女性政治家が少ない理由ー子ども時代に形成される「政治家」のイメージに起因?

米国では、女性の政治への関心は男性より低く、政治家に立候補する割合も少ない。女性は人口の50.8%を占めるにもかかわらず、連邦議員に占める割合は26.7%、州議員の31%にとどまっている。テュレーン大学准教授ミリヤ・ホルマンらによる『The Conversation』寄稿記事を紹介しよう。


実際の性別比と大きく異なる代弁者が執り行う政治は、代表制民主主義の根幹をなす価値――公平、包摂、平等――をおびやかし、政策の質を低下させる。同じことは、筆者たちが働く大学でも起きている。米国では女性は大学生の半数以上を占めるのに、学生自治会となると、立候補者も選出者も男性より少ないのだ。

筆者の研究チームでは、女性の代弁者が少ない現実と、女性の政治に対する関心の低さや立候補者の少なさとの関連性を見る研究を重ねてきた。

公職の立候補者のあいだに根強く存在しているのが、資金調達やリソース面での男女格差だ。「エマージ・アメリカ*1」や「レディ・トゥ・ラン*2」では、立候補を目指す女性のトレーニングや、女性候補者への資金調達を支援することで、事態改善に取り組んでいる。ただ、このような政治的関心や政治家を目指そうという気持ちにおける男女の差異は、人生のもっと早い段階で刷り込まれていないだろうか。

*1 Emerge America 
*2 Ready to Run 

子どもたちが描く政治家が物語るもの

政治への関心の男女差は小学生の時点ですでに見られるのかどうかを調査するため、研究チームでは小学校の1〜6年生までの児童1,600人以上を対象に、ある調査を実施した。

児童から政治の話を聞き取るのは、簡単ではない。子どもたちは、政党のこと、「議会」や「最高裁」といった言葉になじみがない場合がほとんどだ。 そこで筆者らは、「政治家を絵で表現する」という手法を用いることにした。STEM(科学、技術、工学、数学)分野における男女格差を調べるために「科学者の絵を描く」という課題を出した他の研究*3 からヒントを得たやり方だ。

*3 科学者の絵を描くというお題に対し、女性の科学者を描く子どもがこの50年で着実に増えている。

参照:50 Years of Children Drawing Scientists

まず、児童に「政治家」と聞いて思いつく人の絵を描かせてから、絵の中の人は何をしているのかを質問し、その人物の特徴を聞き出した。そして、政治への関心や、将来政治家になりたいと思うかなども聞いた。その結果から、子どもたちが政治や男女の役割について学習していく過程、学術的に言うところの「性別に基づく政治的社会化」を探った。

3年生のある男子はドナルド・トランプの絵を描き、「ヒラリー・クリントンを刑務所送りにしろと演説している」と語った。「政治家は普段、何をしていると思うか」と聞くと「ニュースに出たり、裁判所に行ったり」と答え、政治家についてどう思うかとの質問には「頭が固い」と言った。

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ドナルド・トランプが演説をしているところ。/Bos, Angie et al

7歳の女子は「お話しているところ」の市長を描き、政治家の普段の仕事は「とにかくずっとベラベラ話してる」と言った。

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2年生の女子が描いた市長。何をしているのと質問すると、「お話してばっかり」と答えた。/Bos, Angie et al

「政治は男の世界」と刷り込まれていく過程

小学生くらいの年齢になると、社会において男性や女性に期待されがちな行動などを意識するようになる。「先生に多いのは女性」、「消防士は男性が多い」といったように、社会の中で男女が担いやすい職業を理解するようにもなる。

政治についての学習も始まり、米国の歴史的な出来事や指導者について知るようになるが、焦点が当たるのはほぼ男性だ。男女の違いについて知っていくことと、政治についての学習、この2つのプロセスが同時進行することで、「政治の世界は男性に支配されている」との理解をもたらしていく。

筆者らの調査では、女子は学年が上がるにつれて段々と「政治は男の世界」と考える傾向が強まることが分かった。政治家の絵を描かせると、男子は学年を問わず4分の3が男性の絵を描いたのに対し、女子は小学1年生と2年生は半数弱が女性の絵を描き、中学生で女性を描いたのは4分の1のみだった。

女子は年齢が上がるにつれ、政治家は「男性の世界」と考えるようになった。/Bos, Angie et al 

また、学年が上がるにつれて政治に触れる機会も増えるためか、トランプやオバマなど代表的なリーダーを描く傾向が強まる結果となった。今回の研究から言えるのは、政治家を描く上で性別や年齢によって傾向があること、そして、政治について知る中で「政治は男の世界」という考えを習得していくことである。

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3年生の女子はヒラリー・クリントンを描いた。「ヒラリー・クリントンがまちのためにリンゴやオレンジを摘んでいるところ」と書いた。/Bos, Angie et al

女性の役割と政治が交わらない結果、女子は男子より政治への関心や意欲を低下させていくと考えられる。思春期に入り、友人から受ける影響が強まり、目立つことよりもまわりになじむことが優先されるようになると、いっそう女子は政治から遠ざかっていきやすい。一度政治に背を向けるとなかなか興味が戻らない人が多いのは、女性政治家の数が物語っている。

政治における男女不平等の根は子ども時代にまでさかのぼる。子どもたちは学校でのさまざまな活動の中で男女の役割や政治について学び、政治について保護者がしている会話を聞き、メディアによる政治の伝え方を見て、政治への考えをつくりあげていく。

今後、選挙に立候補し、当選できる女性を増やせるかどうかは、保護者、教師、メディアが、男女の“普通”の姿をどう見せていけるかにかかっている。

著者
Mirya Holman

Associate Professor, Tulane University

Angela L. Bos
Associate Professor of Political Science and Associate Dean for Experiential Learning, The College of Wooster

J Celeste Lay
Associate Professor of Political Science, Tulane University

Jill S. Greenlee
Associate Professor of Politics and Women’s, Gender & Sexuality Studies, Brandeis University

Zoe M. Oxley
Professor of Political Science, Union College


※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年10月25日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation

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