身体障害や発達障害のある学生に“合理的配慮”を。大学でのダイバーシティの取り組み(英国)

身体障害のある学生ならびにニューロダイバーシティ*1の学生への教育支援について、英国サリー大学で障害・インクルーシビティ責任者を務めるルイーズ・バデリーに『ビッグイシュー・ノース』が話を聞いた。


*1 ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠陥多動性障害)、LD(学習障害)など、発達障害を神経や脳の違いによる「個性」だとする概念。

『ビッグイシュー・ノース』:あなたは大学内でどんな役割を担われているのですか?

ルイーズ・バデリー:サリー大学内の障害・ニューロダイバーシティサポートチームの責任者として、20名のスタッフとともに学生の支援にあたっています。身体障害者、精神疾患、自閉症、聴覚や視覚に障害があるなど、何かしらの疾患がある学生たちが対象です。疾患や障害によって学業にどんな影響があるかに着目し、どういうサポートや配慮があれば取り組みやすくなるかを、当事者とともに考えます。教授や大学スタッフから、学生のサポート方法について助言や指導を求められることもよくあるので、彼らとも連携しています。私の役割は、それら全般を監督し、2010年に成立した平等法*2(Equality Act)に則った支援ができているかをチェックすることです。

*2 既存の9つの差別禁止法を整理・統合した法律。年齢、障害、性適合、婚姻及び市民的パートナーシップ(同性婚)、人種、宗教・信条、性別、性的指向を理由とする差別を禁止している。

ーー 具体的にはどんなサポートを?

幅広いサポートを行っていますが、中心となるのは、多くの大学と同じで、障害学生手当(DSA:Disabled Students’ Allowance)の申請支援です。障害学生手当とは英政府による資金援助で、これを受けられれば、たとえば失読症の学生は週に1回、失読症專門のチューターの個別セッションが受けられ、学業の進捗を見てもらうことができます。
車いす利用者のための高さ調節機能がついたデスクなど、アシスティブ・テクノロジーと呼ばれる機器にあてることもできます。

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SeventyFour/iStockphoto

申請手続きはかなり複雑なので、その全工程をサポートし、手当を受けられることになれば、きちんと支援が実施されているかどうかまでフォローします。留学生など障害学生手当の対象とならない学生たちも同レベルのサポートが得られるよう、大学側で負担できる費用はないかなどを見ています。

私たちの活動のもう一つの柱は、「合理的調整(reasonable adjustments)」の実施です。 合理的調整とは平等法に定められた用語で、法的要件が定めされています。
たとえば、試験時間を25%延長する、試験を別の場所で受けられるようにする、視覚障害者には印刷物のフォントを大きくするといったようなことです。学生たちの学習効果を高めるためにはどんな調整が必要かに目を向けています。

ーー障害のある学生が利用できるサポートは増えているのですか?

ここ何年もの間に大きく変化し、サポートはずいぶん広がったと思います。私が大学で働き始めた20年前はもっと支援が限られ、アカデミックな分野に偏っていましたが、近年は、学生がクラブや社会活動に参加したいかどうかにも目を向け、障害によってそうすることに困難があるなら、どうすれば参加しやすくなるかを一緒に考えます。自閉症の学生、精神疾患がある学生への支援もかなり増えました。

ーー教育システムをよく調べると、大学生はそれまでよりも支援が受けやすくなっているように感じます。

ハイスクール(11~16歳)やカレッジ(16歳以降)と比べると、大学はかなり手厚い財政支援を受けられるので、厳しい予算内でやりくりしなければならなかったそれまでと違い、提供できる支援も幅が広がります。ひとえに財源の問題なのです。相談に訪れた学生たちに、利用できるサポートについて説明すると、よく驚かれます。

ーー政府の高等教育や国民健康サービス(NHS)への予算削減方針の影響はありますか?

高等教育における主な変化は、障害学生手当が少しずつ削減されていることです。2014年と現在では、状況が大きく異なります。政府は毎年のように財源を減らしておきながら、支援は行わなければならないと言ってきます。つまり、大学は自腹を切る必要があるのです。各大学が置かれている状況によって、リソースに恵まれている大学とそうでない大学があることが大きな課題です。

国民健康サービスへの予算削減については、各分野ともに厳しい予算状況ですが、とくに大きなインパクトをもたらしているのは精神疾患関連です。以前は、リスクの度合いに関係なく、精神疾患者に十分なリソースがあてがわれていたのに、今は、とても状態の悪い、自身や他者に深刻なリスクをもたらしうる、非常に重度の患者向けのリソースしか割り当てられていません。そのため、NHSからの支援を受けられない学生へのサポートは大学に任せられがちで、それが大きな課題となっています。というのも、私たちの役割は学生が学業に専念できるようサポートすることであって、精神疾患を治療することではありませんから。支援サービスの一環として精神疾患の専門家を置くことにお金をかける大学が増えています。予算削減のためにNHSが手を引いた分野のギャップを埋めるために…。

ーー障害のある学生へのサポートにおいて、今後どんな変化が必要だと思いますか?

もし大学側の対応を徹底的に見直せたなら、学生には今ほど多くの支援が必要とならないでしょう。

たとえば、試験時間の延長や、別の場所で試験を受けられるようにしてほしい学生はたくさんいます。しかしコロナ禍では、大学はまったく異なる試験の実施方法を編み出す必要に迫られました。多くの試験がオンラインで受けられるようになり、24時間以上かけてもよくなり、インターネットや自分のノートも見ながら試験を受けられるなど、それまでとはまったく異なるスタイルで試験が行われました。試験を受けるにあたって“調整”を必要としていた学生の多くが、もうその必要がなくなったのです。

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Image: Josefa nDiaz on Unsplash

“インクルーシブな教育制度”についてよく議論されますが、教育はインクルーシブであればあるほど、合理的調整を実施する必要がなくなるのです。ですから状況をよくするために、わたしが目標としているのは、学生への教授方法、ならびに学生の評価方法をできるかぎりインクルーシブなものにし、学生側に無理を強いなくてもよい状態にすることです。その一つとして、試験の実施スタイルの見直しがあります。試験を受ける日を指示する一律的なやり方ではなく、口頭でのプレゼン、エッセイ執筆など、いくつかの評価方法から生徒が自分に一番合うと思えるものを選べるようにする。それが、“インクルーシブ教育”の目指すべき姿です。

サリー大学の障害・ニューロダイバーシティ支援(英語)
https://www.surrey.ac.uk/disability-neurodiversity

By Flynn Rodgers
Courtesy of Big Issue North / International Network of Street Papers








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