百貨店撤退後の建物を老人ホームやアパートに転用する動き

 ドイツでは百貨店業界の低迷が続き、デパートだった建物を老人ホームやアパートに転用する動きが起き始めている。コロナ禍で買い物のオンライン化がいっそう進み、街なかの人出は減り、買い物客がごった返す風景も以前ほどは見られない。今後、この動きに拍車がかかるのだろうかーー。 (ドイツ・ハンブルク『ヒンツ&クンスト』掲載記事より)


「今後、多くのショッピングセンターがアパートに変わるかもしれません。新築よりも断然安くつきますから」と語るのは建築家のヴェルナー・シャファー。ドイツの町レンズブルクの中心部にあった百貨店チェーン「ヘルティー*1」の建物を老人ホームに改築した人物だ。現在、その建物には110人が入居し、都心暮らしを楽しんでいる*2。「玄関を一歩出れば、すぐそこが街なかです」。200メートル先には、多くのカフェが立ち並ぶ歩行者天国がある。


*1 ドイツ最古の老舗デパートだったが、2009年に全54店舗を閉業。
*2 イメージ図

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ヴィルヘルムスハーフェンにあるヘルティーの建物/iStockphoto

1950年代に建てられ、2009年以降は空き物件となっていた建物だった。しばらくは買い手がつかなかったが、2016年にシャファーの息子らが経営する投資グループがこの建物を購入。 老人ホームへの改築費については「企業秘密」だとしたが、それとは別の注目すべき数字を挙げた。デパートの前オーナーは当初、この物件に800万ユーロ(約11.3億円)の値をつけていたが、7年間買い手が現れなかったため、100万ユーロ(約1.4億円)まで価格を下げたのだ。

「デパートを住居に転用する事例は、まだそれほど多いわけではありません」都市開発の研究者ニーナ・ハンゲブルフは話す。博士課程の研究として、ドイツ全土の220の事例を調査したハンゲブルフは、約30のショッピング施設が現在は住居拠点となっていることを明らかにした。ただ、元の建物を改修・改築したものはほんのわずかで、多くはいったん建物を取り壊して、新たに建て直されたものだ。

ショッピングの需要減少を反映してか、小売店の販売スペースも縮小傾向にある。「これまでは高い家賃を負担できた大企業も、これからはワンフロアを確保するのがやっとでしょう」 とハンゲブルフは言う。

パンデミックがこの変化を加速させている。ハンブルクの市街地では、デパート「ガレリア・カウフホーフ」と「カールシュタット・スポーツ」が入っていた建物が、2020年秋以降、空きビルになっている。現在、ガレリア・カウフホーフの1階は特売品店になっているが、この建物が将来的にどうなるかは未定だ。それぞれのオーナー企業に問い合わせたが、具体的な回答は得られなかった。

アフォーダブル住宅に転用した事例も

「大型の建物は、グローバル展開している大企業の手に渡ることが多い」とシャファーは言う。中には、自社のバランスシートを守るため、建物にありえないほどの高値をつけ、何年も空き物件のままで平気な大企業もある。「10億、20億ユーロ規模の資本を持つ企業にとっては、多少の家賃収入減ではびくともしないのです」

そのような状況の中、ベルリン・リヒテンベルク区では、2人の投資家が、デパートだった建物を86戸のアフォーダブル住宅(手頃な価格帯の住居)に改築させる動きを見せた。今後、オンラインでの買い物がいっそう浸透し、街なかで買い物する人が減っていく中で、デパート転用の成功事例は後に続くのだろうか。

By Ulrich Jonas
Translated from German by Jacqueline Lemay
Courtesy of Hinz&Kunzt / International Network of Street Papers








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