周辺30キロ圏内の6自治体
避難対象は約96万人
茨城県東海村に東海第2原発を所有する日本原子力発電株式会社(以下、日本原電)は、地元東海村および周辺の5市と新たな安全協定を3月29日に締結した。新協定は、原発再稼働には実質的な事前了解を求めるという画期的な内容となっている。協定の当事者は、茨城県、東海村、日立市、ひたちなか市、那珂市、常陸太田市、水戸市、そして日本原電である。
同社の東海第2原発は、8年前の3月11日の地震・津波で危険な状態に陥ったが、津波対策工事(未完成ではあったが)が部分的に功を奏して、かろうじて燃料溶融・爆発事故を避けることができた。
110万キロワットの出力を持つこの原発は1978年に運転を開始、今年40年を迎える。そこで、再稼働申請に加えて運転延長申請を行っている。
安全協定は地域住民の安全に責任を持つ立地自治体が原子力事業者と取り交わすもので、安全確保や公害の防止、環境保全などのほか、原発や関連施設の新・増設や大きな変更がある場合には、事前に立地自治体の了解を得ることが事業者に義務づけられている。
従来、防災対策の範囲は8〜10キロと狭かったが、福島原発事故の経験から半径30キロが避難指示となった。そのため、周辺の自治体も立地自治体と同様に、防災対策の策定義務や事故時の避難などの実施は不可欠であるが、事業者に対する権限はないに等しかった。立地地域に加えて周辺自治体が立地自治体同様の安全協定を求めていたが、事故情報などの通報に関する取り決めに留まっていた。
この点から、茨城県での事例は全国で初めての画期的なことである。避難対象が約96万人と、桁違いに大きな人口を抱える地域であることも協定締結への原動力になったと思われる。
協定の内容は、通常の安全協定と再稼働と運転延長に関する協定、ならびに協定の権限内容の確認という3本柱からなっている。ただし、通常、安全協定の事前了解は従来の立地県と立地自治体に限定し、県は他の5市に意見を求めて判断することとされている。やや間接的な位置付けではある。
注目すべきは、再稼働と運転期間の延長についての内容で、締結した全自治体が「実質的事前同意」の権限を持つことになっている。実質的というのは、協議会の場で一自治体でも合意しなければ再稼働できない仕組みだからだ。確認書では「6市村それぞれが事前協議を求めることができ」、事業者は「必ず応じなければならない」こと、また「6市村がそれぞれ納得いくまでとことん協議を継続することを事業者に約束させた」となっている。このような内容の安全協定は全国で他に例がない。日本原電にとっては再稼働へのハードルが非常に高くなったといえる。
日本原電の株主は電力各社
安全対策費は1740億円
再稼働に向けた資金確保も困難
日本原電は原発専門の会社で、発電した電気は東電や関電などの電力会社に販売している。主たる株主も電力各社だ。8年前の震災以来、まったく発電していないにもかかわらず電気事業収入がある。細かい取り決めは不明だが、利益(あるいは損失)は電力各社に帰属するようで、言ってみれば電力各社の子会社のようなものだ。
そんな会社だから、再稼働に必要な追加的な安全対策の費用見積もり1740億円の資金確保が容易ではない。資金確保や金融機関から借金をする際の債務保証を明確にするように求めた原子力規制委員会に対して、同社は4月4日、東電と東北電力が電気料金の前払いや債務保証などをする用意があるとの書面を提出した。いずれも「何ら法的拘束力のある約諾」ではないと但し書きがある。これでは金融機関から借金をする時に保証人にならないと言っているに等しい。規制委員会の審査をとりあえず通すための工作としか言えない。
国の支援でようやく維持できている東電は実質的に経営が破綻していると言える。そんな東電に日本原電を救済できるとは考えにくい。
日本原電は東海第2原発の再稼働を目指しているが、果たして6市村の合意は得られるのか? 運転差し止めの裁判も行われている中、再稼働よりも廃炉への道へと舵を切るべきだ。
(伴 英幸)
(2018年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 334号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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