学生による食品ロス削減活動、ゼロハンガーチャレンジの具体例/BIG ISSUE LIVEに枝元なほみ・山崎幸子さん・陶山智美さんが登壇

昨今、その日の食事にも事欠く人たちが増える一方で、食品が大量に廃棄されてしまう「食品ロス」問題への危機感が高まっている。そして、そうした危機感は一部の大人たちから若い世代へと広がりを見せ、問題解決に向けて実際に行動する人たちも現れている。


そのような中、国連WFP協会は10月に世界餓死問題、栄養不足、食品ロスなど食に関連する問題とその解決策を考えるキャンペーン「ゼロハンガーチャレンジ」を掲げ、世界各地でさまざまな取り組みが展開された。

ビッグイシュー日本もこれに賛同し、10月3日に続いて10月17日に食に関するライブ配信<BIG ISSUE LIVE×ゼロハンガーチャレンジ #2「食から考える 私たちの未来」>を実施。山崎佐知子さん(Fairy forest~もったいないに架け橋を~)、陶山智美さん(おすそわけ食堂まど)をゲストに迎え、料理研究家であり認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同代表を務める枝元なほみと共に、「私たちの未来」について食を切り口に語り合った。司会はビッグイシュー日本インターンの鈴木晴菜が務めた。


この記事は、2021年10月17日にYouTubeで開催されたイベント<BIG ISSUE LIVE× ゼロハンガーチャレンジ #2「食から考える 私たちの未来」>のレポートです。

主催:ビッグイシュー日本

夜のパン屋さん1周年! 食品ロスについて知ってもらうきっかけに

料理研究家として『ビッグイシュー日本版』に“世界一あたたかい人生相談-幸せの人生レシピ”を連載する枝元は、認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同代表を務めると同時に、農業生産者の支援事業をおこなう「一般社団法人 チームむかご」の代表も務めている。そして自身が専門とする食にまつわる事業として、夜のパン屋さんの立ち上げに尽力している。

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ある寄付者の「寄付金が循環する仕組みをつくってほしい」という声から始まった夜のパン屋さんは、都内中心部のパン屋さんの協力で閉店まぎわに残りそうなパンを引き取り、神楽坂にあるかもめブックスの軒先で売り切るという取り組み。2020年9月末にプレオープン、その後10月16日の世界食糧デーにグランドオープンした。新たに働く場を創ることを目指したこの事業では、パンのピックアップと販売を主にビッグイシューの販売者が担っている。

「世界食糧デーであり、夜のパン屋さんが1周年を迎えた10月16日には、いろんなパン屋さんのパンが店頭を並べてお祝いすることができました。世界食糧デーや食品ロスなどについて、多くの人に知っていただく機会になったと思います」と枝元。

火・木・金の週3回、19時からおこなっている神楽坂かもめブックスでの販売に加え、10月は毎週火曜にビッグイシュー東京事務所近くのマンション、飯田橋第一パーク・ファミリア(新宿区新小川町)で「夜パン号」での移動販売を開始。また世界食糧デーに合わせ、10月6日から23日の水・金・土には代官山蔦屋書店T-SITEにて期間限定で夜のパン屋さんを出店した。取り組みに賛同してくださる方が少しずつ増えており、明治大学駿河台キャンパスでは10月16日に学生による「3分の1のパン屋さん」が開店した。

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一つの食べ物はたくさんの人がかかわりあってできている(山崎佐知子さん)

山崎さんは現在高校2年生。東京都八王子市にある磯沼ミルクファームで、産業廃棄物として捨てられてしまう食材「おから」を使った雪花菜(おから)のグラノーラを製造・販売し、そこで出た収益を子ども食堂に寄付する活動をおこなっている。

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山崎さんが食品ロスに興味を持ったきっかけは、幼い頃に祖父から聞いた戦争体験。
「蝉を食べなければ生きていけなかったという祖父の話に衝撃を受け、それ以来、食べ物を大切にしようと思うようになりました。一方で大量生産、大量消費、大量廃棄がおこなわれている現実を知ってからは、この状況が本当に豊かだと言えるのだろうか、自分にも何かできることはないかと考え始めました」

山崎さんを前進させるきっかけとなった出来事はもう一つある。磯沼ミルクファームでのカウガールとしての経験だ。カウガールとは、週末に牧場で牛の飼育を手伝ったり、子牛に名前をつけて1年間世話をする活動で、山崎さんはこれを3年間務めた。

「私たちは命をいただいて生きている。一つの食べ物はたくさんの人がかかわりあってできているということを感じました。食べ物は買った人だけのものではないということに気付かされたんです」

小さい頃に聞いた食糧難の話と、牧場でのいろいろな方との出会いや学びが活動の原動力になっているという山崎さん。もったいない食材の価値を、経済的に困っている人たちに届けられればという。現在は月に1回、磯沼ミルクファームで開催される「牧場お散歩マルシェ」に出店している。

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「販売方法についても改良を重ね、今はどんな人にも食べやすいように、グラノーラとフルーツを混ぜて販売しています。砂糖や油は一切使用せず、お豆腐屋さんからいただいた生のおから、有機のオートミール、国産の米粉のみを材料にしているので、甘味としてハチミツやミルクをお好みでかけていただくのがおすすめです」

廃棄されてしまう農作物で食生活を改善(陶山智美さん)

陶山さんは大学4年生で高知県香美市に「おすそわけ食堂まど」をオープンし、同市内への移転を経て2021年9月に1周年を迎えた。農家などで余ったり、規格外になったりなど、いろいろな理由で市場に出回らない食材を活用する食堂を運営している。

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「もともと農家を目指して進学したのですが、農業の現場で捨てられる規格外の野菜をたくさん目にしました。一方で、自分自身や周囲の人が栄養バランスの乱れなど食生活の問題を抱えていることも気になりました。これらを何とか解決できないかと考え、子ども食堂をオープンしたんです」

食堂では日替わり定食を大人800円、学生500円、子ども300円で提供している。野菜はほぼすべてが地元の農家さんをはじめ地域の方からのおすそ分け。子ども食堂としての機能を意識して、カレーは子ども向けに甘めの味付けにしたり、ハンバーグやオムライスなど人気のメニューも用意したりするが、野菜を食べてもらう工夫は欠かさない。

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「日替わり定食は毎日一汁七菜。前日までに集まった食材から栄養、彩、味付けのバランスを考えてメニューを決めていきます。子どもたちにも地元の野菜をたくさん食べてほしいので、細かく刻む、クリーム系の味付けにする、などの工夫もしています」

地元の農家さんとの関係は、大学時代にボランティアやアルバイトなどで一緒に農作業をさせてもらったご縁から。食堂を立ち上げようと動き出してからはいろいろな方に相談し、農業以外の分野の方とも繋がることができた。食堂をオープンしてからはテレビや新聞などに取材を受けることがあり、それを見て連絡をくださる方もいるという。

動き出すと普段繋がることのない人ともどんどん繋がって、世界が拡がっていく

山崎さんと知り合ったきっかけについて、枝元はこう話した。
「元農林水産大臣の山田正彦さんが制作した2本のドキュメンタリー映画『食の安全を守る人々』『タネは誰のもの』がすごく良かったと、山崎さんが山田さんを訪ねたことがきっかけです。一緒にできることをやってみてはどうかということで、山田さんから紹介してもらってから、山崎さんとのご縁が始まったんです」

一方、陶山さんを知ったきっかけは『DOCS for SDGs』というドキュメンタリー番組。枝元が番組制作の一部にかかわることになり、彼女が出演した放送回を視聴したときにその想いと行動力に感銘を受け、今回の共演に繋がった。

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「私も拝見したのですが、陶山さんの活動への想い、(お茶の)つくり手の方に貢献したいという真摯な姿勢にとても感動しました」と鈴木。

