日本人には当たり前のように信頼されている「ハンコ」だが、ハンコが法的に意味を持つ国は稀であり、「象牙のハンコを使っている」などと言おうものなら、国際的には非難の対象になるということをご存じだろうか。象牙はワシントン条約で象牙の輸出入が禁止されているにもかかわらず、象牙目当ての密猟で、アフリカゾウが絶滅の恐れに瀕しているからだ。それを止めようと滝田明日香さんと友人の山脇愛理さんは、2012年に任意団体「アフリカゾウの涙」を立ち上げ、現在認定NPO法人として活動を続けている。
そんな「アフリカゾウの涙」の主催で、2019年7月「ケニア&日本、アフリカゾウ保護最前線の現場から現状をとことんトーク in 渋谷」が行われた。本記事では、そのエッセンスをお伝えする。
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家族を大事にするアフリカゾウ
アフリカゾウは家族を大事にする。群れはメスで構成されており、最年長のメスがリーダーとなり、乾期にどこに餌場や水があるかを把握し、群れを率いる。リーダーは信頼されており、群れはとても密な関係をもっている。また、ゾウはとても頭が良く、一度経験したことを忘れない。本来野生のアフリカゾウの寿命はとても長く、60~70歳まで生きる。密猟などの人為的な要因が無ければ本来もっと長生きできる動物なのだ。
ゾウは森とサバンナの“植木屋さん”
ゾウはサバンナにとって重要な役割を担っている。ゾウは餌を食べるために木を倒す。そしてその木の実のタネを食べ、遠くに移動して、フンをする。移動先でまた木が生える。
ゾウが歩くことによって獣道もできる。この獣道に頼る動物も多くいる。ゾウは地形を作っていくにあたりとても重要な生き物なのだ。
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テロ組織の軍資金の4割は象牙やサイ角の密猟によるもの
テロリストのケニアへの攻撃は、2007年には10件以下だったのが、2012年には100件近くにまで増えている。滝田さん自身も、利用していたショッピングモールへのテロ攻撃で、知人が人質に取られて生き延びたり撃たれて亡くなったりの経験があると語る。
そんなテロ組織の軍資金のひとつは、象牙の売買だ。ナイジェリアの「ボコ・ハラム」、スーダンの「ジャンジャウィード」、ウガンダやコンゴの「神の抵抗軍」、ソマリアの「アルシャバブ」などのグループに象牙の売買によって得たマネーが悪用されているという。
参考:
「教育は平時の贅沢品などではなく「権利」:世界の紛争地で学校が標的にされている現実」(過激派組織「ボコ・ハラム」は学校を攻撃、子どもたちを主要ターゲットとして襲う)
世界から歓迎された、中国の象牙市場の閉鎖。日本の動きはいまだナシ
象牙大国と言われていた中国は、2015年の米中首脳会談の際、習近平国家主席とオバマ前大統領が、象牙の国内取引を終焉させる決意を共同で表明し、2018年にはその言葉通り、中国国内での販売を中止。
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一方で日本にはそのような動きはない。1980年代には野生のアフリカゾウが半減したが、そのうちの7割は日本の象牙市場が消費したと言われている。
それどころか、現在においても管理状況が甘く、ワシントン条約により、輸入が禁じられているはずの象牙もカットすれば管理対象外となってしまうような状況だ。
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参考:残酷な「象牙狩り」
「象牙?ゾウを捕まえて、牙だけ切って、ゾウは解放するんでしょ?」と思っている人もいるかもしれない。 象牙は、ゾウを殺し頭蓋骨を目の辺りまで切り刻まないと、取り出せない。
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ゾウから切りだされた血だらけの象牙。こんな残酷な物を、日本ではハンコに使うのだ。
写真:「象牙取引がテロリストたちの資金源に―密猟によるアフリカゾウ絶滅の危機」より
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生息国と消費国両方での活動が必要として、日本人2人が立ち上がった
アフリカでは象牙を消費する人はいない。「アフリカゾウの涙」は、アフリカをはじめとしたゾウの生息国と日本のような象牙の消費国とのギャップを感じ、ゾウを絶滅させないよう日本人女性2人が始めた活動だ。「生息国側と消費国側、直接両方に関わっているのは私たちだけなんです。」と山脇さんは語る。
