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住宅でエネルギーを自給する設備があれば、光熱費を抑えられ、国としての脱炭素化にも貢献できる。経済的な理由から、一般の住宅を購入・賃貸できない低所得者にこそ、気候変動に強い住宅はありがたく、重要なものである。マンチェスター大学博士課程で公営住宅のエネルギー環境改善をテーマに研究しているクレア・ブラウンの『The Conversations』寄稿記事を紹介しよう。
英国では240万世帯が「燃料の貧困」状態
2020年に発表されたデータ*1によると、英国の全世帯の10.3%(約240万世帯)が「燃料の貧困(fuel poverty)」にあると見積もられている。これは、収入から光熱費を差し引くと貧困ラインを下回る世帯を指す。再生可能エネルギーを自給できる物件を増やすことが、1つの解決策となろう。入居者の多くが、光熱費か食費かの選択に悩まされている公営住宅では特に*2。
*1 2018年のデータをもとに、2020年に発表された数字。
参照:Annual Fuel Poverty Statistics in England, 2020 (2018 data)
*2 Millions of households ‘forced to choose between heating and eating’
公営住宅の新築にはもちろん、防火、排水、省エネ性能建築基準に準拠しなくてはならない。エネルギー基準は、現在、見直しが進められており、今後は炭素排出量の少ない暖房の利用などが盛り込まれる見込みだ。言うまでもなく、壁、床、屋根に高性能の断熱材を使用した家はエネルギー効率が高い。しかし低所得者にとってとりわけ重要なのは、熱や電気がどこから来るかだ。
再生可能エネルギー発電や低炭素熱源を住宅に組み込むことで、この厳しい状況を避けられなくとも、いくぶん和らげられるだろう。例えば、屋根に太陽光発電や太陽熱利用システムを設置すれば、エネルギー源として実用的なだけでなく、ひとつの外観デザインにもなろう。
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新しく宅地開発する場合は、より広域な地域熱供給や、共用型地熱ヒートポンプなども選択肢となる。ヒートポンプは外気を使って空調や冷温水をつくりだす技術で、家庭でも使える。
ウェールズ南部の都市スウォンジーでは、住宅群をミニ発電所に見立てたプロジェクトが進められている*3。ヒートポンプ、ソーラーパネル、蓄電用の大型バッテリーを備えた住宅を1万軒以上建設した。このようなプロジェクトから得られるデータは、今後の公営住宅の設計のあり方を考える上で非常に重要である。
*3 Homes as Power Stations – Swansea Bay City Deal
今後、英国でも高まるであろう猛暑リスクに備えて
今はまだ想像しにくいかもしれないが、将来、英国の多くの地域が猛暑に襲われる可能性がある。 むくみ、熱中症、熱けいれんなど、健康に悪影響を及ぼしかねない。英国気象庁も、気温と降水量の上昇を予測している。そして、その影響をより大きく受けるのは、低所得の人たちだ。
これが、気候変動に強い家を建てるべき、もう1つの理由だ。今後は暖房だけでなく、冷房の需要も増すだろう。最悪のシナリオは、膨大なエネルギーを消費する家庭用エアコンが大量に設置されること。その前に、建物への直射日光を季節に応じて軽減するシェーディング(日除け)を設計に取り入れるなどして、クーラーの需要を減らす努力がなされるべきだ。
この先、英国の低炭素化を実現するには、複数のソリューションを組み合わせて進めなくてはならない。 住宅はその一端を担う。未来型の住宅設計をすることで、脱炭素化、燃料の貧困、住宅のデザイン性向上だけではなく、気候変動の悪影響をまともに受けるであろう次世代を助けることにもなる。考えられる対策を、いますぐ実行に移していくべきだ。
By Claire Brown
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo
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