というシミュレーションも。
店長の立場で考えた生徒さんからは「若いほうがいい」「連絡先があるほうがいい」とシビアでストレートな意見が出てきます。
さらに運よく雇用されたとしても、給料が月払いだと、1か月の間無収入となるため、現金の持ち合わせがないと生きていけません。
「本人の努力や性格じゃなく、社会の仕組みのほうに壁があるんです。これを変えなければなりません」
ビッグイシューの仕組みと、セルフヘルプ
吉田は続いて、『ビッグイシュー日本版』の販売の仕組みを紹介しました。
雑誌は1冊500円。そのうち250円が販売者の収入になります。10冊売れば2,500円、20冊なら5,000円。仕入れも販売者自身が決め、自分のペースで働けます。
「誰かに決められて動くのではなく、自分ごととして働く。“自分で決める”という経験が、自己肯定感を取り戻す第一歩なんです」
販売者は、まるで小さな本屋の店長のように、自分の店を運営します。どの場所で、どれだけ営業して、どんなふうに売るか。すべて自分で考えることをセルフヘルプと言いますが、「自己決定には、力があるんです」と吉田は語ります。
また、NPO法人ビッグイシュー基金では楽しむことも大切にしているとして、サッカーなどの部活動といった楽しみとなることを応援したり、そもそも路上に出てしまわない/出てしまっても早期に脱出するための情報提供の活動もしていることを説明し、苦しい時は「助けて」と周囲に言うことが大切だと強調しました。

お金に不自由のなかったやんちゃな入島さんが路上に出るまで
後半は、実際に吹田でビッグイシューを販売する61歳の入島さんが登壇。
穏やかな語り口で、自らの人生を振り返ります。

「僕は奈良県生まれのやんちゃな子どもでした。小学生のころ親が離婚して、母ときょうだいで母方の祖父母の家で生活しました。中学もそれなりにやんちゃでしたが(笑)卒業後は情報処理専門学校に入学しました。でも、難しくて途中でやめちゃって…」
祖父母は生活に余裕があり、専門学校をやめたあとも、頼めばいくらでもお金をくれていたという環境だったといいます。そのようにしばらくフワフワしていた入島さんに、祖父に修行をしなさいと言われ、奈良にあった父親の会社で働くことになりました。
8年ほどその会社で働きますが、父親が病気で亡くなったことで状況は一変。周囲の人たちの態度も変わり、居づらくなった入島さんは会社を辞め、祖父母にも頼れなくなり、大阪でウロウロしていたところを「手配師」に声をかけられ、建設現場で働きはじめます。
ここでやっと「お金は稼ぐものであって、もらうものではないのだ」と気づき、2~3年働きましたが、人間関係で揉めるなどして再び職を失ってしまいます。
節約を続けるものの所持金が尽き、途方に暮れたところに大阪の中之島公園のベンチにたどり着きます。そして路上生活の先輩に、日銭を稼ぐ方法としてアルミ缶収集などの仕事があると教えてもらいました。
「1日缶を集めて、300〜400円ほど。空腹すぎて、ゴミ箱から空き缶を集めるときも、周りの目を気にする余裕なんてなかった」と入島さん。
ビッグイシューの仕事で、人とのつながりを取り戻す
そんな生活の中、ある販売者に紹介されてビッグイシュー販売の仕事を始めました。他の仕事との違いについて入島さんはこう語ります。
「お客さんが“頑張ってるね”ってねぎらってくれたり、“昨日は休んでたん?”って気にしてくれたり、何かと声をかけてくれるんです。他の接客業だとそんなことないですよね。こちらがどういう状況の人か、知ってくれてるお客さんが多いので、いいなって思います」
お客さんとのやりとりを通して、清潔感にも気を配るようになりました。
「爪を切る、洗濯をする。近寄りがたいと思われないようにしています」と話します。今では安アパートではあるものの、安心して眠れる場所があるというといいます。
「失敗しても学べば、それは失敗じゃなくなる」
最後に入島さんは、高校生へのメッセージとして、こう語りかけました。
「みなさんいろんな夢があると思います。これだったら儲かるとか、モテるとかということかもしれない。何かしらやってるうちに、壁にぶつかることがあると思いますが、失敗したとしても、そこから学んで、次の壁の時に活かすのが大事かなと思います。失敗しても学べば、それは失敗じゃなくなると思います」
もう少しお金に余裕ができたときの夢として、「大人の駄菓子屋さんのように、どこか拠点を構えて、お互いに情報交換したり、励まし合ったりできる場所をつくりたい」と語る入島さん。いろんな失敗を乗り越えての目標に、高校生の皆さんからたくさんの拍手をいただきました。
質疑応答:ホームレスの人の生活費って、何にお金がかかる?
