「食品ロス」は、加工、流通、消費の各段階で起こりうるが、発展途上国で特に問題になっているのは、もっと上流での食品ロスだ。アフリカの小規模農家たちは、出荷中の農作物が売り物にならなくなる問題に悩まされている。市場に届けるまでのずさんな取り扱い、いいかげんな包装、保管設備の不足などが原因だ。
野菜や果物の品質劣化が大量の食品ロスを招き、農家の所得に大きなダメージを与えてきた。
Credit: Busani Bafana/IPS
途上国の食品ロスの42%が、出荷前の品質劣化
途上国での食品ロス問題をまとめたロックフェラー財団の調査によると、野菜や果物の品質劣化が、途上国全体の食品ロスの42%を占めているという*1 。そして、商業的流通ルートの確立、食品ロス削減技術の活用が対策の鍵になると述べている。
*1 参照:Waste and Spoilage in the Food Chain(Rockfeller Foundation)
また、バリラ食品栄養センター*2 の報告書でも、飢餓問題を解決し、増加する食料需要を満たすには、大量に発生している食品廃棄問題への対策が欠かせないと強調しており、「インフラへの投資、新しいデジタル技術の活用、消費パターンの改良などあらゆる取り組みが必要」と述べられている。
*2 食の持続可能性について情報提供するシンクタンク。 Barilla Center for Food & Nutrition
親世代の苦労を見てきた若者起業家のひらめき
西アフリカに位置するナイジェリア*3 の小規模農家たちも、農作物の品質劣化に悩まされ、経営を圧迫され、ときに廃業にも追い込まれてきた。世界銀行によると、ナイジェリアで生産される食料の40%が廃棄されているという*4。食品ロスの悪影響を受けている農家や食料供給関係者は9300万人に及ぶとの試算もある。
*3 人口約2億1,000万人。人口の7割以上が農業従事者で、その8割超が小規模農家。
*4 参照:Food Smart Country Diagnostic – Nigeria (The World Bank)
beingbonny/iStockphoto カメルーンの市場の様子
農作物を守るため、画期的なアイデアを思いついた若者がいる。ナイジェリア南部の農家で育ったナエメカ・イケグウオヌは、周りの農家たちが農作物を日没までに急いで売り切ろうとしている様子を、幼い頃から見てきた。彼らは、農作物の品質が劣化して、タダ同然となってしまうのを避けようと必死だったのだ。
2003年、イケグウオヌは非営利団体「小規模農家基金(Smallholders Foundation)」を設立。地域のラジオ放送サービスを立ち上げ、農法の改善方法や環境保全に関する情報を、毎日25万人以上のリスナーに届けてきた。
キャベツをテーマにした番組を放送していたイケグウオヌは、ある時多くの農家がダメにになった農作物を廃棄している状況を目の当たりにした。「冷蔵設備があれば、新鮮な果物や野菜を市場で販売できるはず」と考え、調査を経て、太陽エネルギーで動く冷蔵庫「 コールドハブ 」の開発にこぎつけた。
太陽光を使った冷蔵設備「コールドハブ」
現在、社会的企業コールドハブ社では、ウォークイン式冷蔵庫「コールドハブ」の設計、設置、運営、貸し出しの事業を行っている。この冷蔵庫により、農作物の保存期間が、従来の2日から21日にまで延びた。
「食品がすぐに傷むせいで、市場に届くまでに、値段的にも栄養的にも農作物の価値が下がる。そのため、農家が貧困のサイクルに陥っていました。サプライチェーンの要所に冷蔵設備を置き、品質劣化を減らすことが弊社の使命です」と起業家イケグウオヌが説明する。
冷蔵庫を設計する際に重視したのは、太陽光発電機能を取り付けることだった。おかげで、日中は冷蔵庫の天井部分に取り付けた太陽光パネルによって発電し、夜間は蓄電バッテリーに蓄えられた電気で稼働する。
冷蔵庫1台で3トン分の食品を保存でき、農家や小売業者は、この冷蔵庫を低料金で利用できる(20kg収容のコンテナ1個につき、1日0.25ドル)。現在、38の集落で、54台の冷蔵庫が稼働している。5千人以上の小規模農家や小売業者、卸売業者が活用し、2020年だけで合計4万トン以上の食料を保存した。また、冷蔵庫の管理者や市場係員として、若い女性を中心に66もの雇用が生まれた。2022年には、コールドハブの台数を倍増させる計画だ。
コールドハブの導入により、食品ロスの削減と農家の収入向上に貢献できているとイケグウオヌは胸を張る。「コールドハブの設置前と比べると収入が50%増となった農家もあり、この技術を賞賛してくれています。かつてはダメになって廃棄したり、馬鹿げたような底値で投げ売りしていた農作物も、今や普通に商品となり、毎月150ドルの収入が得られているのですから」
農業にイノベーションをもたらしたイケグウオヌの名は今やよく知られ、ロレックス賞をはじめ数々の賞を受賞している*6。
*6 参照:FARMING BY RADIO
若者の農業離れを食い止めて、明るい未来を
農業分野の技術革新を支援しているヘイファー・インターナショナル*7によると、若者の農業離れを食い止めるには、農業部門での雇用創出と、パンデミックで影響を受けた食システムを修復する取り組みが鍵になるという。アフリカプログラムの本部長を務めるアデスワ・イフェディは、「アフリカの若い起業家たちは、親世代が味わってきた苦悩をよく理解しています」と話す。
イケグウオヌは、ヘイファー・インターナショナルと、アフリカの農業部門の若いイノベーターに資金援助を行なうコンペティション「AYuTeアフリカチャレンジ*8」の支援を受け、今後5年間で、西アフリカ諸国にコールドハブ冷蔵庫の設置を5千台まで増やしていきたいと意気込む。「農作物を新鮮に保つ方法がないことで、あまりに多くの農家が得られるはずの収入を逸してきました。コールドハブで農作物の品質を維持し、正当な対価を得られる農家を増やす革命を起こしていきます」
*7 Heifer International https://www.heifer.org
*8 AYuTe Africa Challenge https://ayute.africa/
By Busani Bafana
Courtesy of Inter Press Service / International Network of Street Papers
コールドハブ社ホームページ
https://www.coldhubs.com
コールドハブ導入を取り上げたニュース(YouTube動画)
https://youtu.be/Zpx6hH87-Yc
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