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「アフリカゾウの涙」は、はケニアのマサイマラ国立公園の500㎢の中のサバンナで活動している。
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巨大なサバンナの中で密猟者を探し、逮捕するのだ。滝田さんのユニットでは探知犬を使って密猟者を追う。
ゾウ生息国でのプロジェクトは、インセンティブが重要
アフリカでは目の前の生活でいっぱいいっぱいであるため、きちんとインセンティブを用意しない限りは、いくら環境保護を訴えても通じない。
けして豊かではない農民の畑を象が荒らしてしまうことがあると、象は害獣として駆除の対象とされてしまう。また、貧しさから密猟に手を染める現地の人もいる。
滝田さんらはそのような状態の中で、なりわいとして新たな収入源となり、持続可能な環境整備をと現地の人々に養蜂プロジェクトや、価値のある植物の栽培を企画・実行するなど、東奔西走している。
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消費国側である日本での取り組み
アフリカゾウは年間、2万5000頭から3万8000頭くらいが殺されていると言われ、残り35万頭と2016年に発表された。100年前に1千万頭いた頃と比べると96%以上いなくなったことになる。中国が象牙の国内取引市場を閉鎖してから、日本は世界最大の象牙販売国となったが、日本国内にある象牙のの80%は印鑑に使われている。日本で象牙を買って国外に持ち出されていることも問題視されているが、せめて日本人が印鑑を選ぶ際に、象牙ではない印鑑を選ぶだけで国内の実態の80%は変えられる。
ひとりでも多くの日本人にそのことを伝えたいと2人は言う。
絵本の出版・小学生での読み聞かせ活動
2015年にNHK出版から「牙なしゾウのレマ」という絵本を出版。サバンナで暮らすアフリカゾウのレマが、密猟によって親を失いつつも、健気に生きていくストーリーだ。
NHK出版からの協力もあり現在は5000校に寄付を行い、〆野潤子さん・四宮豪さんといった声優とコラボして、小学校で読み聞かせイベントを行っている。子ども達には、絵本をきっかけに、自分たちの買い物が何に繋がっているのかを考えてもらう機会を作り出している。
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アースデイ出展やスタディツアーも
その他、アースデイに出展し、環境への意識を持った人に対して、象牙の現状を伝えることで語り手を増やそうという試みや、ニャクエリの森のコミュニティの人たちと過ごしたり、滝田さんと共にフィールドで過ごすスタディツアーを開催。当事者意識を持てる人たちを増やそうと奮闘している。
アースデイに出展
スタディツアーの様子
そんななか、2019年8月18日よりワシントン条約の締約国会議がスイス・ジュネーブで開幕中だ。
日本は「全形を保った象牙の登録制度を厳格化」したとアピールし「(象牙は)厳格に管理されており、このままでよい」と国内市場の維持を訴える見通し(日本経済新聞、8月18日記事より)だという。
しかし、「全形」というのが抜け穴で、前述したように、カットされた象牙は管理の対象外となる。
日本が世界唯一の残酷な象牙マーケットとなってしまう未来を回避するために、あなたにできることは必ずあるはずだ。
あなたにできること
①シェアする
この記事や、「アフリカゾウの涙」の活動についてSNSなどを通して友人・家族に伝える
「#私は象牙を選ばない」をつけて拡散。
②署名する
アフリカゾウを守るために、ワシントン条約締約国会議での決議に準じて、日本国内でも象牙販売を止める事に賛同する署名をする。
③「牙なしゾウのレマ」を広める
記事中にも登場した絵本「牙なしゾウのレマ」がご利用の図書館にあるか確認し、なければリクエストする。または購入のうえ図書館や学校に寄贈する、子どもたちへの読み聞かせで使うなどで、象牙の問題を伝える。
「牙なしゾウのレマ」
④寄付する
「アフリカゾウの涙」に寄附することで活動をサポートする
https://www.taelephants.org/futuresupport/index.html
日本が世界唯一の残酷な象牙マーケットとなってしまう未来を回避するために、あなたにできることは必ずあるはずだ。
取材協力・会場写真:河野元希