移民の子どもが200人以上行方不明になっている英国の現状

英国では、移民として、保護者もなく一人きりで英国にたどり着いた子どもたちは、内務省が管轄するホテルに収容されることになっている。だが実際には、その中から多数の行方不明者が出ているという。シェフィールド・ハラム大学の教授で、社会正義を專門とするパトリシア・ハインズが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。


2023年1月24日、移民相は「2021年7月以降に同伴者なしで英国に到着した子ども4600人のうち、200人が行方不明となり、人身売買や搾取の危険にさらされている」と発表した*1。リスクが最も高いのは、人身売買で連れて来られた子どもたちだ。人身売買とは、子どもの自由をうばい、搾取目的で取引・移送することをいう。子どもたちは、英国に到着前も後も、強制労働・性的消費、麻薬の栽培や運搬など、あらゆる方法で搾取されるおそれがある。

CONV_Migrant children going missing_1
Photo by Julie Ricard on Unsplash

2020年にも、人身売買で連れて来られたと特定、または疑いがある子どもの約3分の1(378人)が、自治体の保護下から行方不明となり、搾取されているであろうことが分かっている。元オリンピック選手のモハメド・ファラー(2012年、2016年と2大会連続トラック長距離種目で金メダル獲得)も、9歳のときに人身売買によってジブチから英国に連れて来られ、使用人として働かされた過去を公表している*2。


*1 行方不明となっている子どもの88%がアルバニア人、12%がアフガニスタン、エジプト、インド、ベトナム、パキスタン、トルコ国籍。うち、13名は16歳以下。
200 unaccompanied asylum-seeking children still missing from UK hotels
 *2 Sir Mo Farah reveals he was trafficked to the UK as a child

保護すべき対象のはずが

子どもたちは既存の児童保護システムを通じて保護されるべきで、例外は許されるべきではない。というのも、2021年7月以降、英国に到着する子どもたちは、“一時的”な措置として、規制が行き届かず、十分な監視・保護ができないホテルに収容されているのだ。

子どもの商業的性的搾取の根絶を目指す国際NGO「ECPAT」の報告では、2009年度の時点ですでに、子どもや若者が英国に到着した時点、または自治体の保護下に入った後に行方不明になっている事実が指摘されている。2016年と2022年の報告書でも、同様の事例が記録されている。

子どもたちを助けるには、安全を感じられる環境を用意し、自分たちが虐待や搾取の被害に遭っている事実を他人に伝えられるしくみが重要となる。しかし、人身売買で連れて来られた子どもたちのケースは、児童保護の問題としてではなく、移民問題や刑事司法問題として扱われることが多く、そんなニーズ自体がないがしろにされているのが実状なのだ。

安全を感じるために

筆者とECPATとの共同調査では、人身売買によって連れて来られ、イングランドとスコットランドに暮らす若者31人に、どうすれば生活環境を改善できると思うかを尋ねた。

若者たちはまず、身分証明がない、法的な手続きに長期間かかるなど、英国に入国した際の制度や仕組みに問題があると指摘した。「まだ法的書類がないため自由がなく、刑務所にいるよう」「毎日のように社会福祉事務所に通い、責任者と話したけど、『どうして自分の国に戻らないのだ』と言われるだけ」といった声が聞かれた。

そして、身の安全を実感したい、そのためには宿泊施設、里親家庭など、安全な住まいが必要だと訴えた。一人ぼっちでホテルに滞在していても、当然、安心感は得られない。ある若者は言った。「英国に来た若者は、まず全員保護すべきです。どこに滞在し、どこで教育や医療を受け、どこで友人をつくれるか。そうすれば、安心を感じられます」。人身売買で連れて来られた子どもたちの支援を目的とした特別後見人(independent guardian)がついている若者たちは、ほかの子どもよりも、話を聞いてもらえ理解されていると感じ、安心感を得られていることも分かった。

状況を改善するには、政府やソーシャル・ケアは、子どもたちを中心に据えたサポートを行い、子どもたちにどんな過去があったかを把握すべきである。子どもたちには、 声を聞いてもらう権利、意思決定に参加する権利、自分の人生を切り拓き、社会に貢献する権利がある。この原則に基づいて、支援を提供するべきだ。「わたしたちは将来、政府から受けた援助に報いるつもりです。若者たちも支援者たちも、そのことを頭に入れておいてほしい」との声もあった。子どものケアに関わる人々が、子どもたちの声にしっかりと耳を傾け、安全を守る必要がある。

今回の調査によって、子どもたちの人生にポジティブな変化を起こすうえで必要なものへの理解が深まった。そこで筆者たちは、「ポジティブ・アウトカム・フレームワーク」を編み出した*3。「私は目標を達成し、夢を見つける」「私は安全だと感じる」といった「25の結果」と、それらを達成するための86の指標(「若者は職業訓練と英語講座を同時に受けることができる」「子どもたちが安全ではないときにどこに行けばよいのか、誰に相談すればよいのか答えられる」など)を定めたのだ。次なる課題は、このフレームワークをどう実践に移していくかだ。

01
Positive Outcomes Framework (1 page version) (PDF, 712.3KB)
*3 Creating Stable Futures: Positive Outcomes Framework

一人で英国にたどり着いた子どもたちも、英国で生まれ育った他の子どもたち同様、若者として扱われるべきである。実に困難かつ複雑な問題ではあるが、子どもたちの安全と幸福のため、まずは彼らの権利とニーズを理解し、事態改善に向けてアクションを起こす必要がある。

By Patricia Hynes
Patricia Hynes is professor of social justice at Sheffield Hallam University.
Courtesy of The Conversation / International Network of Street Papers








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