その象牙製品を買わなければ、1頭のゾウが救えたかもしれない

<part.3「中国、日本で消費される象牙。一攫千金を狙う密猟者たち」を読む>

アフリカゾウの未来に、日本人としてどう関わっていくのか?

アフリカ諸国は何をしているのかについてもお話します。まず今年の2月に、ロンドンで開催された違法野生動物取引のミーティングで、ボツワナ、チャド、エチオピア、タンザニアの政府が自国での酷い密漁の現状や、象牙のお金が犯罪組織に流れていること、象牙の取引市場があることで密猟が悪化していること、それによって地域住民の安全が脅かされていることをうったえる声明を署名入りで出しています。

では、アフリカゾウの未来はどうなるのか。

それはアフリカゾウと地元住民の共存にかかっています。ここ5年間で多くの保全のプログラムが実施されてきましたが、今、もっとも重要なトピックですね。

今までは動物だけを守ることが中心だったのが、今は地元住民の生活を通してどう共存するかが課題になっています。

たとえば、人間との衝突を減らすためにゾウが畑を歩かないように、トンネルをつくってゾウを通らせてあげる。そういった共存プロジェクトが始まっています。

他にも研究でゾウが蜂が怖いことが分かっているので、畑に入らないように蜜蜂の巣箱を作って畑のフェンスに設置しているプロジェクトもあります。さらに蜂蜜からの収入も得ることもできる仕組みです。

そのようなプロジェクトを通して、国立保護区以外の70%の生息地にすむ野生動物をどう守っていくか。それには地元住民に現金収入があることが大切なんですね。「ゾウは大切だ!」と言っても毎日隣り合わせに生活している地元の人からしたら、あまり意味がないことなんですね。

たとえばゾウが住む森を保護することで、観光であったり、何であれ、現金収入が貰えるという試みがあれば、地元の人と一緒に共存していくことができるかもしれない。

アフリカ人は共存の道を大変ながらも頑張って歩んでいるんですが、一方でゾウを絶滅から守るためにはアジアの歩みも大事だと思うんですね。

問題なのが国連で取り上げられている、テロリストの資金源として使われている象牙マネーや、「アフリカゾウを守る」という目的のもとレンジャーと密猟者という立場でアフリカ人同士が殺しあっているという悲劇。アジアの国はこの事実を知って欲しいし、この事実と、どう象牙と向き合っていくかが私たちの課題だと思うんですね。

すでに63%が殺された中央アフリカから始まり、東アフリカ、まだ大丈夫な南アフリカと「絶滅の波」が起きています。ゾウが絶滅したら象牙という素材自体もなくなってしまうわけですから、今、間に合ううちに代用品に変えていくとか別の道があると思うんですね。

それを、象牙を買い、使っているアジアの国として、今後どのように関わっていかなければいけないのか、この講演会がそれを考えるきっかけになればと思い、お話させていただきました。長い時間、ありがとうございました。

Q&Aセッション「その象牙製品を買わなければ、1頭のゾウが救えたかもしれない」

Q
なぜ中国の方は象牙を求めるのですか?日本でもそれほどの需要があるとは思えないのですが。
A

日本も中国も、社会的に象牙に対して寛容だと思います。たとえば印鑑に象牙を使ってたりと。中国では「モノからパワーを得られる」という信仰があるので、それもあるのではないかと、と中国の方から伺いました。

Q
日本についてですが、印鑑以外で象牙への需要はあるんでしょうか。
A

日本に住んでいないので、私も気になります。三味線でしたり、お茶の蓋ですかね。日本ではほとんどは印鑑だと聞いていますが、アフリカに15年住んでいて、6歳の頃からずっと色々な国に住んでいるので、よく分からないんです。日本の人は印鑑は象牙の方がいいんですかね?

小さい印鑑でも小さいイヤリングでも大きな彫り物でも、ゾウの命を奪わないと取れないんです。大きさには関係なく、命を奪われたということには変わりないんですよね。

追加したいのですが、別に象牙が悪いということではないんです。ただ、それは今現在維持できない資源だということなんです。プラカード掲げて「ゾウが可哀想だ!」と言いたい訳ではないんですね。10年前に合法で市場を回せていたものが今は悪用する人たちが多すぎる。簡単に利用できる。銀行に送金するより足が付かない。もう紛争の状況や密猟のプレッシャーにゾウたちは耐えられないんですね。

生きたアフリカゾウから素材になるまでの過程ですけど、私が見たら、毎日ゾウの死体を現場で見て、それが綺麗なアクセサリーになるのを見ると、あまりにも世界が違うなという感じがします。

なぜお話をしたいと感じたかと言うと、私の仕事は死体から始まるんですね。命が亡くなる現場にいるので、生きた動物を守りたいと思ったんですね。死ぬ前のゾウを守りたいなと思った。

象牙取引というものには、犯罪組織の政府とのコネクションであったり、大きなパワーが関わっていて、1人の力で全てを解決することは難しいのが現実です。でも、象牙で作った物を買わないというのは1人でもできますよね。買わないということで1頭のゾウが救われたかもしれないんです。

もし、象牙が石ころと同じくらいの価値になれば、買う人も殺す人もいないんです。犯罪組織にしたら、お金が手に入ればいいので、象牙でなくても、金でも麻薬でもいいんですね。ただ金なら鉱山を管理しないといけないけど、ゾウなら簡単に殺せるのでイージーキャッシュになっているだけなんです。もし象牙の価値がなくなれば、彼らは違う対象(資金源)に移るんでしょうね。

Q
今まで密猟者に命を狙われたり、危険な目に遭ったことはありますか?
A

命を狙われるというより、密猟者を追いかけたことはあります。

(会場笑)

私は反撃にあったことはありませんが、他のレンジャーは撃たれたことはありますね。戦争の最前線と同じで、命を落とす危険は常にあります。

Q
今の日本にできることはなんでしょうか?この問題を日本のマスコミに取り上げてもらうのは難しいですか?
A

そうですね…。アフリカからビッグイシューに投稿していたので、まだ日本のコネクションがないんですね。もちろんNHKにもアプローチはしましたが…。

このアフリカの現実を知ったら象牙を欲しがる人はいないのではないでしょうか。それは中国人、日本人関係ないと思います。なので1人でも多くの方に知っていただきたいです。

1つの象牙が買われないことで1頭のゾウが救えたかもしれない。色々な場所でこの事実を知っていただきたいなと強く思います。

<講演終わり>

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