米国のテレビドラマシリーズ『ホームランド』は、国境を越えるテロリズムと現代社会が抱える矛盾を骨太な世界観でえぐり出し、高い評価を受けている。その第4シリーズは、主に南アフリカで撮影された。『ホームランド』主演のクレア・デーンズとキャストたちに、ケープタウンの撮影現場でインタビュー。
「ケープタウンが大好きになった。私が訪れたなかでは、地球上でも最も美しい場所のひとつね」
Written by Lesley Mofokeng and
翻訳:牧野千賀子、オンライン編集部
コピーライト:Big Issue South Africa, ©www.street-papers.org
“now now” に “howzit“。
“my lady”と呼ばれるのも気に入った
ブーヨー・ンブリは天国でにんまりしているに違いない。
昨年亡くなった南アフリカの人気キャスタ-、ブーヨー・ンブリは、彼が有名にした別れの挨拶「シャープ、シャープ」がハリウッドスターのお気に召したと知ったら、きっと大喜びしただろう。クレア・デーンズが主演を務める米国の人気テレビドラマシリーズ『ホームランド』の第4シリーズの撮影がケープタウンで行われた。
ゴールンデン・グローブ賞とエミー賞で最優秀作品賞を受賞した本作で、デーンズは双極性障害(躁うつ病)を患うCIAエージェントのキャリー・マティソンを演じている。
撮影現場を訪れたケープタウンの地元誌「City Press」に対し、デーンズは「シャープ、シャープがお気に入りのスラングなの。 アメリカに帰っても使ってみるつもりよ」と話した。
「もちろん他のスラングも知っているわ。just nowやnow nowを『しばらくしたら』の意味に使ったり、ハローのかわりにhowzitって言ったりするのよね。私の親友のひとりは2年前からケープタウンで暮らしていて、お互いの子どもたちの年も近いの。彼女は私の息子のことをboyと呼ぶのだけれど、最初のうちはすごしぶしつけな感じがすると思っていたの。でも、今では南アフリカ流の呼び方だってことがわかったわ。my ladyとかbossとか呼ばれるのも今ではすっかり気に入ってる」。
ケープタウンに組まれたのは
第4シリーズの舞台、パキスタンの町並み
言語学のレッスンだけでなく、ケープタウンの美味しい料理はデーンズをとりこにしたようだ。「あまりに食べものが美味しすぎるせいで、今は本気でダイエット中なのよ。来たばかりの頃、少しばかり感激しすぎて、食べ過ぎちゃったみたい」
さらに、自然の驚異に満ちた、この地の景観についてもこう語る。「ケープタウンは、地球上でもっとも美しいところの一つね。旅行はたくさんしているけれど、ここの美しさは息をのむほどだわ」
「トレイルランニングを始めたんだけれど、一日の終わりに気軽に走りに出かけただけなのに、天国のように美しい眺めが広がるんだから。もちろん、仕事もがんばってる。一日の大半を撮影に捧げてるの」
南アフリカで撮影されたのは『ホームランド』第4シーズンの主要な舞台であるパキスタンのシーンだ。200人以上の現地スタッフを雇い、ケープタウンの中心地から郊外まで、多くの場所にパキスタンの町並みを模したセットが組まれて、大規模な撮影が行われた。
ケープタウンに魅せられたのはデーンズだけではない。共演のマンディ・パティンキンは、マルバプディング(アプリコットジャム入りのスポンジケーキに生クリームのソースを染み込ませた、南アフリカの名物デザート)がすっかり気に入ったそうだ。ヘルマナスでのホェールウォッチングを楽しみにしているほか、アーツスケープ劇場を訪れたときにノーベル平和賞受賞者のツツ大司教に会ったと話してくれた。
また、第4シーズンから駐パキスタン大使のマーサ・ボイド役で登場するライラ・ロビンスも、「ずっと来てみたかったの。南アフリカで撮影すると聞いて、とても嬉しかったわ」と言う。「昨年、私の年上の友人が二人亡くなったのだけど、二人とも、ケープタウンに旅行していたから。まるで彼女たちが私をここに送り出してくれたみたい」。
「ここはちょっとした天国ね。毎日が現実と思えないくらいよ。乗り降り自由の観光バスに乗っているだけで、次々から次へと美しい場所があらわれるんですもの」。
ロビンスはまた南アフリカのワイナリーも素晴らしいと言う。「でも南アフリカのワインはかなり強いから、今は自分に合うものを見つけようと色々と研究中よ」。
デーンズ、タウンシップ訪問記。
「貧しさもまた、ケープタウンの一面。美しい面だけでなく、
ケープタウンの全体を理解しておきたいの」
クレア・デーンズにケープタウン郊外のタウンシップ(アパルトヘイト時代の旧有色人種居住区)、ググレツの町を案内したジャーナリストのヤジード・カマルディエンが、訪問時の様子を報告する。
Written by Yazeed Kamaldien
翻訳:牧野千賀子、オンライン編集部
ググレツの泥まみれの通りをハリウッドのスター女優が歩くなんてめったにないことです。でも、クレアにとって、貧しさを目の当たりにするのは初めてではありませんでした。あれは冬の日の午後でしたが、「これまでにも北アフリカやアジアの貧困地域に行ったことがあるから」と、シャック(トタン小屋。タウンシップの典型的な住居)が並ぶ通りを歩きながら話してくれました。
ミニバスが粗末な小屋の並ぶ通りに止まると、私とクレアと『ホームランド』のプロデューサーのレスリー・グラターの3人は、地元のNPO「Ikmuva Labantu」が運営する保育所に向かいました。
クレアは、まったく有名女優らしくありませんでした。私が目にしたのは、気さくで、地に足のついた、自分らしさを見失わないニューヨーカーでした。
「こうした貧しさもまたケープタウンの一面なのよね。美しい面だけでなく、ケープタウンの全体を理解しておきたいの」と彼女は言いました。
保育所では、クレアは施設の運営について興味深げに色々と質問していました。私たちが到着したのは、ちょうどおむつ交換の時間でした。この3室の保育所では、献身的な女性たちが116名の乳幼児に食事を与え、世話をしています。
「私の母も、よその子どもたちの世話をしていたことがあるの」とクレアは施設の保母のマーサ・マクフラに言いました。「だから私が小さい頃は、いつも家の中が子どもでいっぱいだったわ。これほどたくさんじゃなかったけれど」。キッチンに移って、マクフラが子どもたちに対する性的虐待について話すと、クレアは眉をしかめていました。
その数週間後にも、『ホームランド』のセットでクレアに会ったのですが、彼女はずっと保育所のことを考えていたそうです。あの訪問で、自分の1歳8か月になる息子が、どれほど安全で恵まれた環境にいるかを思い知ったと話してくれました。そして、彼女の両親がケープタウンに来た時にはぜひググレツに連れていきたいとも語っていました。
*クレア・デーンズは、アメリカ国内のエイズの研究基金や、女性や少女に対する暴力反対を訴えるNGOの「V-Day」などいくつかの運動の支援をしている。昨年の4月には、バラエティ誌から、アフガンの女性たちの識字教育を支援する「Afghan Hands」での活動を表彰された。