ここからは質疑応答タイム。先生からの質問を皮切りに、たくさんの質問をいただきました。
今はスマホを持っていますが、当時はほとんど食費ですね。牛丼大盛りは贅沢でした。(入島さん)
編集部補足:人によって異なりますが、ホームレス状態でもかかる生活費としては、自炊ができないため食費が住まいのある人より多くかかりがちです。また、ネットカフェや簡易宿泊所などの宿泊費、コインロッカー代、コインランドリー代などがかかります。これらの支出が継続的にあるため、路上脱出がより難しくなるともいえます。
参考記事:ビッグイシュー販売者のお金の使い道とは?ホームレスだからこそ必要になる支出5つ
牛丼ですね。あとはちょっと安い定食屋さんの部分で味噌汁とご飯と焼き魚とか。当時は安くて食べることができました。(入島さん)
寒いですね。服を着込んで、ベンチで毛布にくるまって寝ていました。(入島さん)
西成は、今でこそキレイな街になってきていますが、昔から釜ヶ崎という地区には日雇い労働者が集まる場所で、日雇いの人の仕事を手配する人や、一泊1000円くらいの宿が多かったんです。景気が悪くなると日雇いの仕事がなくなり、ホームレス状態の人が増えました。その人たちを支援するため、そのエリアで炊き出しなどをする団体も多いため、ホームレス状態になっても、このエリアに来れば何とかなると考える人が多いようです。(入島さん・吉田)
一度だけ一緒にやんちゃしてた同級生に会いました。最初は気まずかったけど、相手がどんどん話しかけてくれて、助けてくれました。(入島さん)
ホームレスのときは誰も声をかけてくれなかったんですが、販売を始めてからは、ホームレスだという差別もなく声をかけてもらえるようになった。感謝しています。(入島さん)
一番売れるのは最新号発売日の1日・15日です。(入島さん)
“買ってくれないかな~、知らん顔かな~”って気持ちです。笑(入島さん)
生徒さんたちからの感想「イメージが変わった」
講義を終えた生徒さんたちは、それぞれに何かを感じていたようでした。
ホームレスの言葉の持つイメージの変化
- 「介護離職でホームレスになることがあるということに驚いた」
- 「(ホームレスに陥る人が)以前は会社で働いていたということに驚いた」
- 「ホームレスの人がめっちゃ元気なことに驚いた」
- 「生徒からの質問の受け答えや、待ってる時の優しい言葉で、すごくいい人だと思いました」
考え方や行動の変化
- 「食べ残しをやめようと思った」
- 「助けてということが大事だと思った」
- 「失敗しても、そこから学べば失敗ではないということ」
- 「お金はもらうものではなく稼ぐもの、という言葉が印象に残った」
- 「人間関係やかかわり方次第で人生が変わってしまうことがあるんだなと思った」
- 「少しまわりを見て、助けられることなら助けてみる」
- 「自分の父もホームレスに近いようなことをしています。心配なので、この機会に勧めたいと思いました」
担当の先生からのコメント
この授業を企画いただいた先生からはこのようなコメントをいただきました。
この度は、大変学びのあるお話をありがとうございました。吉田さんからは、主にビッグイシューの仕組みやホームレスという状態について、入島さんからは生い立ちや路上生活について具体的なお話をいただきました。感想を見ると生徒たちは貧困についての解像度が上がった様子でした。
講演会のタイミングで本校の生徒たちは、就職や専門学校、大学など高校卒業後の進路が決まっていたり、または、希望が固まってまさに努力していたり、というタイミングでした。高校3年生はもう成人ですから、高校卒業後は一人の大人として自らの人生を自分の足で歩いていかなければなりません。今回の講演会を通して、自立して生きていくことの責任と難しさを自分事として考えられたと思います。
すでに進路が決まった生徒には、自らの選択に責任をもって卒業後も含め、今後の生活をしてほしいですし、これから進路を決める生徒には、自らの選択に意思や情熱があって後悔のないものかを考えてほしいと思い、本講演を依頼させていただきました。生徒たちが「お金は貰うものではなく、稼ぐもの」という入島さんの言葉を身に染みて分かる日が来ることを願っています。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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