自閉症と音楽教育/高機能自閉症の息子3人を音楽家に導いた教師が語るエピソード

 自閉症の子どもの多くは、自分の気持ちの表現が得意ではない。だが、音楽表現であれば、自閉症の子どもたちも楽しむことができる。楽器の演奏などに早い段階で興味を示す子どもが多いと示唆する研究もある*1。長年、音楽教師として自閉症の子どもとかかわり、サウスフロリダ大学の博士過程で音楽教育について研究中のドーンR・ミッチェル・ホワイトによる『The Conversation』への寄稿記事を紹介しよう。


Matthias Böckel
Matthias Böckel/pixabay

*1 参照:Research on Music and Autism Implications for Music Educators(1999)
Music is a Powerful Tool for People With Autism(2018)

感覚刺激への敏感さが音楽理解に役立つ

筆者は2003〜2018年まで、フロリダ州タンパでK-12(幼稚園~高校まで)の学習障害や発達障害のある生徒のための芸術学校「センター・フォー・エデュケーション・スクール・オブ・ザ・アーツ・アンド・サイエンス(Center for Education School of the Arts and Sciences)」を運営していた。この学校では全員が個人レッスンで楽器を学びながら、コンサートバンド、ミュージカル劇、ジャズバンド、室内楽などの「音楽グループ」に参加する。自閉症の子どもたちが音楽を学ぶことで示す、音楽的および感情的な成長ぶりには驚くべきものがあった。

例えば、うまく話しはできないものの、ハミングが上手な生徒がいた。彼女はさまざまなメロディーをハミングすることで、その時々の感情を表現していることが少しずつ分かってきた。ハミングしている時の彼女の眼差しは、常に感情を物語っていた。

アスペルガー症候群の別の生徒は、ピアノと作曲の個人レッスンを受けていた。彼は自分の気持ちを言い表すことが苦手だったが、悲しい日には、その気持ちを表現した自作の曲を弾いた。同じように、幸せ、怒り、寂しさを表現する曲も作っていた。

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音楽で感情を表現することを学ぶ自閉症の子どもたち
Jeff Wheeler/Star Tribune via Getty Images

自閉症の子どもは他の子どもよりも感覚刺激に敏感で、そのために音楽に込められたシンプルな感情と複雑な感情の両方が理解できることが複数の研究から分かっている*2。ときとして自閉症の子どもに並外れた音楽の才能を示す者がいるのは、このためかもしれない。感覚刺激への敏感さが特に活かされるのが音楽なのだ。

「日常的な感情」と「音楽的感情」では理解の仕組みが異なる。表情や声のトーンといった「日常的感情」の要素は、自閉症の子どもにとって見分けるのが難しいが*3、「音楽的感情」はそういった要素が必要ないため、日常的な感情よりも理解しやすいと考えられる。

*2参照:Music: a unique window into the world of autism(2012)
*3 参照:Impaired detection of happy facial expressions in autism

日々の学習に音楽を取り入れる

音楽が自閉症の子どもたちにプラスの効果をもたらす方法はいくつかある。歌を使って、自閉症児の発話力を強化することが可能だ。単語カードを見ながら歌を歌い、語彙力をつけるのもよいだろう。言語発達に遅れが見られる自閉症児は、歌うことで言語能力を大きく伸ばせることを示唆する研究もある。

音楽を使って、メロディーやリズムなどの音と結びつけて大切な情報を覚えるのもよいだろう。音楽を利用して、生徒の集中力を高める、障害のある生徒に記憶する、ストレスから生じる不安を軽減させることが可能と示した研究もある。また、音楽に対してポジティブな情動反応を示すチャンスを用意することで、自閉症児の社会的または言語的な目標を達成しやすくなるともされている。

音楽的要素を1つずつ足すステップが大切

音楽には、ピッチ、メロディー、ハーモニー、リズム、音色、曲の構成、テクスチュア(音の基本的な組み合わせ方)、表現などさまざまな要素があり、子どもたちが音楽を聴くときにも、これらの要素が組み合わさっている。ただ、自閉症の子どもは聴覚過敏のため、日常の音に対する耐性が低く、やかましい音や複雑な音楽の処理が難しい場合がある。

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globalmoments/iStockphoto

そのため、音楽要素を分けて、単純化するとよいだろう。例えば、歌から始める場合、最初にピアノで音程だけを教え、生徒がこれに慣れてきたら、他の要素を一つずつ足してゆくのだ。ある要素が子どもにとって難しすぎる場合は、その要素を取り除くといった風に。すべての要素を受け入れることができたなら、それはその子どもが音楽全体を聴けていて、より難易度の高い音楽に移行する準備が整ったというサインだろう。この方法を用いることで、教える側も、子ども本人も、どんな要素なら受け入れられるかが分かりやすくなる。

オンラインを活用した音楽の学び

自閉症の子どもが使える、楽しいオンラインプログラムも多数提供されている。おすすめのサイトをいくつか紹介しよう。

オーケストラで使う楽器(カーン・アカデミー提供)
オーケストラに登場する各楽器やオーケストラ編成について学べる。各楽器ができることを知り、音楽で感情を表現する方法について理解できるようになるだろう。

Chrome Music LabEasy Music (iOS版)Easy Music (Android版)
音楽的要素を少しずつ追加し、それぞれのペースで学習がすすめられる音楽学習アプリ。

YousicianFlowkey
高学年の子どもには、オンラインで音楽レッスンが受けられるこちらのサイトがおすすめだ。

なかなか自分の思いを言葉で伝えられない自閉症の子どもたちも、楽器を使えば感情を表現しやすくなるかもしれない。筆者自身にも、高機能自閉症の3人の息子がいるが、幼い頃から音楽に触れさせ、それぞれがファゴット奏者、フレンチホルン奏者、バリトンホルン奏者として感情を伝えることを学んできた。皆さんの自閉症の生徒や子どもたちとの取り組みがうまくいくことを願っている。

ピアニストとして活躍している自閉症で全盲のレックス・ルイス・クラック

著者
Dawn R. Mitchell White
Doctoral Candidate, University of South Florida

THE CONVERSATION

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2021年4月9日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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