教育の場で、疎外されるとはどういうことか。

 その実感がないまま教師になろうとする人も多い。ドイツで、障害のある講師が、教師向けのワークショップを行った。


 イザベル・ベロネーゼ(31歳)は、巧みに車いすを操って教室中を動き回っていた。脳損傷による神経けいれんと言語障害があり、車いすダンスサークルのメンバーでもある彼女は、教育の専門家として障害者の日常はどんなものかを伝える仕事をしている。

HEM_Inclusive Education_1
ワークショップの様子Photo:Heidi Krautwald

 その日、ベロネーゼと彼女の同僚で学習障害のあるサミュエル・ブンシュは、フーズムにあるノードフリーズランド職業学校で、教師たちを対象にワークショップを行った。ベロネーゼは語りかける。

「実践的な話をしましょう。教育の場で、疎外されるとはどういうことかを」

 このユニークなプロジェクトは、キール大学付属の「統合教育研究所(Institut für Inklusive Bildung)」によるものだ。ベロネーゼとブンシュは、3年間の全日制コースを修了し、2016年末に教育スペシャリストの資格を取得した。統合教育研究所は、その後の3年間で70以上のイベントを開催、約3000人が参加した。

 さて、フーズムのワークショップでは、ベロネーゼとブンシュが学校時代の体験を話し終えたところだ。「では次に、のけ者にされるとどんな感じかを体験していただきましょう」と、ベロネーゼ。
二人が出した課題は、10分間の文章書き取り。言語障害のあるベロネーゼが読み上げる速度を上げていくと、ついていけなくなった教師らは一人、また一人と次々にペンを置いていく。

HEM_Inclusive Education_2
ワークショップの様子Photo:Heidi Krautwald

 教師の一人は、あきらめて後に取り残される気分がどんなものかを話してくれた。他の教師は、読み上げの間「強いストレス」を感じたと話した。障害者も含め学習者は誰も、一人ひとり異なったアプローチ、異なった学習環境を必要としている。
参加者の一人は、「この気分を体験しただけでも、それを理論的に討論するよりも意味があった」と語った。

(Peter Brandhorst/Hempels, www.INSP.ngo) 
※上記は2017年8月1日発売の『ビッグイシュー日本版』316号(SOLD OUT)からの転載記事です。
316号はPDF版をお買い求めいただけます。詳しくはこちら


"モノの見方が変わるワークショップ"の例

ダイアログ・イン・ザ・ダーク
"日常では簡単にできる作業が、暗闇では出来ません。性別、年齢、容姿、障害、肩書きなど、すべて意味を失います。視覚障害者のアテンドに導かれ、参加者は声を掛け合いながら、見ること以外の感覚を使い、主体的に気づきを得ていきます。" (Webサイト紹介文より)
『ビッグイシュー日本版』265号にも登場。

自閉症体験ワークショップ
"自閉症体験ワークショップは、①特製メガネと集音器、軍手を装着して様々な課題に取り組むことで、自閉症スペクトラム障害の方々の感じている感覚世界を経験し、特性に合わせたかかわり方を実践する、②その後の講義で、障害についての正しい理解や、適切なかかわり方について学ぶ、という2つのコンテンツからなるワークショップです。"(Webサイト紹介文より)

道端留学(路上販売体験)
「なんで、ビッグイシューを売ってるの?バイトしたほうが早くない?」と思いがちな方へ。路上でビッグイシューを販売する体験から、ホームレス問題、格差社会などについて学びます。

エックス・ゲームズ(Xgames)
限られた情報下では、過激で残酷な選択をするようコントロールされうるということを実体験するプログラム。過激派思想に取り込まれないよう、ドイツで実施されている。
--








過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。