「動き出すことで、普段の生活では繋がることのない世代や分野の人と繋がっていくことが面白い」という枝元に、山崎さんも賛同する。牧場お散歩マルシェでは、山崎さんが用意したポスターに興味を持って話しかけてくれる人も。初めて販売したときに「グラノーラが美味しかった」と牧場に電話をかけてくれた人がいて、そのときの体験は今でも忘れられないという。

「牧場での出会いや学びが刺激になって、自分でも何かやってみようかなという気持ちになりました。そして実際行動に移してみると、そこでまた繋がりができる。そうやってどんどんいろんな人と繋がっていくことがとても楽しいです」

陶山さんの食堂では、お手伝いをしたいという子どもを厨房に入れることもある。普段かかわることのない大人とも楽しそうにコミュニケーションをとる子ども、家庭菜園で採れた野菜や折り紙・刺繍の飾り物などをおすそ分けしてくださるお年寄り、大工仕事を手伝ってくださる方などもいる。

「ご年配の方はいろいろな特技を持っていらっしゃるので、いろんな形で食堂づくりにかかわってくださっていて、とてもうれしく思います」

「やっちゃおう」という気持ちも大事。信じた方向に進めば道が拓ける

「初めてグラノーラを販売したとき、自分がなぜこの活動をしているかを伝えるために一生懸命つくったものです。まさかここでまた自分のポスターに会えるなんて、うれしいです」

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そう言って顔をほころばせる山崎さんは、高校1年生の夏頃から活動の方向性を模索。どこでどんな食品ロスが起こっているかを独自に調査した結果、たとえ食品が廃棄されたとしても形を変えリサイクルされるものがあることや、農家によって規格外の野菜の活用度に差があることなどがわかった。

そんな中、磯沼ミルクファームのエコフィード(食品廃棄物から製造された家畜用飼料)に使われているおからが、実は使われるのはごく一部で、8~9割が廃棄されているという事実を知った。

「おからに着目してからは、安全なものを食べてほしいという想いで何度も試作品をつくり、砂糖や油を使わないレシピを考案しました。ただそれ以上に大変だったのは、小さな事業で収益を出していくために、営業許可を持つキッチンを貸してくださる協力者を見つけることでした」

山崎さんは数々のパン屋さんやカフェにお願いをしては何度も断られたが、最終的にある子ども食堂から紹介いただいたパン屋さんのキッチンをお借りできることが決まった。スタートから半年間はカフェの営業時間外を借りて食堂を運営していた陶山さんも同様に、営業許可を持つキッチンの確保には苦労したという。

「私は子ども食堂関係者、子育て中のお母さん、社会福祉協議会、市議会議員などいろいろな方に相談してきましたが、はじめは本気で受け止められていなかったように思います。理解を得られるまでに時間はかかりましたが、自分の信じた方向に向かって動いてみたことで、協力してくれる方がどんどん増えていったなぁと感じています」と陶山さんは振り返る。

枝元を含めた三人に共通するのは、失敗を恐れず、どうすれば自分の想いが実現できるかという点をしっかりと捉え、それに向かって実際に動いてみたこと。そうすることで、次にすべきことが明確になり、周囲の人に助けてもらいながら物事が前進していったのだ。

「確かに『やっちゃおう』という気持ちも大事だなぁと思います。今の学生はコロナ禍で諦めなければならないことが多く、動きにくい部分もあると思いますが、そんなときこそ思い切りが必要かもしれませんね」

という鈴木は自身も現役大学生であり、学生として気になる学業との両立についても続けて山崎さん、陶山さんに尋ねた。

「活動を継続するには大変なこともありますが、好きだからこそ、『勉強しないといけないから活動を辞める』のではなく『活動をしたいから勉強もする』と考えるようにしています」
という山崎さんは、ライブ配信の2日後が高校の中間テストだそう。

大学生である陶山さんは、食堂の活動を卒論テーマとすることで両立を叶えた。
「運営するだけでなくそれをデータとしてきちんとまとめるという作業には苦労しましたが、勉強したことが自分の活動に生きればという想いがあったので、それを実行することができたのは良かったです」

