障害者の装いを豊かにする「アダプティブウェア」のアプローチ5選

 片手で服を着たり、座ったままジーンズを履いたりしたことはあるだろうか。足のサイズが左右で違う人や片足しかない人が、どうやって靴を買っているかご存知だろうか。布の種類によっては触れることすら耐えられない自閉症の人がいることは?

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photo: Shutterstock

障害者が直面しがちな問題を解決するため特別に開発された衣服を「アダティブウェア(Adaptive Wear)」という。最近では、さまざまな障害者のニーズを想定しつつ、スタイルやファッション性を維持しようと、ファッションとテクノロジーを融合させた新しいスタイルの衣服を提供する企業が増えている。
アダプティブウェアでよく採用される5つのアプローチを紹介しよう。

1. ボタンの代わりに磁石を使う

磁石式ファスナーをいち早く採用したのがアンダーアーマー社だ。同社が導入したジャケット用ファスナー「マグジップ」では、始点を磁石で固定できるので、片手で簡単にファスナーの開閉ができる。この技術のおかげで、シャツやズボンにも磁石を使う流れが進み、ボタンに苦戦していた人たちでも簡単に着脱できるようになった。

2. 靴ひものない靴

ひもをなくす、またはひもを簡単に結べる靴も数多く展開されている。ひもの代わりにファスナーを採用し、片手で靴が履けるようにしたものもある。
ナイキ社の「ゴー・フライイーズ」では、蝶番(ちょうつがい)の仕組みを応用し、足を入れるとヒンジが閉じて、靴と足が固定されるようになっている。シリーズ第一弾となったこの商品は、幅広い消費者からの支持を集め、品切れや転売の問題まで引き起こした。障害者だけでなく誰にとっても使いやすいユニバーサルデザインの好例であろう。

3. 着る人の諸事情に合わせた服

自閉症の人は、特定の布地やタグ、服のラベルに過敏なことが多い。そうしたニーズに対して、アダプティブウェアのブランド「JAM the label」などでは、タグを付ける代わりに、スクリーン印刷によるラベルを採用。低刺激性の竹繊維やリネンを使った衣服も幅広く展開している。


医療機器の使いやすさとファッション性を両立させた事例もある。チューブで栄養を取っている人、ストーマ袋*1 を使っている人向けに、オーストラリアのアダプティブウェア・メーカー「Wonsie」では、腹部にアクセスしやすいワンジー(上下一体型のつなぎ)や水着を、子ども用から大人用まで販売している。

*1 人工肛門・人工膀胱を使用している人が使う排泄物をためる袋。


4. 3Dプリントとカスタムデザイン

黒色の車いすや肌色の補聴器など、これまでの障害者用補助器具はなるべく目立たないようにデザインされてきたものが多いが、その流れも変わりつつある。3Dプリンターや高度な製造技術により、従来よりはるかに柔軟なデザインやカスタマイズが可能となっているのだ。

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3Dプリント技術の発展により、補聴器など補助器具のデザイン・色展開が多様化している。Shutterstock

筋肉の収縮で操作できる義手「Hero Arm」を開発したOpen Bionics社では、3Dプリント技術を使って、ユーザーに合わせたアームのカスタマイズを行っている。また、色や他社ブランドとのコラボデザインなど、機能性とファッション性を融合した製品を提供している。

5. 独自の販売プラットフォーム

製品のデザインだけでなく、販売やマーケティングにもテクノロジーを活用する動きが加速している。Every Human社では、靴を1足から購入できる「Unpaired(ペアでない)」サービスを提供し、左右で足の大きさや形の異なる人、装具を身につけている人のニーズに対応している。サイズや幅のほか、「着脱が容易」「足に装具をつけている人も使いやすい」といった諸条件で商品を検索できる。それほど難しいことには思えないかもしれないが、片足ずつで商品を管理し、どのような機能がついているかをタグ付けするなど、従来の“左右ペア”よりも複雑な注文システムを構築したことではじめて実現できたサービスだ。

多様な人々のニーズに、さらに対応するために

実店舗であれオンラインであれ、自分にぴったりフィットする服を見つけたい思いは障害者も同じだ。テクノロジーのおかげで、アダプティブウェアの種類は飛躍的に増えているが、まだやるべきことはたくさんある。次なるステップは、衣服そのものについてだけでなく、着る人のことや買い物の方法をさらに深めて考えていくことだろう。消費者の幅広いニーズに対応した商品を提供することに、より多くのファッションブランドに目を向けてもらいたいものだ。それを可能にするテクノロジーはすでにあるのだから。

<アダプティブウェアを展開するブランド例>

著者
Louise Grimmer
Senior Lecturer in Retail Marketing, University of Tasmania

Gary Mortimer
Professor of Marketing and Consumer Behaviour, Queensland University of Technology

Jason Pallant
Senior Lecturer of Marketing, Swinburne University of Technology

Jessica Pallant
Lecturer in Marketing, Swinburne University of Technology


※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年12月3日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation

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