プロサッカー選手たちがチームを超え、貧困支援活動ーアンドリュー・ロバートソンの場合

 このところ、貧困支援に力を入れるサッカー選手の活躍が目覚ましい。『ビッグイシュー日本版』397号では、マンチェスター・ユナイテッド所属のマーカス・ラッシュフォード選手による食料貧困への熱心な取り組みを紹介したが、今回はライバルチーム、リヴァプールFC所属のアンドリュー・ロバートソン選手(スコットランド代表)に取材した英国版ビッグイシューの記事を紹介したい。


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リバプール FC の本拠地 MAY 17 2018 photo:coward_lion

コロナ禍にあって、スポーツ界にも変化が訪れている。

「サッカー界の人間は、子どもの貧困を大きな問題だと捉え、行動に移し出しています」メルウッド練習場で取材に応じてくれたロバートソンは言う。「マーカス(・ラッシュフォード選手)はサッカー界の鑑ですね。この分野での彼の実績は誰もが認めています。もちろん彼だって、こんな活動をする必要がなければと願っているでしょうけど。今は皆が行動を起こすとき、彼はその最前線にいます」

「この際、ライバルチームかどうかなんて関係ありません。貧困問題についてはサッカー界の多くの人がマーカスと同じ考え。彼の発信力は本当にすばらしいですね」

ラッシュフォード選手はボリス・ジョンソン首相と電話で話し、低所得層の子どもたち140万人への食料引換券支給措置を2020年7月で終了するという政府の方針を撤回させた。それに比べると、ロバートソン選手のやり方は地味かもしれないが、プレミアリーグという地盤を活かした支援を着実に進めている。

フードバンクに寄付、慈善団体「AR26」の設立

感染が拡がり始めた2020年3月、サッカー界のトップ選手は報酬カットしてでも支援金にまわすべきではないかとの議論が盛り上がったが、ロバートソン選手はその筆頭となりグラスゴー地域の6つのフードバンクに現金を寄付。この寄付のおかげで5万3千食を配布できたフードバンクもあったという*1。

*1 Liverpool defender Andy Robertson believed to be behind major foodbank donations

ロバートソン選手は2020年10月には慈善団体「AR26*2」を立ち上げ、経済危機や感染症拡大でチャンスに恵まれない子どもたちを支援する活動を展開している。また、サッカーを通じて社会的弱者を支援する社会事業「ストリート・サッカー・スコットランド(SSS)*3」の二代目の親善大使も務めている。SSSはホームレス・ワールドカップ*4で二度の優勝実績がある「チーム・スコットランド」を育成しており、選手らは、スコットランド代表メンバーとしてワールドカップ出場経験のあるロバートソン選手から直々に指導や生活相談にのってもらえるのだ。

*2 本人のイニシャルと背番号「26」が名前の由来。 https://www.ar26.org.uk

*3 2009年に設立された。 https://www.streetsoccerscotland.org

*4 https://homelessworldcup.org

新型コロナウイルスの感染拡大で「食の貧困」に注目が集まっているが、ロバートソン選手はずっと以前から支援に取り組んできた。エヴァートンとリヴァプールのサポーターたちがチームの壁を超えて立ち上げた食料支援団体「ファンズ・サポーティング・フードバンクス*5」とも以前からつながりがあり、団体への寄付を呼びかけるとともに、フードバンクで自らボランティア活動を行ったこともある。

*5 https://www.facebook.com/FansSupportingFooddbanks/

今は社会問題への関心を具体的なアクションで示すとき

「もちろん僕ら選手たちも社会問題に関心があります。ここ最近はグラウンドでの会話も、普通の職場で交わされる話題と何ら変わらないと思います」と言う。「選手は恵まれた立場にありますが、家族や友人たち、地域の人々が不安を抱えていることには高い関心を持っています」

「社会がこれからどうなっていくのか、とても気がかりです。僕らで力になれることがあるなら、やっていきたいです。もちろんコロナ禍が突きつけた問題は僕らだけでは解決できるものではないでしょうが」

「でも、みんなで正しい方向に進んでいければ、経済を立て直し、雇用も回復させられるのではないでしょうか。誰だって給付金やフードバンク頼みの生活は嫌でしょう。働くことで人は社会をつくり、それが生活を支えてくれるのです。それがこの未曾有の事態で奪われてしまっている状況なのですから」

ピッチ上にとどまらない彼の活躍ぶりだが、そのルーツは自身の育った環境にもある。グラスゴーの労働者階級が多く暮らすメアリーヒル地域で育ち、「決して生活に余裕はなかった」と言うが、「住む家があって、毎晩食事ができたのはありがたかった」と振り返る。

逆境も経験している。15歳の頃、名門サッカークラブ「セルティック」のユースチームを身体が小さいという理由で退団させられ、スコットランド4部のクイーンズパークに移籍させられたのだ。しかし、そこでのハイパフォーマンスを認められ、トップリーグのダンディー・ユナイテッドに引き抜かれ、現在はプレミアリーグで大活躍しているわけだが。

フードバンクに募金をした7歳の少年に感謝の手紙

高額の報酬を得られるようになった今でも、最初のチャンスを求めていた頃のこと、生活必需品にも困っていた頃のことは忘れていない。「人がどんな状況にあろうと毎日食事を取れるよう支援する、それくらいは僕たちにもできます。見て見ぬふりはできません」

「正直、フードバンクを必要としている人の多さには驚かされます。しかも世界の現状を踏まえると、その数はこれからも増えるのでしょう。職を失ったとかそんな話ばかり入ってきますから」

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リバプールのサッカーファン 2018 photo:Vitalii Karas

「ですから、仕事があって、しっかりと収入がある恵まれた人たちは、何かしら支援できるはずです。支援の必要性はかつてないほど高まっているのですから」

「何かしらの支援」といえば、こんなエピソードがある。

数年前、リヴァプールファンの7歳の男の子がなけなしのお小遣いをフードバンクに寄付した。それを受けて、ロバートソン選手はサプライズでこの男の子に感謝の手紙を送り、寄付への賞賛・感謝とともに「(花形選手である)フォワードのベルト・フィルミーノ選手に頼んでサインしてもらったよ」と、(自分のではなく)フィルミーノ選手のシーズン限定Tシャツを同封したのだ。

男の子の父親がツイートしたスター選手からの“感謝の手紙”は瞬く間に拡散され、2万近くのいいね!がつき、「フードバンクに寄付する」というアクションを多くの人に促すかたちとなった。

トップクラスのサッカー選手らがゴールの照準を貧困問題にも合わせ始めているのは喜ばしい流れだ。他のアスリートによる社会貢献活動も広まっている。コロナ禍で深刻な打撃を受けているサッカーファンたちからすれば、今やロバートソン選手のユニフォームこそ“希望の象徴”ではないだろうか。

By Liam Geraghty
Courtesy of INSP.ngo / The Big Issue UK bigissue.com @BigIssue

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テニス選手として世界の頂点に立つ一方、故郷の子どもたちを支援する財団を立ち上げたり、東日本大震災のチャリティイベントも開催するなど、社会的な活動に力を入れるノバク・ジョコビッチ。地元セルビアのストリート・ペーパー『リツェウリツェ』にその思いを語りました。
https://www.bigissue.jp/backnumber/329/








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