スタジオライカの回顧展『隠された世界:スタジオライカの映画』
現在、スタジオライカの回顧展『隠された世界:スタジオライカの映画』がシアトルのミュージアム・オブ・ポップカルチャーで開催されている(会期は2024年夏まで)。デビュー作から、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(2012年)、『ボックストロール』(2014年)、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)、『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』(2019年)、そして現在制作中の『Wildwood』まで、同社の歴史および今後について詳しく知ることができる。
『隠された世界:スタジオライカの映画』Photos by Henry Behrens
主要キャラクターの原寸大パペット、衣装デザインのムードボード(アイデアやコンセプトを紙面やスクリーン上にまとめてコラージュしたもの)、舞台道具などが展示されている。大まかな制作過程は同じでも、各作品の世界観は全く異なることもよく分かる。『パラノーマン』では、魔女裁判で知られるマサチューセッツ州セイラムをモチーフとした舞台を創り上げ、『ボックストロール』では、スチームパンクに影響を受けたレトロな雰囲気を実現させ、『KUBO/クボ』では封建時代の日本を幻想的に再現している。スタジオライカの作品はいずれも、文化面の綿密なリサーチと多大な技術開発に支えられているのだ。
実際に映画で使われたパペットを分解したようすも展示している。Photos by Henry Behrens
スタジオライカの独創性へのこだわり
スタジオライカの倉庫オフィスを「サンタのおもちゃ工房のよう」と表現するのは、ラピッドプロトタイピング部長のブライアン・マクリーンだ。「私たちは、アーティスト、技術者、制作者のために、思いつくかぎりのツールやリソースを用意しています」
会場入口にそびえ立つ『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の巨大ガイコツ。Photos by Henry Behrens
独創性へのこだわりも、展示全体から見て取れる。ストップモーションでは、1秒の映像を作るのに、キャラクターに24の細かな動きを付ける。従来は、クレイメーション(粘土製の人形を使って撮影する手法)や、さまざまな表情の手製の顔を付け外しする“置き換えアニメーション”の手法が用いられてきたが、ライカは『コラライン』から、この“置き換えアニメーション”に、2006年に実用化され始めたばかりの3Dプリンティングの技術を導入した。「『コラライン』はストップモーションアニメで3Dプリンティングを用いた最初の作品です。自分たちで独自に編み出した技術です」とマクリーン。ライカは、以降の作品でも3Dプリンティング技術を使い続けている。
『コララインとボタンの魔女』の家Photos by Henry Behrens
ワンショットごとにオンリーワンの表情
さらに最新作『ミッシング・リンク』では、また別のイノベーションが誕生した。「それ以前は、幅広い表情の顔部品ライブラリをあらかじめ用意し、撮影が始まってから、適した顔の部品をつなぎ合わせて映像化していました。でも『ミッシング・リンク』では、表情に細かなニュアンスを加えるため、“オーダーメイド”の表情をプリントすることにしたのです。つまり、ワンショットごとにオンリーワンの表情があるということです」と、 CG フェイシャルアニメーション主任ブノワ・デュバックが説明する。
『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』のキャラクター、Mr.リンクの制作にデザイナーたちは苦労した。Photos by Henry Behrens
「本展示では、制作工程や技術の進化を感じていただけます。ストップモーションアニメの制作では、キャラクターの衣装や髪の動き、生地のひだや重み、織り地の見せ方など、鑑賞者はほぼ意識しないような、些細なことが重要となるのです」とマクリーン。「パペットだということを忘れさせるほどでないと、観客をストーリーに引き込めませんからね」
脚本をシーン毎に分ける作業、ストーリーボードの作成、俳優との協働など、実写映画と共通する部分もあるが、ストップモーションアニメだからこその検討事項もある。たとえば、パペットの衣装に普通のデニム生地を用いると、画面上では粗くなる。マクリーンいわく「キャラクターのアップを撮ろうとすると、麻袋を撮っているかのように映るのです」。そのため、細かい織り目の薄手生地をデニム風に染めて、アップで撮影してもブルージーンズに見える工夫がなされている。
現実よりリアルに見せるための演出
絹の着物も人間が着れば、カメラがそのなめらかな動きをとらえられるが、パペットが着ると、重力が同じようには働かない。そこでライカでは、厚手の生地を使い、衣装に針金をめぐらせて、絹の動きを再現させた。こうした複雑な作業によって、さまざまな問題解決をはかっているのだ。動きをしっかり把握するため、俳優に衣装を着せてキャラクターの動きを取らせ、撮影することもする。人間がパペットの見本となるのだ。微細な点へのこだわりと骨の折れるプロセスを経ることで、できるだけ現実的かつ自然な世界観を創り出している。毛むくじゃらのキャラクターなど難易度の高いものを構想するクリエイティブチームに、社内で反対の声は上がらないのかと聞くと、「ライカではそもそも、アイデアを否定することがほぼありません」とデュバック。
インタラクティブな展示の中でも特に印象的なのが、カメラを取り付けたミニチュアセット。カメラを動かすと、小さなモデルが等身大となって即時にスクリーンに映し出される。また、ストップモーション動画を作れるコーナーや、ストップモーションが発明された1834年からの流れをインタラクティブに体験できるコーナーもある。
『パラノーマン ブライス・ホローの謎』の重要なシーンに登場したパペット。Photos by Henry Behrens
ライカの次作『Wildwood』(未公開)は、ザ・ディセンバリスツ(オレゴン州ポートランド出身のインディーロックバンド)のリードシンガー、コリン・メロイによる小説を基にした物語だ。この作品でも、いくつもの課題に直面し、イノベーションが必要とされているが、ライカには前進あるのみだ。デュバックはこう締めくくる。「技法に合わせてキャラクターをデザインする、がこれまでの常でしたが、ライカではまず最初に自分たちが語りたいストーリーをデザインし、その後で実現方法を考え出します」
Hidden Worlds: The Films of LAIKA
https://www.mopop.org/laika
Studio LAIKA
https://www.laika.com/
By Vee Hua 華婷婷
Courtesy of Real Change / International Network of Street Papers
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