望む未来は自分たちがつくっていく

最後に鈴木は、二人の今後の目標や将来の夢を尋ねた。

「店舗を持って半年、まずは地域に根付くこと、つまりお金や人を事業としてしっかりまわしていくことと食堂を地域の人が集まりやすい場にしていくことを目標にしています。少し先の展開としては、全国共通の課題である農作物の食品ロスに対して、別の地域で取り組みたいという方がいれば、立ち上げなど協力させていただきたいと思っています」
出身である鳥取でもいつか、と陶山さんは話す。

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山崎さんは早くも活動の幅を広げるべく、クラウドファンディングに挑戦(2021年10月17日終了。141%もの達成率で成功)。おからのグラノーラをより多くの人に食べてもらうこと、環境に配慮した販売を開始すること、食品ロスについて楽しく学べる冊子をつくることを目的としている。

「私は地球1個分の暮らしを実現できる持続可能な街をつくりたいと思っています。今の活動は食品ロスに興味を持ってもらうきっかけになりますが、その先には持続可能な社会のしくみが必要。本当に価値あるものにお金を払える社会を実現したいです」と山崎さん。

二人の行動がこのライブ配信を聴いている人たちの「一歩」を踏み出すきっかけになることを期待し、枝元は次のように総括した。

「ドイツの環境デモには、6歳くらいの子もしっかり自分の意見を掲げて参加するんだそうです。環境問題や食品ロスを自分事として捉え、これから自分が生きる世界をどうやってつくっていくか、子どもの頃から考えているんですね。日本でも『こういう未来をつくっていくんだ』と若い人がどんどん発言して、大人はそれを邪魔するのではなく、この状況をつくってしまった責任を果たす意味で一緒にやっていく。そんな関係性でありたいです」

そして最後に、陶山さんが次のメッセージを贈った。
「食堂まどは『おすそ分け』をキーワードにしています。物と物の受け渡しには人の心も乗っかっている。なんでもお金で買える時代ですが、野菜を一生懸命つくった人、運んだ人、料理した人がいて、それで私たちはごはんを食べられている。そんな温かさを感じ取れる心を磨いていってほしいと思います。そして自分が受け取った優しいおすそ分けの心を、どういう形でも良いので次の人に繋げていく。そんな小さな行動を一人一人が起こすことで社会が良い方向に変わっていく、そういう意識をちょっとでも持ってもらえたらと思います」

第7次「コロナ緊急3ヵ月通信販売」の募集

有限会社ビッグイシュー日本はホームレス状態の人や生活に困窮している人がすぐにできる仕事をと、雑誌を路上で販売する仕事を提供している。販売者は1冊220円で仕入れ、お客さんに450円で販売する、その差額230円が利益になる。

しかしコロナ禍で路上販売はままならなくなった。そのような中でも販売者たちの収入を確保し、体調が悪いときは安心して休めるしくみが必要だった。
そこで、2020年4月に「コロナ緊急3ヵ月通信販売」を立ち上げ。当初早期のコロナ禍収束を想定し3ヵ月間と設定したが、現在7次の募集中だ。「コロナ緊急3ヵ月通信販売」では、3か月分の計6冊の雑誌を3,300円で前払いしていただき、ビッグイシューは販売者が本来路上販売により得られる利益分をプールしておき、販売者に毎月販売継続協力金として現金を渡す。

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現在は毎月2万円程を支援金として販売者に支払うことができている。この金額は申込数によって変動するので、路上から買うのが難しい方、近くに販売者がいないという方は、ぜひ「コロナ緊急3ヵ月通信販売※」に参加いただきたい。

※ 第7次「コロナ緊急3ヵ月通信販売」

このLIVEはYouTubeのビッグイシューチャンネルにアーカイブされている。

ビッグイシューチャンネル→BIG ISSUE LIVE×ゼロハンガーチャレンジ #2「食から考える 私たちの未来」

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