米国の音楽教育における5つの変化

学校での音楽の時間といえば、大人数での合唱やクラシック音楽を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、それも時代とともに変わりつつある。米国の音楽教育には、1920年代に吹奏楽が取り入れられ、1950年代にマーチングバンド(行進しながら楽器を演奏する)が広がるなど、これまでも大きく変化してきた。そしてさらに、近年起きている変化によって、幼稚園から大学まで、より多くの学生たちが学校や地域の音楽活動にかかわるようになっている。サウスフロリダ大学のクリント・ランドルズ准教授が『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。


音楽教育を専門とする筆者は、楽団、合唱団、オーケストラの枠を超えた新しい授業のあり方について研究を続け、書籍を出版している*1。そんな筆者が心からワクワクしている、米国の学校で起きている音楽教育の5つの変化を以下にまとめる。

*1 近著『Music Teacher as Music Producer』(2022年11月刊行)

1. 学生音楽ユニットを結成し、作曲・演奏

2021年、フロリダ州は高校生向けの「ポピュラー・ミュージック・コレクティブ」を提供する最初の州となった。オーディションで選ばれた学生たちが、歌手、ドラマー、ギタリスト、DJ、ベーシスト、キーボーディストなどから成る音楽ユニットを組み、オリジナルの音楽を制作し、さまざまなジャンル(ヒップホップ、ポップス、ロック)の音楽を演奏する試みだ。

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音楽教育が進化し、ヒップホップなどのジャンルも学べるようになってきている。
Maskot, Maskot Bildbyrå AB/Maskot via Getty Images

2023年には、ミズーリ州も同様のプログラムを始めた。オーディション用の動画を送り、選ばれた学生たちが約15人編成のバンドを結成。一緒に楽曲制作に取り組み、州の会議場などで演奏する。今や、15の州で同様の学生向けプログラムが実施されている。

また、ヒップホップを学べる大学も増えている。南カリフォルニア大学、マイアミ大学、ベルモント大学をはじめ、筆者が教鞭をとるサウスフロリダ大学でも、ポップス、ロック、カントリーなどに加えて、ヒップホップ音楽のプログラムが提供されている。

2.大人数のクラシック演奏から、より多様なパフォーマンスへ

20世紀、学校の音楽の時間は、大人数から成る合奏団でクラシック音楽を演奏することに力を入れていた。1990年代になって、マーチングドラムや旗手から成るドラムラインや、現代的な楽器編成を取り入れた、より複雑で演劇的なマーチングショー*2が登場し、どんどんとスタイルを拡大させていった。

*2 About Drum Corps International(YouTube)

そして近年、北米各地の学校で登場しているのが「モダンバンド」だ。これまでの楽団よりも小規模で、ベースやギター、キーボード、ボーカル、コンピュータなど現代的な楽器編成をとり、ターンテーブルやエフェクターを使用することもある。まるで学校外の、プロの音楽世界さながらである。

3.学生一人ひとりに目が届く人数で

過去100年のほとんどの間、米国やカナダの音楽教師は、100名を超えるような大勢の生徒をいかに指導するかに力を入れてきた。200名を超えるマーチングバンドの指導にあたった教員たちもいる。

音楽教師たちも1クラスの生徒数は多い方がよいと考え、教育学的にも、大勢の生徒たちをいかに効率的に教えるかを基本としてきた。しかしこのやり方では、生徒一人ひとりの発言や自主性をそぐおそれがあるため、近年は、生徒たちの創造性を育みやすく、より柔軟性の高い演奏を引き出せる小規模の楽団編成が好まれるようになっている。

4.テクノロジーを駆使した演奏

近年の音楽教育は、提供・演奏の両方でテクノロジーが欠かせない。従来の大規模バンド演奏では、録音スタジオのミキシングコンソールの操作方法を知る必要はなかったが、小さいバンドやポピュラー音楽では、ミキサーやいろんなデジタル機器の使い方を理解することが重要である。

ビートの効いたロック音楽や重層的な環境音楽の制作で人気なのが、MASCHINEやPUSH*3 といった音楽制作機器だ。ゲームや映画で耳にしているような音楽を自分でも作ってみたいと考える学生たちのニーズに応えている。

*3 Introducing Push 3: An expressive standalone instrument(YouTube)

DJが持ち運んでいたようなターンテーブルやレコード群も 、ハードウェア機器に取って代わられている。ステージや舞台裏で鳴らす効果音も、プロの音楽現場で使われるものと遜色ないものとなっており、そうした流れが音楽教育にも波及している*4。

*4 MUSIC MAKING IN THE 21ST CENTURY MUSIC CLASSROOM

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ヒップホップやロック音楽の制作・録音ができる高校も増えている。
Witthaya Prasongsin/Moment via Getty Images

5. 演奏の録音

約150年前から人は音楽を録音し始め、以来、音楽の録音それ自体が一つの芸術として発展してきた。
ミュージシャンの仕事は、「演奏」と「録音」、大きく2つから成る。「演奏」はもちろん学校の音楽でも取り入れられてきたが、「録音」はつい最近まで、学生が行うものとはされてこなかった。
しかし、この20年で、デジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)を使って、生徒たちの音楽を簡単に録音できるようになった。今や、録音スタジオが併設された学校も珍しくなく、商業的な音楽が学校の音楽教育に入り込んできている。

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録音スタジオを併設する学校も増えている。
Hill Street Studios/DigitalVision via Getty Images

現状、高校生のおよそ5人に1人が音楽プログラムを履修し、そのほとんどは従来からの合奏、合唱団、オーケストラ活動に関わっている。しかし上記のようなかたちで音楽教育が進化し続け、より生徒にフォーカスがあたり、生徒たちが好む音楽に寄り添ったものとなっていけば、今後そのあり方は変わっていくだろう。

著者
Clint Randles

Professor of Music Education, University of South Florida


 ※本記事は『The Conversation』掲載記事(2023年9月26日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation