無医村で人の命を救うには?巡回医療、保健衛生、有機菜園とコミュニティ・ガーデン–NPO法人 ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会

 「栄養不良の患者さんを治療してよくなっても、数ヵ月したら同じ病気で戻ってくる苦い経験をしました。そこで現在は、ミャンマーのデルタ地域・エーヤワディー管区の無医村を中心に、現地の医師・看護師・ドライバーと共にひと月に15の村を巡回診療するほか、地域健康推進員(コミュニティ・ヘルス・プロモーター)を育成。


コミュニティ・ヘルス・プロモーターの育成
コミュニティ・ヘルス・プロモーターの育成/写真©MFCG

手洗いの重要性・歯磨きの大切さ・トイレの必要性などの保健衛生や栄養について学ぶ機会も提供しています」と「ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(MFCG)」代表の名知仁子さんは言う。 

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無医村を回り、歯磨き指導(スタディツアーにて)/写真©MFCG

子どもたちに手洗いの指導
子どもたちに手洗いの指導/写真©MFCG

難民キャンプ、聴診器一本で診療

カレン族やサイクロン被害を支援

 名知さんは日本の大学病院で内科医として働いていたが、29歳の時、医局内の派閥争いなどに疑問を感じて、今後の生き方を考え始める。マザー・テレサの「あなたの愛を誰かに与えれば、それはあなたを豊かにする」という言葉から国際医療の道を目指し、37歳で辞職。直後に、原因不明の病で4ヵ月の入院と7ヵ月のリハビリを余儀なくされたが夢をあきらめきれず、2002年、「国境なき医師団」に日本人として5人目の入団を果たした。

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名知仁子さん/写真©MFCG

「タイの難民キャンプでは、尿検査もレントゲンもない中、聴診器一本でカレン族の人々の診療にあたりました」。当初は日本で得た経験値では足りず、現地人のメディカルアシスタントから多くを学んだという。

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巡回診療(移動クリニック)の様子/写真©MFCG

 その後、03年にヨルダンでイラク戦争から逃れてきたイラク人やクルド人、翌年にはミャンマーで迫害されているロヒンギャ族、08年にはミャンマーのサイクロン被災者への医療援助などに従事。帰国後は、在日ミャンマー人の無料健康相談会を始めた。同じ頃、自身に乳がんが見つかり、「医療の原点を教えてくれたミャンマーに恩返しをしたい」と、闘病をしながら08年に前身団体「ミャンマークリニック菜園開設基金」を立ち上げた。

米しか育てていなかった村々

有機野菜栽培導入で収入倍増

 巡回診療に菜園を加えたのは、衛生や栄養の知識がないために、下痢や感染病などで命を失う人たちを見てきたからだ。15年には「認定NPO法人 地球市民の会」の協力を得て、有機野菜栽培コースを開設。米のみを育てていた村々で今、インゲンやトマト、唐辛子などさまざまな野菜を育て、食材や家計の足しにしている。

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オクラが育つ、有機菜園の様子/写真©MFCG

 ある41歳の女性は、小学校3年生の時に家計を助けるために学校をドロップアウト。唯一の家族である父が脳梗塞で半身麻痺になり、一人で家業である農業を続けていたが、常に貧しく希望が何もなかったという。「それがこのコースを受けたことで、畑を拡大し、野菜の収穫が増え、収益が上がり月に3000円の貯金(※1)ができるようになりました」
※1 ミャンマーの平均月収は5000円〜1万円程度

有機野菜栽培講座を受講。土づくりから学ぶ。
有機野菜栽培講座を受講、土づくりから学ぶ。/写真©MFCG


 そんな矢先、父親が借金を残して亡くなり、彼女は出稼ぎに行かざるを得なくなり、畑は放置されることに。「それを教訓に、来年3月の完成を目指し村人が助け合うコミュニティ・ガーデンづくりを進めています。まず、人口約500人のトーイ村をモデル村とし、11人の村民が中心となり井戸を掘りました(※2)。自分たちで50本の電柱を立て、電気を使いたい人が資金を出し合って井戸水を使った水力発電も始めます。さらに簡易診療所も建てる計画です」
※2 NPO法人 オアシスが協力

電気が灯った!
村民が協力して50本の電柱を設置。電気が灯った!/写真©MFCG

水力発電の電灯の下で勉強中
水力発電の電灯の下で勉強中/写真©MFCG

 この取り組みが成功したら、他の村から受講生を集めて見学会を開き、ミャンマー全土に広めていく予定だ。「最終的には、ミャンマーから私たちがいなくなること。それがMFCGの目標です」

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笑顔の子ども達。5歳までに彼らが命を落とす原因の第1位が出産時の出血と感染症、2位は栄養不良/写真©MFCG


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NPO法人 ミャンマー ファミリー・クリニックと菜園の会(MFCG)
08年に任意団体「ミャンマークリニック菜園開設基金」を設立。12年に「ミャンマーファミリー・クリニックと菜園の会」と改名し、NPOの認証を受ける。ミャンマーの人たちが生活環境の課題を解決し、命を育む未来を描けるように、無医村に医療・菜園を通じて保健衛生・栄養などを学ぶ機会を提供している。
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